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ウォーカブルなまちづくりのヒントとは?近江八幡市「あきんど道商店街」の官民連携事例

まちのコイン運営団体のインタビュー連載「#まちのコインでつくりたい未来」。第3回目となる今回はまちのコイン「ビワコ」の近江八幡市※1 が登場します。

近江八幡市では、オープンガバナンスの実現を目的に22年7月にまちのコインを導入。地域に興味を持つ人を増やすため、さまざまな取り組みをおこなってきました。

なかでも特徴的な取り組みが「あきんど道商店街」の看板猫を使った「QuRuTo猫スタンプラリー」。まちのコインの「チェックイン」※2 機能を使っておこなうデジタルスタンプラリーで、多くの方にまち巡りを楽しんでいただいています。

今回は滋賀県全体のプランニングを担当するまちのコイン運営チームの中村と、近江八幡市エリアの運営を担う橘 直樹さんの対談形式でお届け。官民連携に向けて丁寧に築き上げてきた、1年間の導入軌跡を振り返ります。


※1 滋賀県でコミュニティ通貨「まちのコイン(ビワコ)」2022年7月25日から導入開始。導入地域第一弾は長浜市、近江八幡市、日野町。2023年7月1日から甲賀市と高島市で導入がスタート。

※2 チェックイン:お店やプロジェクトのスポットに置いてあるQRコードを読み取ることを「チェックイン」と呼び、チェックインをするとコインをもらうことができます。

<プロフィール>
・中村 圭二郎(写真左)
面白法人カヤックちいき資本主義事業部所属。コミュニティ通貨「まちのコイン」、移住&関係人口のマッチングサイト「SMOUT(スマウト)」の運営メンバー。滋賀県全体のプランニングを担当。

・橘 直樹(写真右)
近江八幡市役所 総合政策部 企画課所属。22年度はオープンガバナンス推進事業の担当者として、地域課題解決のための市民や行政の協働を目指す。近江八幡市エリアのまちのコイン運営に携わりながら、商店街や関係事業者との調整やユーザーサポート等に取り組んでいる。

オープンガバナンスの一環として。まちの人を巻き込むためにはじめたまちのコイン

中村 圭二郎(以下、中村):近江八幡市は、ビワコ導入地域第一弾として自ら手を挙げてくださったと聞いています。そのときのことについてお伺いできますか?

橘 直樹(以下、橘):滋賀県全域を対象地域としてまちのコインが導入されることを知ったのは、県からの公募でしたね。「こんな取り組みを始めるので、一緒にやりませんか?」とお知らせがきて、手を挙げた形です。

当時、私は「オープンガバナンス」という事業を担当していたのですが、一般的ではない言葉がゆえに市民の方になんて説明すれば受け入れていただけるのか悩んでいたんです。

そこで出会ったのがまちのコインでした。

オープンガバナンスの意味は『市民や行政も協働して地域課題に取り組むこと』ですが、もっとシンプルに言えば『地域に興味を持つ人を増やす』ことではないかと。

ちなみにこれは余談ですが……じつはまちのコインのサービス自体は県からの提案がある前から知っていたんですよ。

中村:それは初耳です。

橘:まさに数年前、新型コロナウイルス感染症対策で外出自粛要請が出ていたころに、デジタル化の取り組みの一環として、地域通貨の導入を検討していたタイミングがあったんですよ。

そのときにいろいろと調べていたら、円換金ができるもの/できないものなど、さまざまな地域通貨サービスがあると知って。

オープンガバナンスの取り組みとしてやるなら、個人的には円換金ができない「まちのコイン」のほうが面白そうだなと思っていた折に「やりませんか?」と言われたもんだから、すぐに「やります!」と。

でも、あんまりこれを言うと嘘っぽいから言わないようにしてるんです。「ほんまかよ、ええように言ってるやろ」って思われそうじゃないですか(笑)。

中村:たしかにできた話ですね(笑)。

県にとってまちのコイン導入目的は、関係人口の創出。一方で、近江八幡市はオープンガバナンスの実現。それぞれまちの外と内で向かっている矢印が違うようにも感じられますが、実際には密につながっていますよね。

たとえば移住者を増やしたいと思っても、移住者と地域を結ぶコミュニティがなければ、うまくまちに溶け込むことができないかもしれない。地域コミュニティが活性化しているからこそ、移住者や関係人口を巻き込んでいけるのだと考えています。

地域社会と移住者のどちらか一方ではなく、地域を線でつなげるのが「まちのコイン」の役割なのかもしれません。

加盟スポット開拓のヒントは「選択と集中」

中村:この1年間の活動を振り返ってみて、いかがですか。

橘:導入にあたって人手がかけられないなかでも、最初のスポット開拓時にはものすごく時間をかけて丁寧におこなったと自負しています。

たとえばお店や企業にチラシだけ配って、とりあえずファーストコンタクトだけ取って案内したことにするのは簡単にできると思うんです。でも、それだけでは私たちが目指すゴールに近づくことはできないだろうと。

なかでも「あきんど道商店街」を中心にスポット開拓をおこなったのは中村さんからのアドバイスがきっかけでした。

「いきなり市全域でまだらにやるよりも、ひとつのエリアから始めて信頼を得ていくほうがいい。盛り上がってお客さんたちが増えてきたら、きっとほかの商店街も興味を持ち始めるはず」と。

中村:リソースが限られているなかで市全域で広げようとすると苦しくなってしまうもの。だからこそ「選択と集中」が大切ではないかと考えていました。

その上、まちのコインのデジタルスタンプラリーを活用するのであれば、車で移動する距離ではなく歩ける範囲の商店街で実施したほうが効果的です。

ただ自治体である以上、どこかのエリアに注力するというのは“エコ贔屓”だと思われてしまうかもしれない。それでも、あえてひとつの商店街に絞って注力された橘さんの判断は素晴らしいと思いました。

ウォーカブルなまちづくりのヒントは「店外のスタンプラリー」

中村:近江八幡市には10個以上の商店街があるなかで「あきんど道商店街」とまちのコインの相性がいいと思った理由はありますか?

橘:「あきんど道商店街」は旧市街地と呼ばれるエリア内にあり、観光名所の「八幡堀」にも近いこと、また若い商店主たちを筆頭にしたエネルギッシュなコミュニティがすでにあったことが理由です。

観光名所の「八幡堀」

また八幡堀の先には人気観光地の「ラコリーナ近江八幡」があり、そこから八幡堀までは観光客の回遊がある一方、その先の商店街にも足を運んで欲しい、という思いもありました。

中村:その後、実際に「あきんど道商店街」のデジタルスタンプラリーがスタートしました。商店街キャラクターである「QuRuTo猫」の全12種類の看板にQRコードを貼り付けることでまち歩きを楽しんでもらえるような企画になっていますが、このアイデアはどう生まれたのでしょうか?

▲商店街の看板猫キャラクター「QuRuTo猫」

橘:これは商店街の人とわいわいと作戦会議する中でブレストしていたなかで生まれたアイデアでした。「QuRuTo猫」は招き猫をイメージした商店街の看板猫キャラクターとして作られているので、基本的にはお店の外に設置してあります。

そこにまちのコインのチェックインQRコードも貼っておくことで、定休日や閉店後に訪れてもスタンプラリーが楽しめるようにしたんです。

中村:体験利用数の推移を見ても「QuRuTo猫スタンプラリー」を楽しんでくれている方が増えていることがわかります。この結果から「スタンプラリーによって商店街を歩く人が増えた」と考えても良さそうですよね。

イベントにまちのコインを活用いただくことで利用者が増える傾向もありますが、一時的ではなく定期的にユーザーが増えたという点で非常に良い事例だと考えています。

橘:そうですね。商店街巡りを楽しんでくださる方が増えた上に、新たにお店を知っていただく機会になっていたら嬉しいです。

中村:じつは、まちのコインの「チェックイン」はもともとお店の中に入ってコミュニケーションをしてもらうためのきっかけづくりとして考えられた機能でした。

もちろん、その結果コミュニケーションが増えたというケースもありますが、ほとんどの人にとっては初めてのお店でコミュニケーションを取るのはハードルが高いもの。であればもっとハードルを下げて、まずは「まちを歩く人を増やす」ことに着目しても良いのではないかと考えていたんです。

その点「QuRuTo猫スタンプラリー」はお店の方にとっても負担がなく、ユーザーさんもお店の中に入らずにまち巡りを楽しめるので、まずはお店との接点を増やす施策としてまさにいいアイデアですよね。

橘:「あきんど道商店街」では、まちのコインを活用した七夕まち歩きのイベントも開催されました。この企画も商店街の方からご提案いただいて実施したものです。

最近では、まちのコインをもっと広めるためにどうしたら良いかについて「あきんど道商店街」の方からお声をいただくことも増えているんですよ。

私たち運営団体と同じ目線で自分ごと化してくださっていることがすごくありがたいです。まちのコインには、人を動かす力があるサービスなんだと感じました。

つながりの質や濃さが、まちを動かす原動力になる

中村:橘さんがまちのコイン担当になったことで、ご自身のなかに変化はありましたか?

橘:考え方が変わりましたね。というのも、まちのコインを始めたばかりの頃はとにかくユーザー数やスポット数を増やさねばと思っていたんです。量がすべてだと。

でも中村さんからのアドバイスや1年間の経験を経てわかったことがひとつあって。

地域の課題解決に取り組んでくれる人を増やすには、つながりの量よりも質や濃さを重視した方がうまくいくんじゃないかと考えるようになりました。

じつは、ビワコのスポット開拓を始めるまで私は地域の方々との接点がほとんどない状態だったんです。

でもまちのコインを通して地域の方々とつながっていくなかで、少しずつ関係性を築けたことがすごく良かったなと。まちで困っていることや要望など、今まで聞こえてこなかった声が聞けるようになったんですよ。

こういう関係性ができて初めて、数だけじゃないなって思いました。

近江八幡市には約8万人が住んでいますが、その全員をいきなり巻き込んでいくことはすごく難しい。だからこそ、少人数でもまちのことを本気で考えられる仲間から増やしていけばいいんじゃないかと思っています。

理由なきエコ贔屓はもちろん行政としてNGですが、まちのためという共通目的がある方と一緒にやるんだっていうのはありじゃないかなと。

毎年3月中旬の2日間に渡って開催される「近江八幡左義長祭」
ダシ制作のお手伝い体験や、当日一緒に担げる体験などを募集した
ダシ制作のお手伝いには近江八幡市外から参加したお子さんも

中村:最後に、今後近江八幡市でまちのコインをどのように活用していきたいですか?

橘:まちのコインを良い“言い訳”として使いながら、ゴールである地域の課題解決に向けたコアな仲間づくりをしていきたいと考えています。

まちの人と接点を持つためのきっかけって、ありそうでなかなか作りづらいじゃないですか。イベントに参加したところでいきなり仲良くなれるとも限らないですし。

濃い関係を作るには言い訳が必要だと考えていて、まちのコインはその言い訳にぴったりなんです。

まちの皆さんにとっても、まちのコインが日常を楽しむ必須アイテムとなるように頑張っていきたいと思います。

中村:今回のお話しを聞いて、いかに限られたリソースのなかでまちのコインが「オープンガバナンス」という大きなゴールに貢献できるのか、ということを問われたように感じます。

「QuRuTo猫スタンプラリー」をはじめ、近江八幡市のすばらしい事例がほかの商店街にも伝わり、企業同士やまち全体の連携へとつながったら嬉しいですよね。オープンガバナンスの実現は、その先に必ずあるように思います。


✨まちのコイン「ビワコ」の最新ニュース✨

7月28日から滋賀県高島市&甲賀市でまちのコイン「ビワコ」導入開始

2022年度は長浜市、近江八幡市、日野町の3地域を第一弾目の導入地域として運営してきた「ビワコ」ですが、この度新たなモデル地域として甲賀市と高島市が参画します!

地域活性と関係人口増加を目的に、将来的には滋賀県全域を「ビワコ」対象地域にすることを見据えています。

ビワコ1周年を記念して「夏休みの自由研究」をテーマにしたイベントを開催

この度、ビワコのサービス開始1周年を記念して「夏休みの自由研究」をテーマにした体験やスタンプラリーが楽しめるイベントを開催中です。

各地域ならではの自然や歴史や文化、最新のサイエンスにちなんだ自由研究に役立つ体験ができます。期間限定の体験なので、この機会に楽しんでみてはいかがでしょうか。

リリース詳細、イベント詳細はこちら


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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