短編: ふいに

「プリンが食べたい」
さっきからそのことしか考えられない。
プッチンプリンでいい。
あのツルンとした喉ごしのよい半個体をゆっくりと飲み込みたい。

「プリンが食べたいって顔してるな」
本郷が顔を覗き込んできた。
「プリンが食べたい」
焦点の定まらない目でつぶやく。

「プリンは空から降ってくるよ」
「それなら早く降ってきてほしい。今日の天気はプリンだったはずだ。プリン警報だ」
「今日は雪だよ」
「そうだったか」
確かに寒い。空は灰色でいつ雪が降り出してもおかしくなさそうだ。

「コンビニでもよるかね」
本郷が提案する。
「あいにく金がない」
「プリンへの道は遠いな」
プリンひとつ手に入らない世界にうんざりしていた。

「ほら、プリン!」
本郷が空を指さした。
わたしは灰色の空をぐっと見上げる。
いつのまにか雪が降り出していた。
その瞬間、空を見上げていたわたしに本郷が降ってきた。
唇に柔らかさが伝わる。キスをされた。
プリンのことはもう忘れていた。

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