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地テシ:359 「旧朝香宮邸を読み解く A to Z」で読み解いたよ!

先日終演した「バンピーラダーズ」から次の「BURAI3」の稽古までの間に、束の間のオフを楽しんでいる私です。オフがあれば散歩に出る私です。無駄に暗渠とか古街道とかを歩き回っている私です。すると、ちょっと面白い発見があったりして楽しくなる私です。何の役にも立たないんですけどね。まあ、それが散歩です。

散歩だけではありません。例によって博物館や美術館も巡っています。こないだは随分と久しぶりに上野の東京国立博物館(東博)にも行ってみましたよ。収蔵品があまりにも多いのでちょいちょい展示替えをしているため、いつ行っても新鮮に楽しめる博物館です。もう、国宝やら重要文化財やらが普通に並んでいるのが驚きの、日本最古の博物館なんです。

企画展には行ってない。だって平日なのに大行列だったしさ

名も無き仏師による平安時代の美しい仏像やら、国宝の太刀やら、当時の人々の暮らしが判る屏風絵などから、平清盛・頼盛自筆の写経や織田信長自筆の書状などのミーハーに楽しめるものまで、それはそれは大量の逸品が広い館内にゆとりを持って展示されています。見ても見ても終わらない。常設展示だけ、しかも本館の一階と二階だけで4時間半掛けても見切れませんでした。他の展示館にも行きたかったのに。無念。
実はね、ちょっと前に美術鑑賞用にとVixenの4倍単眼鏡を買ったんですよ。歳のせいで近眼に加えて老眼まで入ってきましてね。中近両用の眼鏡にしてから遠くのモノが見えにくくなっていたんです。それがこの単眼鏡のお陰で細かいところまで良く見えるようになりました。
例えば重要文化財の「歌舞伎遊楽図屏風」(江戸時代)では「カルタや双六で遊ぶ女性たち」と解説されていたので単眼鏡で見てみたら、ちゃんとバックギャモンで遊んでいました。飛鳥時代に日本に伝来したバックギャモンは盤双六と呼ばれ、江戸時代以前の双六といえば大抵バックギャモンなんです。
そんなこんなで単眼鏡でじっくり見ていたら時間が無くなっちゃったんですね。

近所の国立科学博物館(科博)も物凄く面白いし、こちらも莫大な展示品の数なんですけど、東博と比較するとやはり狭いんですよね。ですので密度が高いんです。
なんていうか、圧倒的な手数で押し切ってくるスピードタイプの科博に対して、ゆったりしてるけど一発一発がズシンと重いパワータイプの東博ってカンジです。いきなりの格闘ゲーム例えで伝わらないかもしれませんけど。

東博の本館は昭和13年築で建物自体が重要文化財です。やたら天井が高く、やたら重厚感があるので、展示物だけでなく建物も楽しめるようになっています。隣に建っている表慶館は明治42年開館ですが、現在では特別な機会が無ければ内部には入れません。

こちらが表慶館。この日は夕方から何やら限定のイベントがあったようでした

そして科博の本館(日本館)は昭和5年の開館。上から見ると飛行機の形をしているという、昭和初期の科学精神バリバリの建築物です。もっとも、狙って飛行機の形にしたのかどうかについては諸説あるようですけども。


さて、昭和初期の建物といえば、これまでにも何度か書いている目黒の東京都庭園美術館・旧朝香宮邸もそうです。こちらも重要文化財。丁度いま、この建築自体を楽しめる「開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z」という企画展が開催されていると教えて頂いたのですよ。となれば戦前建築が大好きな私がいかないワケにはいかないでしょ。え? いくの? いかないの? いかないでか!

目黒駅から歩いて5分くらいです

もちろん行ったワケなんですけど、ここで注意が必要です。いや、注意ってほどでもないんですけどね。
この庭園美術館は旧朝香宮邸が展示会場ですので、通常の企画展でもついでに建築自体も見られます。つまり以前に行ったことがあるならば無理して行くほどでもありません。でもね、この建物だけでも見る価値があるのです。
では、今回の企画展はいつもの展示と何が違うのか。ザックリと言いまして四つあります。

まずは通常はカーペットで保護されている見事な寄木造りの床の一部を見るコトができるというコト。トーハクの床もそうなのですが、昭和初期建築の床は寄木で造られているコトが多いのです。しかし、床面保護の観点から普段はカーペットで隠されているのです。
しかし、今回の展示ではその一部のカーペットが剥がされていて直接見るコトができます。木目までもが寄木のデザインに合わせて揃えられているという美しさ。普段踏んでしまっている床をしげしげと見るというのも可笑しなカンジですが、しげしげと見る価値のある床なんだからしょうがない。いわば《しげ床》です。そんな言葉はないけど。

大食堂の寄木細工の床。木だけなのに美しい。こんなカンジで見るコトができます

次に、各部屋ごとにAからZまでのキーワードで詳しく解説してくれているコト。建物自体が今回の主役なんですから、それはそれは事細かに解説してくれています。しかもその解説をオシャレなカードにして配布してくれているのです。これを26枚集めるとなんだか可愛い図録のようにもなります。しかも集めて回るという行為がトレーディングカードのようで楽しいんですよ。まあ図録も買いましたけどね。
展示最後の新館ではこのカードを束ねてアルバムのようにするコトもできるコーナーまで用意されていましたよ。

厚めの紙ですのでしっかりとしたカードです

また、通常の企画展示では作品保護のためにカーテンが引かれていることが多いのですが、今回は建物自体が展示なので割とカーテンが開きめ(部屋によるけど)で、明るくて細部まで見られる上に窓からの景色も楽しめます。そのあたりにも住宅として使用されていた生活感が出ていて、とてもありがたいのです。

先ほどの床面と同じく大食堂。カーテンも開いてる。この丸みがいいのよ
そしてその大食堂の白漆喰天井の丸みもまた美しい

それと、普段はあまり公開されていないウインターガーデンに入れるのも今回の目玉。この建物の三階にある、温室のような一室です。市松模様のタイルも端正で、窓が大きくて景色も楽しめるという居心地の良い部屋です。

こちらがウインターガーデン。市松タイルの床も美しい。今回は床に注目ですね

他にも、美術館として使用されている時にはあまり公開されていない浴室や書斎なども見られますよ。まさに今回はこの建物自体が展示物なのです。

明るく広々とした第一浴室。壁は大理石なんです。床のタイルにも注目してね

旧朝香宮邸は昭和8年竣工。朝香宮鳩彦王の邸宅として建てられ、その後は外務大臣公邸として使用され、戦後は西武グループによって白金プリンス迎賓館として使用されました。後には高層のホテルに建て替えられそうになりましたが、地元の方々の反対で立ち消え、東京都が買い取って庭園美術館となりました。
パリに遊学していた鳩彦王の意向でアール・デコ様式を中心としたオシャレな邸宅です。戦前の建築は多数残されていますが、大半は公用建築だったり非公開あるいは限定公開しかされていません。そんな中、住宅として長く使用されて生活感があり、しかもそんな館内をくまなく歩けるほど公開されているのは貴重だと思います。

姫宮寝室前廊下照明。天井に映るカラフルな光も見て!
エントランス。正面のガラス細工はルネ・ラリック。賓客を迎える時にはこの扉を開いたんだそうです
エントランスを入った次の間にはアンリ・ラパンの香水塔が
書庫! 憧れの天井まで書棚の書庫! なお、光っているXは解説カード置き場ですよ
新館に展示されていたマックス・アングランのエッチング・ガラスの予備。予備があるのね


「開館40周年記念 旧朝香宮邸を読み解く A to Z」は5/12(日)まで。オンラインでの日時指定チケット購入が必要ですが、そのぶん人が少なめでゆったりと観覧することができます。戦前建築に興味がある方にはオススメですよ!


ただですね、ここで昔の記事の訂正です。以前、こちらの庭園美術館をご紹介した時に「広大な庭園(というかほぼ原野)も散歩できる」みたいに書いちゃったんですけど、それは間違いでした。いや、確かに立派な庭園はあるんですけど、こちらはキチンと整備された美しい庭園です。何しろ《庭園》美術館なんですからね。
でね、その庭園とは別に、庭園美術館を取り囲むように存在している「国立科学博物館付属 自然教育園」ってのがありましてね、これがもう武蔵野の原野のような鬱蒼とした森なんですが、こちらは別の施設です。
以前、庭園美術館に行った時にはこの二つの施設を続けて楽しんじゃったもんだから、記憶がこんがらがっちゃっていました。別の施設だったんですねえ。ただ、敷地は隣り合っておりますので、地図や航空写真で見ると一体に見えちゃうんですよね。
建物が見たいなら庭園美術館へ、森が見たいなら自然教育園へ。どちらも面白いのでオススメです。また、これらの施設の正面辺りをかつて三田用水が通っておりまして、暗渠好きにも楽しめる場所でもありますよ。ま、ほとんど痕跡はないけどね。


春になりますと多くの美術館・博物館で様々な企画展が催されます。季候も良くなりますからお好きな《館》に行ってみては如何でしょうか。いやまあ、春でなくても夏でも秋でも冬でも、いつでも面白い企画展は開かれているんですけどね。急に暖かくなったからなんとなく春でまとめたかっただけです。ではまた、来週。