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掌編 「天丼」

 衣が美味しいんだよ、とソラは言った。ははあ、と受けるのが川島で、ソラは海老フライをほおばった。ソラは海老フライを尻尾まで食べる。ばりばり、と小気味いい音が響いて、川島は水を飲んだ。ソラは手を上げて、追加のオーダーをする。
「天丼」
 衣が美味しいんだよ、とソラは言った。揚げ物ばかりで心配だ、と返すのが川島で、ソラは大きく伸びをした。川島はあくびをして、海老フライへ手を伸ばす。時間が経って、湿気ったフライは、するすると川島の口に入っていって、ソラはごちそうさま、と手を合わせた。川島が残した海老の尻尾が、皿へ戻った。
「こちら、天丼になります」
 衣が美味しいんだよ、とソラは言った。いただきます、と手を合わせて、まだ食べるのか、と答えるのが川島だ。去っていくウェイターに、アイスコーヒーと言った。ソラはもぐもぐと口を動かしながら、川島を見ていた。天つゆのたっぷりかかった天ぷらは、さくさくと鳴らなかった。運ばれてきたアイスコーヒーと入れ替わりに、海老フライのプレートが下げられた。
「一口、くれよ」
 衣が美味しいんだよ、とソラは言った。答える代わりに、川島は口を開く。甘い脂の味が広がって、天つゆの香りが抜けていった。美味いだろ、と尋ねるソラに、アイスコーヒーを飲み込んでから頷く川島。天丼はもう半分もない。
「衣が美味いな」
 衣が美味しいんだよ、とソラは言った。

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