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本当に唐突な出来事だった。コンビニを出たら車が突っ込んできたのだ。しばらく意識を失っていたが気がつくとおじいさんにエスコートされて安い居酒屋に入るところだった。中では顔を赤くしたおじさんたちが焼き鳥を食べながらテレビを見ていた。おじさんたちはやけに興奮してわたしを歓迎してくれた。言われるがまま席に着いた。テレビにはわたしが車にぶつかって倒れる姿が繰り返し放映されていた。「これ、なんですか」と聞いてみると隣に座っていたおじさんが「きみが死んだときの映像だよ」と何でもないことのように言う。この動きたまんないねえ、表情が最高なんだよなあ、などとおじさんたちは口々に映像のわたしを褒めるのだが、何がいいのかさっぱり理解できない。「てか誰が死んだの、わたしここにいるんですけど」と思いつつ、チャンネルを変えた。自分が事故に遭って変な形になってるとこなんか見たくない。嫌いな女が変な顔をして死んでいく様子が映った。あっ、すごく良い表情。嫌いな女が変な顔をしていると嬉しくなるってことを知った。

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