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意外に複雑「なんて呼ぶか」問題(総督)

 長く教会文化にひたり過ぎたせいで、それが一般社会(俗に言う「シャバ」)でも通用する用語かどうか見分けられなくなることがままある。教会内の専門用語、いわゆる「教゛会(ぎょうかい)用語」だが、有名なのは「主」「御心」「御名」「憐れみ」「贖い」「罪」「赦し」「救い」、そしておそらくトップ3に入るのが「兄弟姉妹」。

 同じ教会の会員に面と向かって「○○兄弟」「○○姉妹」と使われる場合もあれば、週報などの記録上でのみ「○○兄」「○○姉」と表記する教会もある。初めて教会に来た人が聞いて、「この教会はみんな親戚関係?」などと勘違いしたという話も時折耳にする。ちなみに教会は「兄弟で杯を交わす」コミュニティであるが、あまり聞こえのいいものではない。

 教会によっては、まだ洗礼を受けていない人を「兄弟姉妹」と区別して「○○さん」と呼ぶ。実は、信徒以外の人々に対する呼び名もいろいろある。「未信者」か「求道者」が一般的だが、「未」というのは「いつか信者になること」が前提であり、当事者にとっては押しつけがましく聞こえるかもしれないし、別段、積極的に「求道」しているのでなければ「求道者」もしっくり来ない(洗礼を受けた後も「求道」自体は続くわけで……)。世間的には「求道者」の方が、山にこもって厳しい修行をストイックに行う「修験者」のような、カッコいい響きとして聞こえるようだ。

 この間、SNS上で試みたアンケートでは、恣意性のない「ノンクリスチャン(ノンクリ)」が最も「ふさわしい」と票を集めた。ただ、近ごろはそもそも「クリスチャン」がキリスト教徒を指す用語だと知らない若者も少なくないらしい。初めて教会に来た人についても「新来者」「新来会者」などのバリエーションがあり、教会外にはなかなか理解されにくいだろう。

 さらに悩ましいのは、牧師と結婚したパートナー(いわゆる「牧師夫人」)に対する敬称である。牧師と同じく教職者である場合は「○○先生」が通例かもしれないが、教職でない一般信徒、もしくは「ノンクリスチャン」の場合などは、「○○夫人」「奥さん」「奥様」などと呼ばれて不快な思いをしたという若い女性も少なくない。今どき「夫人」といえば「デヴィ夫人」か「お蝶夫人」ぐらいのもの。性別や肩書きにとらわれず、一人格として尊重し、「○○(下の名前)さん」で統一すれば何の問題もないと思うのだが……(「どう呼ばれたいか」を当事者に問うアンケートでも「○○さん」が最も多かった)。

 教員や医者、政治家同様、牧師が互いに「先生」と呼び合う文化にも、モヤっとする。時に「先生」と呼ばないと怒り出す牧師もいるせいか、「牧師先生様」などという大仰な敬称が誤用されたりする。カトリックでは「神父様」が通例で、「神父」だけだと訂正されることが多い。この際、せっかくだから牧師も神父も思い切って「さん」付けに統一してみてはどうか。教派や教会によって教職の位置づけが変わるため、なかなか急に変えるのも容易ではないだろうが、日本社会では呼称がその立ち位置や権威構造を体現している場合が多い。

 今一度、自分自身は他人からどう呼ばれたいか、その意味も含めて改めて考えてみようではないか。

(2019年6月1日付「キリスト新聞」掲載)

【総督】 名前不明 キョウカイジャーを統括する司令塔。「神の国」建設に寄与するため、あらゆる予定調和を打ち壊し、業界の常識を覆そうと目論む野心家。地上では仮の姿でキリスト教メディアに携わる。サブカル好きの中二病。炎上体質。武器:督促メール/必殺技:連投ツイート/弱点:カマドウマ(便所コオロギ)

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