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最後だと言いきかせて ーアイに触れるということ。 #第9夜

初めましてのみなさまも、おなじみのあなたもこんにちは、MAKIです。



時は変わってわたしの30歳の誕生日。
別れたはずのそのひとの新しい住まいに
わたしはいました。

彼だけの好きなものであふれたその部屋は
わたしが好きになった彼の部屋であって
わたしたちの暮らしの痕跡は
ドラム式洗濯機を除き
何ひとつ残されていませんでした。

ソファも、ベッドも、
カーテンの模様も、
何もかもが彼色の世界に戻っていたその部屋は
わたしがどれだけ彼を縛り付けていたのかを
無言で物語っていました。

ほんのかすかに
ほかの女の子の存在も
すでに探偵のようなアンテナを備え付けたわたしには感じ取れてしまいました。

これが、
彼の暮らしたかった部屋で

ここが、
彼が解放された空間で

わたしは彼のどこが好きだったのだろう、と
そんなことを振り返りながら
きっとこれが最後の行為になるのだろう、と
そんなことを冷静に思いながら


わたしは、好き、の感情以外で
彼のものをふくみ、
もはや懐かしさすら感じるその分身の
いいところを覚え尽くした舌で
さようならの愛戯をし

カラダが覚えてしまっていた彼の形状を
下腹に感じながら

もう恋人ではなくなってしまった
そのひととの行為の哀しみに打ちひしがれ


翌朝、

なにもいわず、なにも残さず、
その部屋をそっとあとにして
それっきり、
お互いに連絡することもなく
2年と少しの時間が過ぎました。
(次に連絡をしたのは
入籍を間近に控えた深夜のことですが、
それはまた別のお話)


この最期の夜が、
好きだの愛だの言いながらも
本心から向き合うことを恐れ
他所にいつも刺激を求めていた
わたしがしてきた彼への裏切りの仕打ちなのだと

もうこの部屋に足を運んではいけないのだと

自作自演の悲劇にピリオドを打った夜なのでした。

つづく

#アイに触れるということ
#第9夜
#次回最終夜を迎えます

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