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地テシ:260 「神州無頼街」の知らなくても良い基礎知識ってば!

突然ですが、dopeAdope step.6「フェイクキラーズ」への出演が決まりましたコトをここにお伝え致します!

2022年7月7日~11日に新宿のサンモールスタジオです。2019年のブシプロ「BURAI2」で共演した山﨑雅志さんや、劇団☆新感線の「メタルマクベス disc2」「髑髏城の七人 Season風」にも出演していた森大さんや、2012年の「abc★赤坂ボーイズキャバレー 3回表!」で共演した林修司さんが所属する演劇ユニットです。
以前に「DOPE OUT」という作品を拝見したのですが、オシャレながらも我武者羅な勢いもあって、とても面白かった記憶があります。
なかなかハードなスケジュールになりそうですが、どうぞよろしくお願い致します。


さて、「神州無頼街」も東京公演が始まりまして、今のところ順調にステージを進めております。前作の「狐晴明九尾狩」では時代背景や頻出用語などを解説しておりましたが、今作では特に説明が必要な要素がないんですよね。実在の人物やモデルがハッキリと判る人々もあまり出てきませんし。
ですが、知っておくとちょっとは面白いかも、という程度の要素はありますので、その辺りをちょっとだけご説明しておきたいと思います。


まずは狼蘭(ろうらん)について。これは、中島かずきさんが創作した殺人集団なのですが、とにかく人を殺すことだけに特化した一族でして、目標を達成するためにはいかなる犠牲をも辞さない人々です。
どんなモノでも凶器にするコトができ、毒にも薬にも精通した、まさに殺人マシーンとも呼べる存在なのです。
実は、この狼蘭族はこれまでの中島作品にも出てきておりまして、「蛮幽鬼」では堺雅人さん演じる《サジ》と早乙女太一さん演じる《刀衣(とうい)》が、「シレンとラギ」では永作博美さん演じる《シレン》が狼蘭族として登場します。
まあ、とにかく腕は立つのですけれど、人間としての感情が欠如しているといいますか、冷酷非情な人々なんです。
なんですけれども、それだけではないのが物語の良いところ。ただの殺人マシーンではなく、押し殺した感情の下にその人物の信念が見え隠れしたりするところに計り知れない魅力があるんですよね。それが故に印象的なキャラクターになるのです。

今作でも、ある人物が実は狼蘭族でして、その事実こそが物語を転がしていく重要な要素となっております。もちろんキチンと説明もされておりますから過去作品のコトは知らなくても大丈夫なのですが、「あの一族の末裔なんだなぁ」と思いながら見ると更に興味深くなります。
特に、その人物が暗殺の技を説明する時に手に持っているモノから思いを馳せたりするのも一興かと思いますよ。


次は時代設定について。今作は幕末が舞台です。様々な時代をモチーフにしてきた新感線ですが、幕末を描いたのは「IZO」だけですし、しかも作家は青木豪さんです。つまり、今作は中島かずきさんが新感線で描く初めての幕末物語なんです。多分、そのはずです。
今作の時代設定は慶応三年(1867年)。つまり明治元年となる慶応四年の前年です。幕末も幕末、明治前夜の大詰めなのですが、いわゆる幕末に付きものの《勤王》とか《佐幕》とかの人々が出てきません。いや、もちろん設定や言葉としては出てくるのですが、直接それらの人々は出てこないのですよ。その辺りに中島さんのひねくれ度合いが出ているなぁとか私は思ってしまうのですが、これはあくまでも個人の感想です。

しかし、幕末が舞台であるコトはこの作品にとって重要な点だと思うのです。ストーリー上でも「錦の御旗」つまりミカドを擁することが次の覇者になることが明示されていますし、薩長、幕府、更に侠客たちがミカドを中心に攻防を繰り広げる様子も語られます。
しかし、最も重要だと私が考えるのは「幕末という時代の大転換期であるコト」だと思うのです。長年続いた武家政権が、世界情勢の変化によってパラダイムシフトを余儀なくされる時代。全ての価値観が崩れ、全く新しい社会へと転換せざるを得ない人々。古い時代が壊され、新しい時代が生まれる瞬間。そんな《破壊と再生》こそがこの物語を動かしている原動力なんじゃないかなとか思うのです。
どんな状況でもたくましく生きていく人々、そして新たな命の誕生。そんな生命力に溢れたいくつものシーンが、新たな時代の到来を表している様に思うのです。


最後に、清水次郎長について書いておきましょうか。今作に登場するキャラクターの中で数少ない実在の人物が、幕末の侠客である清水次郎長とその子分である大政・小政なんです。
清水次郎長といえばなんとなく有名な親分だったなあ、程度の認識でも全然構わないのですが、ただのヤクザの親分ではなくて、とても義に篤く、地域振興にも尽力した人物だと知っておくと更に趣が深くなります。

講談や映画で「海道一の親分」とも称されて有名になりましたが、戊辰戦争の時に幕府軍の船が清水湊で新政府軍に攻撃されて全滅した際に、死亡した幕府兵の遺体を埋葬したことでも有名です。この行為を新政府軍から咎められた時にも「死人に官軍も賊軍もない」と答えたとか。実に義に篤い侠客だったようです。
また、明治になってからは地域振興のために港を改修したり富士山麓を開墾したり、また英語塾や病院を開設したりと、様々な事業を興していたそうです。
今作でも義理人情に篤く、独立独歩の本物の侠客という描かれ方をしております。しかも、演じる川原正嗣さんがまたカッコイイ! 超絶にカッコイイ! 実に魅力的なキャラクターになっております。
実は、2020年版ではこの次郎長親分を橋本じゅんさんが演じるコトになっていたのですが、2022年版では様々な事情でそれが叶わず、川原さんが跡を継ぐことになりました。川原さん演じる次郎長も無類にカッコイイのですが、じゅんさんが演じる次郎長にも別の格好良さがあっただろうなとか思ってしまうのは私も劇団員だからでしょうか。


そんなこんなの、知っていても知らなくても特に問題は無い予備知識たちでしたが、これらを頭の隅に置いてご覧頂けますと更にお楽しみ頂けるかもしれません。

あ、ついでに小ネタもいくつか書いておきましょう。
●「膠」という字は「にかわ」と読みまして昔の「接着剤」のコト。
●「一天地六(いってんちろく)」とはサイコロを表しています。
●宮野真守さん演じる「草臥(そうが)」という名前が気になる人は、スマホやパソコンで「くたびれる」と打って変換してみよう!

あと、最後に一つ、付け足すとすれば、今作では書き割りや照明によって何度か満月が描かれます。これは私の勝手な妄想なのですが、「髑髏城の七人 Season月」の「上弦の月」と「下弦の月」で主役を張った二人がバディとして主演を飾る今作ですから、上弦と下弦を合わせて満月を描いているのではないかな、とか勝手に思っていますよ。勝手に思うのは勝手だよね!


そんな「神州無頼街」は5/28(土)まで。ですが、5/14(土)には全国にてライブビューイングが行われますよ! お近くの映画館でご覧頂けますので、ぜひお越し下さいませ!