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Week 2 - Challenges by Ms Thandeka

「奥歯が痛くて昨夜眠れなかった。いまから近所の歯医者さんに行ってくるから。」

ゴージャスなドレスを着たテンデッカちゃんは、この日は朝から辛そうだった。そういえば昨日も頭痛がすると言って売店で「グランパ」という痛み止めを一包買ってきて飲んでいた。おそらく頭痛ではなくて虫歯の痛みが頭に響いていたのだろうと思う。ちなみにテンデッカちゃんは特別な外出のときこのゴージャスなドレスを着て出掛ける。推測するに、医療機関訪問は彼女にとって特別な外出の一種なのだと思う。

どこの歯医者さんに行くかわかってるの?大家さんに相談してみては?職場には連絡したの?今日の仕事は大丈夫?と、矢継ぎ早すぎていま落ち着いて考えると大変申し訳ないことをしたが、レストランのマネージャーの電話番号はわからないので同僚に連絡して遅刻していくことは伝えてあって、大家さんは出張中でいないから連絡しなくて大丈夫、近所のショッピングモールに歯医者さんがあるのはわかっているからと、そんな感じで朝8時半には出掛けて行った。

お昼を過ぎても一向に帰ってくる気配がない。心配になったけど、私がでしゃばりすぎる幕でもないし、でも、このまま研修2週目にして半日以上の遅刻は印象がよくないはず、とモヤモヤしていたら、14時頃電話が掛かってきて、彼女はまだ歯医者さんにいた。とりあえず職場には連絡したという。歯医者さんで既に5時間待っている計算になる。恐ろしい。

彼女はすっかり日が落ちて16時頃に帰ってきた。ひっくり返りそうなくらい驚いたことに、治療はしてもらえていなかった。ドクターは他のクリニックで急患対応が必要で出掛けてしまったとのこと。痛み止めだけ処方されていた。

これは大変なことになったと思った。仕事はもう休んだも同然だし、もともと週一日しか休みがないので次回の休みを返上して働くか、にしても歯痛が治ったわけではないので、いつまた痛みで働けなくなるかもわからない。

職場に電話したら、今日は来なくてよいよ、と言われていた。いやいや、そこをなんとか働かせてくださいって流れを作っていかないと採用試験に合格できないのではないかとかなり主張して、朝から何も食べてないからお腹がすいたよ・・・とぼやく彼女にバナナを渡し、彼女はようやく重い腰を上げて徒歩一分の職場に向かった。

・・・彼女はものの数分で帰ってきた。歯も痛いだろうし今日は休んでいい、と言われたそうだ。

この出来事からいろいろなことを学んだ。貧困サイクルから一歩踏み出すためにサラリーのよい仕事が必要で、ただ機会があれば自動的に一歩踏み出せるというわけでもない。チャンスがあったとしても、そこから先も簡単ではなかった。突然の欠勤は雇用する側に絶好の「雇用しない言い訳」を作ってしまったし、今日は休んでいいよと言われたとしてもそこはなんとかやる気をみせて数時間でも働きますと再度押してみては・・・と私は思ったけど、それはあくまで私の意見であって共感が得られるとは限らない。

そもそも、近所の歯科医で8時間待ったことになる。南アフリカの医療アクセスの問題が根底にあるのだと思う。とはいえ、この近辺に土地勘のある大家さんや高級ステーキハウスの同僚や上司に他の歯科医を紹介してもらうとか、何時間待ちそうか予め確認して翌日の予約を取る方向に切り替えるとか、何か代替案があったかもしれない。よく考えたら、歯痛は今日に始まったことでもないし、随分と進行するまで放置して、冷たいものや甘いものを控えてやり過ごしていたようだった。興味深いのは、欠勤も、8時間待って治療してもらえなかった現実も、本人はあまり気にしている様子もない。なので代替案を絞り出さなくては、という考えもなかったのだと思う。

結局、その週の休みを返上することもなく、かといって慌てて別の歯科医を予約することもなく、眠れないほど痛みがひどい日はときどき痛み止めを飲み、その後、虫歯はそのまま1か月ほど放置された。

テンデッカちゃんの挑戦は続く。

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