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分譲マンションは終の棲家たりうるのか(上)〜建替は難しい


分譲マンションの「ふたつの老い」

3月28日と29日の日本経済新聞に掲載された特集記事「老いるマンション」。

国土交通省のデータによれば、
・分譲マンションのストック総数は694.3万戸で国民の1割超が分譲マンションに居住していると推計される。
・そのうち築40年以上の分譲マンションの総数は125.7万戸と約18%を占める。
・築40年以上のマンションは今後も増加を続け、20年後(2042年末)には445.0万戸になると推計される。

分譲マンションについては近年「ふたつの老い」が問題として指摘されている。ひとつめの「老い」は建物や設備の老朽化である。特にストック総数の15%を占めるいわゆる「旧耐震基準(1981年以前竣工)」の分譲マンションは地震に対する安全性の懸念も大きい。新耐震マンションであってもコンクリートや給排水設備、エレベーター、機械式駐車場といった設備は時間の経過とともに劣化が進む。適時・適切に管理・修繕を実施することで建物や設備の長寿命化はある程度図られるとはされているが、管理・修繕にはそれなりにおカネがかかる。

ここで問題になるのがもうひとつの「老い」、すなわちマンション居住者の高齢化だ。居住者の高齢化が進むと、収入の減少に伴って、建物長寿命化の原資となる修繕積立金や管理費の不足が懸念されるからだ。また居住者死亡による空き家化や相続に伴う所有者不明問題も増えるため、分譲マンションの意思決定機関である管理組合の機能不全という問題も顕在化するだろう。後述する区分所有マンションの「建替」に関する合意形成もそれだけ難しいものとなることは想像にかたくない。

ちなみに国土交通省の調査によれば、驚くことに分譲マンション居住者の約半分が世帯主年齢60歳以上となっている。かつては「住宅すごろく」の「上がり」は一戸建てと言われていたが、いまではマンションが「終の棲家」という人が少なくないということだ。

国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

さらに言うと、築年数の古いマンションほど居住者の高齢化率が高く、1989年(平成元年)以前に竣工したマンションでは居住者の7〜8割が世帯主年齢60歳以上となっている。築古マンションほど「ふたつの老い」が深刻だということだ。

国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

マンション建替の現状と課題

さて、この「分譲マンションのふたつの老い」問題について、国はどのように対処しようとしているのだろうかといえば、その基本は修繕・改修、そして建替である。このうち建替についてざっくりと説明しておこう。

分譲マンションのようないわゆる「区分所有建物」に適用される法律である「区分所有法」では、区分所有者(および議決権数)の4/5以上の賛成で建替ができると規定されている。なお現在この4/5以上を3/4以上に緩める法改正が予定されている。また、建替以外の選択肢として区分所有関係を解消してマンション敷地を売却することも可能となっている(マンション建替円滑化法;同じく4/5以上の賛成が必要)。

ちなみにこの建替(と敷地売却)の実施状況であるが、国土交通省の資料によれば2023年3月時点で累計で282件、約23,000戸とのことである。分譲マンションストック約700万戸、うち旧耐震基準ストック約103万戸というボリュームに比べると微々たるものである。

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001623968.pdf

建替決議の要件を4/5から3/4に引き下げることについてはもちろん賛成であるが、これでマンション建替が進むようになるかといえば、私は悲観的だ。というのは、実は私はデベロッパー勤務時代にこのマンション建替に仕事として携わったことがあるからだ。

私の携わった案件は、建替前マンションの総戸数は72戸と小さく、容積率が余っていたのでデベが余剰容積を買い取ることで、所有者はほぼ資金負担なしで新築マンションを手に入れることができるという非常に恵まれた案件だった。また所有者のまとまりもよく極めて前向きに取り組んでいただいたことがなによりも大きかった。おかげで4/5どころか全員合意で建替決議を行い、スムーズに(といっても合意形成だけで数年がかり)事業を進めることができたのが、振り返って思うのは、この成功は今述べたようないくつかの好条件が重なることで可能となった「奇跡」だったということだ。

そもそも区分所有マンションというのは、土地(と共用部建物)を共有し、建物の住戸(専有部)を各人がそれぞれ所有するというきわめて特殊な形態の財であり、しかもひとつが数千万円以上するという高額な財だ。こうした特殊な財の処分について多数の権利者の合意を形成していくのは文字通り至難の業だと思っておいたほうがよい。私が担当した案件に限らずこれまでに国内で成功した282件23,000戸はどれも「奇跡の賜物」なのだ。

4/5が3/4になったからといってそれで難易度が一気に下がるとも思えない。仮に1/2に下げたって揉めるときは揉めるのだ。相続を巡って親族間でトラブルが起きることも珍しくないのに、赤の他人同士が何十人・何百人と絡むマンション建替で合意形成を図るのはそれこそ気の遠くなるような地道な努力と限りない幸運が必要になる。近年のタワマンでは一棟の戸数が1,000戸というのも珍しくないが、そんな巨大タワマンを見上げると、私なんぞは文字通りアタマがクラクラしてしまう。

ということで、国土交通省や学者さんなどアタマのいい方々になんとか知恵を絞って解決策をひねり出していただきたいと切に願う次第であるが、私自身は経験上「抜本的な解決策は無い」と思っているので、現状を前提として各人が個別に自衛策を取るしかないと考えている。

それについては次回!

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