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ガラスの向こう側に復元された恐竜の卵が展示されていた。卵には幾何学的な模様が入っていて、それに見入りながらぼくは考え込んでいた。なんのためにこんな模様が入っているのだろう。なにかしらの目的があるとして、だれがこのような模様を考え出したのだろう。実際にこの模様が浮かび上がってくるためにどんな作業があるのだろう。いつどのタイミングでそれは行われるのだろう。そしてそのための技術はどこで磨かれたものだろう。考えるだけ損になるような問いではあったが、その問いには不思議な魅力があった。時間を忘れて考え込んでいると、目の前の卵にヒビが入った。卵は50センチくらいある大きなものだったからそのヒビは見落としようがなかった。まわりにはもう誰もいなかった。学芸員も警備員も来場者も誰もいなくなっていた。どうしたらいいかなと思ったけど、忠実に実物を再現したとはいえこれも所詮は人工的に復元された模造の卵だ。仕上げかなにかが足りてなかったのだろう。そう結論づけて立ち去ろうとすると、卵が割れて中から卵の大きさにまるで見合わない小さなトカゲみたいな生物が這い出してきた。そしてぼくの見ている前で次々と変態を繰り返して、最終的にヒト科のオスとなった。7歳前後の男の子だった。彼はなぜか服を着てぼくを指差していた。彼の背後から上品な装いをした30歳前後とみられる女性が現れた。気がつくとガラスの向こう側に博物館は広がっていて、ほかの客もそれなりに入っていた。まさかと思ったときには手遅れだった。ぼく自身が展示物にされていた。

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