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Keys - Challenges by Ms Thandeka

引っ越した翌日のお昼過ぎ、テンデッカちゃんがひょっこり帰ってきた。まさにひょっこり、音もたてずに、気づいたら私の部屋の前に「元気~!」みたいな感じで現れた。

私の部屋は中庭に面していて、日中はカーテンをしないので、ガラス戸越しに部屋が見渡せる間取りになっている。彼女が新しいコテージで暮らし始めてどうしてるかな・・・と思っていたので、元気そうな様子で何よりだった。

が、思わず、「鍵って大家さんに返してないの?」と聞いてしまった。南アフリカは犯罪率が高く、セキュリティを確保するため、建物にはいくつもの鍵を掛ける。もちろん鍵の管理がセキュリティを確保する生命線である。テンデッカちゃんは「(大家さんに)何も言われなかったから鍵はそのまま持っている」と答えた。

「大家さんはテンデッカちゃんがまだ鍵を持ってるって知ってるの?」「ここはテンデッカちゃんの実家みたいなものだからいつでも大歓迎だし、いまから行くね?みたいな感じでメッセージもらえるとすごく助かるな」みたいな話しをしたら、彼女はもう何も聞こえていないかのように無言になった。

南アフリカの国民性なのか、個人の性質なのか、「返事をする」という習慣がないのかもしれないな、と思うことがときどきある。私は小さいときから「返事をしなさい」と言われて育ってきたので、どちらかというとなんでも返事をする。ときどきよくわかっていないのに「はい」と言ってしまって、それはよくないなと思うこともある。

鍵については、大家さんと話す機会があり、忙しい大家さんはテンデッカちゃんが鍵を返却していなかったことには気づいていなかった。非常に納得したことは、テンデッカちゃんが生まれ育った村や以前に住んでいた自宅では「鍵を掛ける」ということ自体があまり重要ではなく、よりオープンにフレキシブルに近所の家々を行ったり来たりするライフスタイルだったのではないかという話しになり、確かにそうかもしれないと思った。大家さんは、来るときは必ず事前に連絡することと、鍵は緊急用に持っていてもいいけど使わないことの2点をテンデッカちゃんにメッセージで送っていた。

そして、その後、結局彼女は連絡もなく、手持ちの鍵を使ってときどき帰ってきて、小一時間ほどのんびりとくつろいで、クリーニングコンサルタントの仕事に戻っていくようになった。ただ、私の部屋に前にひょっこり現れることはなくなった。なんというか、こういう一休さんのような巧みな解釈で乗り切る力は私もつくづく学ぶべきと思う。

テンデッカちゃんの挑戦は続く。

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