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「勤務成績が著しく不良」での解雇に対抗する

前回のnoteでは、解雇が有効(適法)であるための4つの条件について解説しました。

解雇にはいくつかのパターンがあって、その解雇が有効(適法)であるための要件もしっかりと就業規則や法律で定められています。雇主の会社が従業員を解雇することは、案外むつかしそうです。そういうわけで、もし雇主が従業員を会社から排斥したいのなら、その雇主は、法律や就業規則によって規制されない、あくまで従業員の合意退職の扱いになる退職勧奨を選ぶということなのでしょう(第80回note参照)。

さて、前回のnoteで、解雇が就業規則で定められた解雇要件に従っていたとしても、解雇された従業員は、労働審判ないし民事訴訟ではその解雇の客観的合理性と社会的相当性を争点にして、その解雇は違法であると主張することも可能、ということを述べました。つまり、雇主の会社が「就業規則に則って従業員を解雇した」と主張するとしても、その従業員は、労働契約法第16条に基づいて「その解雇は雇主による解雇権の濫用である」と主張することができるということです。

就業規則では、多くの場合、「勤務成績が著しく不良であること」が解雇(普通解雇)の理由の一つとして挙げられています(第78回note参照)。実際、雇主がその従業員を会社から排斥したい時、その従業員が退職勧奨に応じる見込みがない場合、あるいは雇主が退職勧奨という手段を使うことなくその従業員を会社から排斥したい場合、この「勤務成績が著しく不良であること」はよく使われる解雇理由となっています。

これは、もっともらしい解雇理由のようには聞こえますが、実は「使えない」とか「期待したほどの成果を出していない」といった漠然としたことで、雇主が従業員を会社から排斥するための口実に使われることが多いものです。個人の販売数や販売額が数字ではっきりとわかるような営業担当ならまだしも、すべての部署で一人ひとり定量的、公平かつ公正に勤務成績を厳密に測ることができるかと言えば、けっしてそうではないでしょう。評価や人事考課のルールが定められていなかったり、主観的な評価がまかり通っていたりすることが、意外と多いのではないでしょうか。

これに対して従業員は、「勤務成績が著しく不良であること」が本当に客観的合理性と社会的相当性を伴うのか否かを問題にすることができます。

つまり、従業員は、誰が見ても「その解雇はやむを得ない」と言えるレベルにまでは達していない、また他社などの事例や過去の事例とのバランス、解雇理由の内容と解雇処分の重さとのバランスなど世間一般の常識からして「その解雇はやむを得ない」と言えるレベルにまでは達していない、と主張することができるのです。

その時、従業員の主張には、「勤務成績が著しく不良であること」は、雇主が従業員を排斥したいがためにとってつけた理由である、平等かつ客観的な観点から勤務成績が評価されていない、勤務成績は適切な研修や指導などを経ることなく一方的かつ強引に評価されたものである、中長期的には勤務成績が改善される見通しがある、ちょっとした業務上のミスから勤務成績が不良と評価され解雇されるのは社会通念上おかしい、同様の勤務成績の他の従業員は解雇には至っていない、これまでなら同様の勤務成績であっても解雇には至っていない、等などが考えられます。

そして、従業員が労働審判ないし民事訴訟で「解雇される理由は何もないにもかかわらず、解雇された」「よって、解雇は無効である」と主張するなら、雇主が解雇が有効(適法)であることを立証できなければ、その解雇は無効になります(第84回noteで述べたように、裁判実務では、「解雇権の濫用」の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて、雇主側に主張立証責任を負わせています)。「勤務成績が著しく不良であること」と似た解雇理由には、職務能力の不足、勤怠の不良、職務懈怠、業務適性がないなどが挙げられますが、従業員としては、いずれも同様の点から対抗していくことができるでしょう。

特に、もし従業員の雇用形態が「雇用期間の定めなし」であるなら、つまりその従業員が会社において長期雇用システムのもとで勤務しているのなら、たとえ就業規則に定めがあるからと言って、「勤務成績が著しく不良であること」だけでその従業員を解雇・排斥すべきと評価することは難しいのではないかと思います。

ただし、高度かつ専門的な能力や技術を期待されて特定のポスト・職務のための即戦力として中途採用されたものの、期待されたほどの能力や技術を持たなかった場合の「職務能力の不足」という解雇理由は、長期雇用システムのもとでの「勤務成績が著しく不良であること」とは別の範疇で判断されるものとされているようです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。次回も引き続き、労働契約法第16条にからんだ違法な解雇を見ていきます。

街中利公

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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