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『昨夜のカレー、明日のパン』木皿泉

本当かどうかなんて、どうでもいい気がした。そういう記憶をまといながら、どこへ行くのかわからないけど、オレはゆるやかに変化してゆくのだ。それでいいじゃないか。

「男子会」

小林聡美主演のドラマ、「すいか」が好きで、脚本を書いた木皿泉のことも知りたいと思った。

 話の筋が、ないと言えばないし、あると言えばある。私はそういう話が好きなのだと思う。だから、起承転結の骨組みがしっかりあるプロットを書こうとしても、しっくりこない。考えていても、ほんとにこんな話、誰かが面白がってくれるのだろうか、という気分になってくる。(こんなことだから、いつまでたっても行き当たりばったりの帳尻合わせに苦しんでいるのかもしれないが。)

シナリオと小説の違い、にとまどいながら9年も費やして書かれた初めての小説だそうだ。始めの設定を全部白紙にしようかというところまで、思い詰めながら、でも面白いと信じて、書き上げた。

夫婦二人三脚で、一つのペンネームを使っているという背景にも興味を引かれる。私は他人と何かを作ることなんてできないのではないかと思っているが、木皿泉はさすが夫婦で、物語の表面はなだらかで、卵の殻ように継ぎ目が見えない。完成形としてここにあるわけだ。

日常を無視して、何かを作り出すことはできないのではないか。
少なくとも、継続的に何かを作ろうと思ったら。

生活に支障をきたすほどではないけど、健康に小さな綻びがいくつかあって自重しているこの休日、ますますその直感は強くなる。大人になると、何もかもすべて万全、という日は皆無に等しいのだった。

木皿泉。この人の書いたものや作ったものをもっと摂取したい。

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