久保史緒里と早川聖来の「約束」

 2023年7月13日、早川聖来の卒業セレモニーが開催された。卒業する早川に向かって久保史緒里は、「約束」を守れなかったことを謝った。その光景は、あまりにも痛切だった――

久保 (前略)昔、一緒に、途方もなく砂浜まで何時間も一緒に歩いて、グループのこととか、聖来ちゃんのこととかいろんな話をしながら歩いた時に、年下のくせに、カッコつけて、「いつか絶対、頑張ってたらいいことあるって、私が証明するから、それまで待ってて」って、自分から言ったのに、そんなカッコいい先輩らしい姿も見せられなくて、すごく時間がかかっちゃって……守れなくてごめんね。(中略)私も、まだ証明できてないけど、頑張ってたらいいことあるよって、絶対証明するから、それまで、その先も、ずっと親友でいてください。卒業おめでとう。

のぎ動画, "早川聖来 卒業セレモニー@真夏の全国ツアー2023 大阪公演”[0]

真面目を貫いてきた久保史緒里

 その「約束」について考えるために、少し昔に戻ってみよう。時は、久保史緒里が乃木坂46での活動を開始した当初にまで遡る。

 久保は、真面目だった。
 大園桃子は、「『プリンシパル』期間中、久保ちゃんは誰よりも早く来て声出しをしていたり、歌の練習もずっとしていたりして、すごいなって思ってた」と言い、「いままで会ったことないタイプの子ですか?」と聞かれて「ないない! こんなに真面目な人」と語っていた [1]。また与田祐希は久保について、「3期生で一番努力家だと思う。あと真面目です。こんなに真面目な人を見たことがないぐらい」と話していた [2]。
 あるいは『3人のプリンシパル』で演出を務めた徳尾浩司氏が久保に渡した手紙には、「久保は『自分に個性が無い』と言うけれど、それだけ努力できることを個性と呼ばずに何と呼ぶんですか」と書かれていたという [3]。

 そして久保自身も、その真面目さの力を信じていた。

久保 よく「真面目にやっている人が損する」って言われるじゃないですか。
――アイドル界隈ではよく聞くフレーズですね。
久保 でも、私は真面目さしか取り柄がないでんです。だから、この真面目さでこの世界になにかを残して、「真面目」の概念を覆す存在になりたくて。止まらない人でありたいです。
――止まらない人!?
久保 限界を知らない人。そんなに大きな口を叩ける立場ではないんですけど、乃木坂46のなかで伝説を残せるような人になりたくて。この真面目さだけで、上が見えないところまでいきたい。自分を貫き通して、坂を登っていきたいです!

BUBKA 2017年10月号 [4]

 久保自身、キャリアを重ねる中で、考えが変化した部分もあったようだ。

 その一つが、「同期に対して価値観の違いさえ愛おしいと思えるようになった」 [5]ことだ。
 彼女は乃木坂46に加入する前、バトミントン部の部長を務めていた際に、真面目すぎる性格から部員に厳しく接しすぎて、孤立してしまったことがあったと言う [6]。そして乃木坂46での活動においても当初は、「部活と同じ頑張り方をしたんです。で、上手くでいかなかったんです。『何でもっと熱くなれないんだろう』って、暑苦しい女だったんですよ。『もっとちゃんとやろう』とか『集まって話し合おう』とか言っちゃってて。」と語る [7]。「それが『正しい』とか『正しくない』じゃなくて、自分の考えているものがすべてだったから、相手が自分の頭の中にない言動をすると受け入れられなかったんです」とも述べている [5]。
 そして、「3期のみんなといると自分が間違っているように思えて、一緒にいるのがすごく苦しかった」のだと言う [8]。そのような状況が、2018年の休養へと繋がっていく [6] [7]。

 しかしそのように振り返ることができるほど、久保は価値観の違いを認められるようになった。2021年末のインタビューでは、「ここ数年になってようやくみんなの価値観を認められるようになって。今振り返ると、当時の自分のやり方も間違っていなかったし、みんなの考え方も正解だったんだなと思います」と語っている [8]。違いを肯定できるようになったことで、他者のことも自分のことも肯定できるようになっていた。そして、「乃木坂46の好きなところ」を聞かれて、「みんな違うところ」と答えるまでになった [8]。
 (この辺りの経緯については、2023年7月に発売された『久保史緒里1st写真集 交差点』 [6]にまとまっているのでぜひご購入ください!)

 一方で、久保の真面目な部分は、確実に周囲から評価されてもいた。
 『B.L.T. 2019年6月号』で与田は、「久保ちゃんは努力家。しかも目指すところが高いから追求心がすごいです。(中略)23枚目の振り入れの時も、私から見たらできているのにずっと残っていたよね」と言う。久保曰く、「気付いたら誰もいなくなって、ぶっ通しで7時間、練習していた」とのことだ [9]。
 また『乃木坂46新聞2022』では梅澤美波が、久保について「真面目なところを自分でコンプレックスに感じることも多分あると思うんだけど、誰が見ても正しいと思えるから真夏さんから名前が出るわけで。そういう姿は初期から変わらず、すてきだと思います」と語っている(※ 当時キャプテンの秋元真夏が「梅ちゃんと久保ちゃんに助けられてる」としばしば発言していたことを踏まえてのコメント) [10]。
 あるいは田村真佑は2022年に発売された『N46MODE vol.2』で、久保について「どんなことにも真面目にきちんと対峙するところを尊敬しています。 仕事への姿勢は本当に見習いたいです。 ドラマ、モデル、ラジオなど、いろいろな活動すべてがちゃんと高いレベルで達成できていて、本当にすごいんですよ」と述べている [11]。

 そしてもう一つ変化があったのが、自身の真面目さに対する向き合い方だ。
 かつて「この真面目さだけで、上が見えないところまでいきたい」[4]と述べていた久保はしかし、『EX大衆 2019年2月号』で「私は真面目な自分が好きじゃなくて。そんな自分を許せるようになったら視野が広がるんじゃないかな、とは思ってます」[12]と語るなど、その真面目さには悩んでもいた。そのような状況については先に見た通り、価値観の多様性を認められるようになったことで、ある程度は解消していったのかもしれない。

 ただし時が経った『EX大衆 2021年10月号』では、「アイドルは隙がある方がいいじゃないですか。(中略)でも、私には難しくて。努力だけでどうにもならないことがあると知って、5年目にして悩んでます(笑)。(中略)でもそのおかげで、5年間、全部が努力でどうにかなると思っていたから苦しかったんだ、と気づくことができたんです」[5]とも話している。
 これは解釈が難しい言葉だ。当然、どうにもならないことはあるだろう。それを認められるようになったのは、彼女にとっては確かにプラスに働きそうだ。しかし一方で、真面目を貫きたいという思いはどこにいったのだろう。
 その答えのヒントになるのが、『B.L.T. 2023年3月号』 [13]のインタビューだ。「この2年ほどで自分のことを好きになれた」と語る久保は、「2年で自分の何が変わったか」と問われ、「すごくプラスな意味で、諦めがつくようになった」と答えている。そして一方で、「変わらなかったこと」を問われ、「諦めないこと。矛盾しているけど(笑)。諦めがつくようになったけど、諦めないところは諦めない」と答えてもいる。
 だから先の言葉は、「努力だけでどうにもならないこともある」という諦めがつくようになったのと同時に、「最大限努力でどうにかしたい」という諦めなさが含まれているのではないだろうか。

 あるいはそのような想いの中で、2022年2月に『乃木坂46のオールナイトニッポン』パーソナリティに就任したと同時に、自身の不真面目な部分を見せたいという発言がしばしば見られるようになる。同ラジオの3月2日放送回では、「『真面目』という型に自分からハマりに行っちゃったことで、本当の自分を出す場があまりなかったので、(パーソナリティに選ばれて)嬉しかったです」とも語っていた [14]。
 「この真面目さだけで、上が見えないところまでいきたい」 [4]などと宣言を続けることで、彼女が本来持つ真面目さ以上に、自身を真面目キャラとして縛り付けてしまっていた部分もあったのかもしれない。仕事に対しての「真面目さ」と、ベッドで食事をとるような私生活での「不真面目さ」は当然ながら両立するものだが、彼女は後者の部分を隠してしまっていて、「これまで知られたくない部分を隠している息苦しさはあった」[15]ようだ。

 しかしそのように葛藤し、私生活の「不真面目さ」のアピールを続ける一方で、努力が報われる手応えを得はじめたことも重なり、彼女は仕事への「真面目さ」を貫きたいという気持ちに回帰してくる。

『アイドル』という限られた時間。
努力しない選択肢はありませんでした。
歌も、ダンスも、お芝居も、表現も、
トークも、人柄も、何もかも全部。
少し前までは、
未熟さこそがアイドルとしての
魅力だと思ってました。
でも違う気がする。
努力次第で幾らでも
人は成長できると知りました。
 
だから私は、
どこまでも広げていきたいです。
器用貧乏と言われたことがあります。
それでも良いではないですか。
今はただ、アイドルとして、
全部に一生懸命でありたい。
 
アイドルとしての全てが終わった時、
ひとつの行動にも後悔が残らない
アイドルとしての生き方がしたい。

「今日は21歳のお誕生日です。」乃木坂46 久保史緒里 公式ブログ [16]

久保史緒里と早川聖来

 前置きが長くなってしまった。ここからは、そんな久保史緒里と早川聖来の関係性について見ていこう。

 久保は2017年末に発売された雑誌で、「『マジメな人は損をする』っていうけど、『マジメな人がマジメなままで上っていく姿を見せたい』って思ったんです。私と同じようにマジメに頑張っている人のために」と語っていた [17]。

 後輩の早川は、そんな「私と同じようにマジメに頑張っている人」だった。早川は、久保のアイドルとしての姿勢に傾倒していく。
 例えば、『乃木撮 VOL.03』では「まだ知られてないメンバーの意外な一面は?」というアンケートに対して久保の名前を挙げ、「何でも器用にこなすイメージがあるけど、ものすごく努力家。自分ができるようになるまで時間と労力を惜しまない姿がかっこいいなって思います」 [18]と述べている。また、『anan 2023年6月7日号』では「”推しメン”は誰?」というアンケートに「久保史緒里さん。私の中での完璧アイドルだから」と答えている [19]。あるいは『乃木坂工事中』では久保が、早川について「『史緒里ちゃんはすごいんです!』と私のことを語りながら泣き始めて……すごい慕ってくれている」と明かしていた [20]。
 そしてそんな早川は、「自分はまじめっていうアピールをしたいわけじゃないけど、地道にコツコツやってることを見てくださる方もいるし、『その姿に元気をもらった』って言ってくださる方もいるので。見てくださる方や、同じまじめな方たちのためにも、頑張りたいです!」と語っている [21]。久保とそっくりではないだろうか。
 ※ 早川の真面目な性格の詳細については先日別記事を書いたので、そちらを参照されたい。

 そんな久保と早川が仲を深めるきっかけとなったのは、『乃木坂46版ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」2019』での共演だった。
 久保は、セラミュで共演した早川と田村真佑について、「(前略)人として好きだということをふたりが何回も伝えてくれたんです。その時期の私は自分に自信がなかったし、グループの中でうまくいかない時期でもありました。そんな私を引っ張り上げてくれたのが、早川と田村だったんです。後輩に救われるときが来るなんて、びっくりですよね。ふたりが私を救ってくれたから、私も何があってもふたりのことを絶対に守るって決めました」と語っている [22]。そしてそのことを、乃木坂46での活動の中でターニングポイントになった時だと振り返る [6] [22]。

 そして早川にとっても、久保との出会いは大きかった。彼女は、「久保さんとは、一番仲良くなった先輩です。私がお休みしている間も、心配して会ってくれたりもしていて。久保さんと私は、根本的に似ているのかな。だから、他の人にはわからない悔しさやつらさをわかってくれるのかもしれません。そういう面でも、セラミュ(『ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」』)があってよかったなって思います。本当に、そこで仲良くなれたので」と話す [22]。

 例えばある時早川は、「“なんでも出来るほう”が良いと思ってたけど、“出来ないほう”が応援したくなるんじゃないか、と悩んだんです。完璧にやりたい気持ちと、出来ないほうが良いのか、なにが正解かわからなくなってしまった」という[23]。
 そんな時にアドバイスをくれたのが、自身も同じような悩みで葛藤していた久保だった。早川は、「3期生の久保史緒里さんが、『出来ないことでうまく転ぶこともあるけれど、きちんと出来たほうが、絶対に周りから認めてもらえて、得るものも大きい』と言ってくださったんです。そこで吹っ切れました。ちゃんとコツコツ努力をして成果を出したほうが良いとはっきりわかったので、今は自分の出来る限りの精一杯を積み重ねて、結果を出していきたいなと思っています」と述べている [23]。

 自己へのハードルの高さからか、自己肯定感を持てずに苦しむ姿も、彼女たちは重なって見える。
 早川は、2022年のインタビューで、「自己肯定感を高めていきたい」と語った上で、現状の自己肯定感について問われた際には「持ちたいし、持とうとしているけど持てないから、ちょっとつらいなっていう気持ちも、正直あります」と心境を吐露していた [24]。そして、「『自分のことを好きになる』ということを2022年の目標にしています」とも述べていた [25]。2023年に発売された『anan 2023年6月7日号』でも、彼女は自身の魅力を聞かれた際に「私自身が私の魅力に気づけないのですが、私のことを好いてくれる人が私の魅力の一部なのは間違いないです」と答えており [19]、十分な自己肯定感を持てていないように映る。
 久保は、2023年の今となっては、「(『僕は僕を好きになる』の期間で)自分のことを好きになれた」「この2年ほどっていうのは、もしかしたら自分のことを好きになるまでの過程だったのかもしれない」と振り返るが [13]、自己肯定感を持てないことに長く苦しんだ歴史があった。『BUBKA 2019年3月号』では「自分を好きになりたいです。愛してあげたいと思います」と述べ [26]、『EX大衆2020年12月号』では「(かつて先輩の衛藤美彩に)『自己肯定感が低すぎるよ。もっと自信を持ちなさい』と言われたのに、変われた姿を見せられないまま卒業されてしまって……」とその悩みを吐露していた [27]。
 まるで久保は、早川の一歩先を歩いているかのようだ。

 あるいは、「自分で選択をするということの重要性」に対する気づきも、彼女たちはそっくりだ。
 久保が2018年に休養に至った原因の一つは、自分への自信の無さと、周囲への気の使い過ぎだった [7]。そんな折、北野日奈子には「もっと自分を愛せ。もっと自分を大切にしなさい。自分の人生の舵を手放してるよ」と言われ、新内眞衣には「あんたは自分の食べたいものを食べなさい。(中略)そういうところから始まるんだよ」と言われたという [7]。あるいは衛藤美彩にも、「自分をほったらかして、他人を優先してしまうから、言ってしまえば自分の人生の舵を手放してしまっている」「だから、もっと自分の人生を生きなさい」と言われたそうだ [28]。久保は、そんな言葉たちに支えられて体調を回復していく。
 早川も、2022年に休養を経て気持ちの変化があったそうだ。彼女は、「私は、今までグループ全体で見るとこっちのほうがいいかなとか、周りの声に流されてしまうような選択をしてきて、しっかり自分と向き合ってこなかったんだと思います。でも、自分の意志で何かを決めることで前向きになれることがたくさんあるはず。髪を切って、明るくしたのはその第1歩です。自分で自分を素敵だなと思える、そういう私でありたいと思います」と語る [29]。
 そんな早川の選択には、久保からの影響があったのかもしれない。

 久保はそうやって、早川のロールモデルであり続けていた。早川聖来卒業セレモニーで久保が語った「約束」[a]は、そんな2人の関係性を象徴するものだったと言えるだろう。

約束の行方

 「頑張ってたらいいことあるって、私が証明する」。近年の久保史緒里は、そんな「約束」を、まさに果たしているかのような活躍ぶりを見せていた。

 大きな転機となったのは2021年。それまでグループから飛び出して1人で外の世界で活動する機会になかなか恵まれなかった久保は、ドラマ『クロシンリ』と舞台『夜は短し歩けよ乙女』に出演する機会に恵まれる。
 この年を振り返って彼女は、「『クロシンリ』も『夜は短し~』も5年目にしてようやく摑めたものだったので『もうここしかない』と思ってものすごい熱量で取り組みましたし、結果として良い評価をいただいたのは自信になりました。私の5年間の蓄積は間違っていなかったんだと思えて、『時間はかかっても、あきらめずにいよう』というマインドを持つきっかけにもなりました」と話しており [8]、自身でも相当な手応えを感じている様子だった。

 そして2022年も、『乃木坂46のオールナイトニッポン』パーソナリティ就任、舞台『桜文』の主演、主演映画『左様なら今晩は』の公開、と充実した仕事ぶりを見せ、さらに翌年のNHK大河ドラマ『どうする家康』への出演決定が発表される。
 久保はそのような状況となった要因について、「先輩に言われてすごくうれしかったのが『腐らずにやって来て良かったね』という言葉で。昔、衛藤美彩さんに何かの仕事が決まった時にそう言ってもらえたんです。そこはずっと変わらずに自分のいいところだなと思っていて。どんな状況でもどんな局面でも気持ちが折れなかったから、やっとチャンスが回ってきたのかなと思います」と自己分析する [13]。さらに「腐らずにやって来られた」要因として、「悔しいからですね。負けず嫌いだから。『あともう一歩届かない』ということがたくさんあったんですよ。周りから見たらきっと私は恵まれた環境にいますけど、同じ道を歩んでもらえたらきっとこの悔しさが分かってもらえる」と語った [13]。その悔しさが、遂に報われたようだった。

 さらに2023年、32ndシングル『人は夢を二度見る』にて、かねてより立ちたいと宣言してきた [5] [8]センターの座を手にする。
 彼女は、「どんな形であれ、止まらずに前に進んでいれば、開かないドアはないということを身をもって証明したかった。6年と半分。時間はかかってしまいましたが、これまで私と出逢ってくださった全ての方のおかげで、今回、この場所に立つことができました。」 [30]「これまでずっと『今年は種をまいた1年でした』しか言えなかったんです。『芽が出ました』すら言えなかった。6年間種をまき続けて。だけどやっと、まだまだ満開とは言えないけど、ようやくちょっとずつ花が咲き始めてきたかもしれません。1人でも多くの方に見つけてもらえるくらい、1つでも、少しでも大きな花を咲かせられる春にしたいです」[31]とその手応えを口にした。
 そしてその後には、かねてより目標に掲げてきた [32]1st写真集『交差点』の発売も発表される。

 私たちからその活躍ぶりを見ている限りでは、あるいは久保本人の手応えを聞いているに、「約束」はもう果たされたようにも思える。

 しかし、久保は卒業セレモニーで、「約束」について「守れなくてごめんね」と語った。

 早川が卒業を決めた経緯は、私たちには分からない。
 久保はきっと、早川といろんな話をしてきたことだろう。そしてそんな久保にとっては、守れなかったと感じる側面が大きかったのだろう。「私がもっと結果を残せていればあるいは……」という思いがあったのかもしれない。

 ただ、彼女は全く「約束」を守れなかったわけでもないようだ。
 ゲストに久保を迎えた2023年6月4日放送の「らじらー!サンデー」では、早川が「(久保の)写真集もセンターも、私が誰よりも一番喜んだ。(中略)泣きました。努力したら、ちゃんと報われる場所ってあって良かったって」と語っていた [33]。
 久保は確かに、早川に「努力が報われること」を示せていたのだ。

 一方で確かに、久保が言うように「ようやくちょっとずつ花が咲き始めてきた」[31]ばかりで、まだまだ花は咲き足りないのかもしれない。
 「約束」を守れなかったというのは、逆に言えば、久保自身は現状の結果が見合わないほどの努力をしている自負があるということでもあるし、久保がその背中を見せたいと感じた早川もそれだけの努力家であるということの表れでもあろう。

 「守れなくてごめんね」という、ファンとして聞いていてもあまりにも辛い言葉――それをどう咀嚼すればいいのかは、非常に難しい。
 果たして本当に「守れなかった」のだろうか……? なぜ「守れなかった」と思うのだろう……? もし「守れていた」としたら……?
 先に見たように、「守れていた」側面も確かにあったことは心に留めておきたい。でも、辛いからと言って「守れなかった」ことを「そんなことないよ」と全否定するのも違う気がする。「そんなことある」という方が、彼女たちの努力を肯定してあげられる面もあるのかもしれない。

 久保は、卒業セレモニーで早川に再度「約束」する。これから、「頑張ってたらいいことあるよって、絶対証明する」と。
 久保はこれまで、先輩の想いを背負ってきた。中元日芽香 [34]、衛藤美彩 [28]、井上小百合 [35]、新内眞衣 [5] [7]、北野日奈子 [7] [27]、高山一実 [13]、生田絵梨花 [13]、……。「心配をかけてしまった先輩方に、一番わかりやすい形で『変わりました』と伝えられるのがセンターだとしたら、そこが目指したい場所だと思うようになったんです」 [5]「現役の先輩方だけでなく、ご卒業された先輩が今も『テレビ見たよ』と連絡をくださったりして、今の私にとって大きな原動力になっています。そんな先輩方に恩返しがしたいんです。」 [8]「大好きな先輩たちのからの言葉は、頑なになってしまっていた私の心にもすっと響いて、素直に信じることができました。そしていつか必ずその期待に応えたい、という気持ちがモチベーションに変わっていきました」 [6]と彼女は語ってきた。
 そしてこれからは、早川聖来という後輩の想いも彼女は背負っていくのだ。ずっしりと重いその想いを[b]。

脚注

a. 「砂浜まで何時間も一緒に歩いた」時、それは、『久保チャンネル #68』 [36]で久保史緒里が語っている「2、3年前、早川聖来ちゃんと夜な夜なお散歩しながらおしゃべりするのが好きだったんだけど、『どこまで行けるんだろうね』って気になって、3時間くらいかけて、お台場の海浜公園に行った」時のことだと思われる。
 早川聖来のInstagramに「選抜発表の後にレイボーブリッジを一緒に見に行った」 [37]と書かれているのも、状況的に同じ時を指しているように思われる。写真の日付は、2020年9月。時期的には、26thシングル『僕は僕を好きになる』の選抜発表。4期生からは清宮レイと田村真佑が初の選抜入りを果たす一方で、早川は選抜には入らなかったシングルだ。
 これはあくまで推測だが、「頑張ったら絶対いいことあるって証明する」と久保が早川に交わした「約束」は、早川が選抜に入れなかったことを受けてのものだったのかもしれない。

b. ただし私は分からない。早川聖来の卒業の悲しさを、物語として消費してしまっていていいのか。

参照資料

[0] のぎ動画, “早川聖来 卒業セレモニー@真夏の全国ツアー2023 大阪公演,” 24 8 2023. [オンライン]. Available: https://nogidoga.com/episode/1799. [アクセス日: 25 8 2023].
[1] BUBKA 2017年5月号, 白夜書房, 2017.
[2] ENTAME 2017年6月号, 徳間書店, 2017.
[3] BRODY 2021年8月号, 白夜書房, 2021.
[4] BUBKA 2017年10月号, 白夜書房, 2017.
[5] EX大衆 2021年10月号, 双葉社, 2021.
[6] 久保史緒里, 乃木坂46 久保史緒里1st写真集 交差点, 集英社, 2023.
[7] 乃木坂46ドキュメンタリー 僕たちは居場所を探して『久保史緒里の場合』. Hulu, 2021.
[8] WHITE graph 008, 講談社, 2021.
[9] B.L.T. 2019年6月号, 東京ニュース通信社, 2019.
[10] 乃木坂46新聞2022, 日刊スポーツ, 2022.
[11] N46MODE vol.2 乃木坂46 デビュー10周年記念公式ブック, 光文社, 2022.
[12] EX大衆 2019年2月号, 双葉社, 2019.
[13] B.L.T. 2023年3月号, 東京ニュース通信社, 2023.
[14] 乃木坂46のオールナイトニッポン 2022年3月2日. ニッポン放送. 2022.
[15] 女子ラジオ Vol.1, ‎辰巳出版, 2022.
[16] 久保史緒里, “今日は21歳のお誕生日です。,” 乃木坂46 久保史緒里 公式ブログ, 14 7 2022. [オンライン]. Available: https://www.nogizaka46.com/s/n46/diary/detail/100450. [アクセス日: 15 7 2023].
[17] 乃木坂46×週刊プレイボーイ 2017, 集英社, 2017.
[18] 乃木坂46写真集 乃木撮 VOL.03, 講談社, 2023.
[19] anan 2023年 6月7日号 No.2350, マガジンハウス, 2023.
[20] 乃木坂配信中, “【公式】「乃木坂工事中」# 346「乃木坂46 バレンタイン大作戦①」2022.02.06 OA,” YouTube, 6 2 2022. [オンライン]. Available: https://youtu.be/34mXv9ML8z0. [アクセス日: 16 7 2023].
[21] BUBKA 2021年3月号, 白夜書房, 2021.
[22] 乃木坂46公式書籍 10年の歩き方, KADOKAWA, 2023.
[23] “乃木坂46早川聖来、自信喪失の過去 久保史緒里の金言で「吹っ切れました」,” ドワンゴジェイピーnews, 14 5 2021. [オンライン]. Available: https://news.nicovideo.jp/watch/nw9335477. [アクセス日: 15 7 2023].
[24] B.L.T. 2022年4月号, 東京ニュース通信社, 2022.
[25] GIRLS STREAM 05, 玄光社, 2022.
[26] BUBKA 2019年3月号, 白夜書房, 2019.
[27] EX大衆 2020年12月号, 双葉社, 2020.
[28] blt graph. vol.37, 東京ニュース通信社, 2018.
[29] 日経エンタテインメント! 乃木坂46 Special 2023, 日経BP, 2022.
[30] 久保史緒里, “32枚目シングル,” 乃木坂46 久保史緒里 公式ブログ, 20 2 2023. [オンライン]. Available: https://www.nogizaka46.com/s/n46/diary/detail/101193. [アクセス日: 16 7 2023].
[31] 日刊スポーツ 2023年4月4日, 日刊スポーツ, 2023.
[32] BRODY 2020年6月号, 白夜書房, 2020.
[33] らじらー!サンデー 2023年6月4日. NHK. 2023.
[34] 久保史緒里, “何度だって。いくつだって。久保史緒里,” 乃木坂46 3期生 公式ブログ, 8 8 2017. [オンライン]. Available: https://www.nogizaka46.com/s/n46/diary/detail/40210. [アクセス日: 16 7 2023].
[35] 久保史緒里, “希望の使命,” 乃木坂46 久保史緒里 公式ブログ, 1 5 2020. [オンライン]. Available: https://www.nogizaka46.com/s/n46/diary/detail/56083. [アクセス日: 16 7 2023].
[36] のぎ動画, “久保チャンネル #68 第1回 5期生お見立て会,” 25 4 2023. [オンライン]. Available: https://nogidoga.com/episode/1691. [アクセス日: 15 7 2023].
[37] “早川聖来 公式Instagram,” 27 6 2023. [オンライン]. Available: https://www.instagram.com/p/Ct_yGz4va-5/. [アクセス日: 16 7 2023].

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