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Efforts - Challenges by Ms Thandeka

ある日、テンデッカちゃんはきたるべきテストに備え、キッチンのテーブルに座り、何やらノートにいろいろと書き込んで勉強していた。

試験範囲は決まっており、4ページ見開きのメニューが一冊。各メニューの材料をひたすら覚える。ふときづいたが、高級ステーキハウスに顧客として行ったことのないテンデッカちゃんが、ウエイトレスとしてどんな顧客からの質問を想定し、なぜメニューに書かれた材料を覚える必要があるのか、そういった動機付けが全くないと、ただ闇雲に記憶できるものでもないに違いない。そこで、高級レストランの顧客がウエイトレスに対してよく尋ねそうな質問を10個ほど作成して渡したところ、テンデッカちゃんはどうやって作ったの~!?と驚いた様子でとても喜んでくれた。今日のおすすめは何ですか?玉ねぎが食べられないのですがこのメニューに入っていますか?等、ちょっとありそうなシチュエーションをいくつか見繕ったが、この「ちょっとありそうなシチュエーションを見繕う」という行為自体が、これまでいくつかレストランで食事をした経験を踏まえてこそ思い描けることなのだと気づいた。

ただひたすらキッチンテーブルでノートに何やら書いているテンデッカちゃんを放っておくわけにもいかず、自分の大学院のアサインメントをほったらかして、彼女にアウトプットの機会を作るべく、いろいろ口頭で質問を投げかけるというエクササイズを持ちかけてみた。大体ウエイトレスは筆記作業ではなくコミュニケーションを生業とするため、記憶したことが口頭ですらすらと出てこないと意味がない。

「シーザーサラダはどんな食材を使ってるの?」

クルトン、パルメザンチーズ・・・ 高級レストランのシーザーサラダは何やらおしゃれな食材がふんだんに使われており、確かに記憶するのは大変なのだが、ウスターソース等、彼女は正しい英語の発音を全く認識しておらず、自己流で発音するため、結局何を回答しているのか全く分からない。まずは彼女のスマホに音声で正しい発音を再生してくれる機能のある電子辞書の無料アプリをダウンロードして、知らない単語は必ず一度発音を聞いてみるといいよ、と話した。

前菜メニューが全部で12種類。プラッターチーズ、カラマリ、ターメリックアイオリソース・・・ よくよく考えたら、高級ステーキハウスに研修生として来るまで、彼女は見たこともない食材である。

「ターメリックアイオリソースって何?」

材料は覚えていないけどキッチンで見たことはある気がする、と彼女は答えた。盛り付けた残りをちょっと一口味見させてもらうとか、写真撮らせてもらって視覚的に記憶するとか、シェフに質問するとか何か覚えやすくする工夫ができるといいよね、みたいな話しをした。

「カラマリって何か知ってる?」

テンデッカちゃんは「魚」と答えた。PCを持ってきてGoogle で検索してイメージを探す。透き通ったイカの全身写真は彼女の思い描いていた「カラマリ」よりも随分とグロテスクな雰囲気だったのか、とても嫌そうに目を背けていた。わからないことがあれば何でもGoogleで画像を検索して雰囲気をつかむ、そういう学習習慣をもう長年しているけど、そのこと自体が当たり前でもなんでもないのだと気づいた。

新たなチャレンジに向き合うとき、レジリエンがとても重要だし、最後までやり遂げることは誰にとっても簡単なことではない。ただ、それ以前の問題で、幼少期から先進国でさんざん教育の機会に恵まれ、テストやら宿題やら研修やら資格試験やらに囲まれてきた私にはチャレンジの向き合い方についてある程度のノウハウがある。Googleで検索する、声に出して何度も繰り返す、どうしたら覚えられるか文脈を考える、だめなら友達や先生に助けを求める、いずれもテンデッカちゃんも物理的にアクセスできる方法だけど、彼女はそういうノウハウを駆使することなく、ただひたすらノートに書く。そして残念だけど重要なことを覚えている様子がない。

教育が大切だとよく言われるけど、彼女は南アフリカで高校まで卒業しており、その後社会に出て既に10年以上のキャリアを積んでいる。ソーシャルディベロップメントの底なしの難しさ、教育の持つ計り知れないインパクトを感じた。

テンデッカちゃんの挑戦は続く。

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