たまたま見た夢に気付かされる自分の物差し

ここのところ夫婦喧嘩が多い。
「可愛げがなくなった」なんて言われる中年期。

台風19号が話題になっている今日はこんな夢を見た。

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叩きつけるような雨と轟音、雷の音で目が醒める。

天候で体調を崩す事がよくあるわたしはおそらく薬を飲んで寝ていたのだろう。

目が醒めてすぐに考えたことは、ああ、洗濯物…だった。
今日は夫が家にいる。洗濯物は入れてくれただろうか…

起き上がりふらふらと寝室にしている部屋を出て、キッチンと居間のある部屋へ向かう。

台風が来る前に片付けたい、とたまった洗濯物を目一杯干した。
雨が降る前には乾いているはずだった。

キッチンに入るといつも通り楽器を抱え考え混んでいる夫の姿が目に入った。

わたしたち夫婦は家事を共有している。
だから雨が降る前に取り込んでくれただろう、と半分期待はしていたのだが、楽器を抱えた彼の後方には干す前より何倍にもずぶ濡れで、降り続ける雨をしたたらせる洗濯物の姿があった。

うんざりした。

「なんで入れてくれなかったの?」
と口にしながら、なんてくだらない質問をしているんだろうと思っていた。

「ごめん、気付かなかった」
と言われる。
そうだよね。気付かなかったから入れなかったんだよね。
気付いてたら、入れているよね。

誰にでもちょっとした事が許せなくて嫌味を言ってしまったり、モノに小さく当たってしまう時はある。

最近のわたしはその頻度が高くなっていて、案の定また言ってしまった。

「あーあ。これ、全部また洗い直さなきゃならないよ。はぁ。」
まるで、夫のせい、みたいに。

すると夫は、彼自身機嫌が悪かったのだろう。
「もう、うんざりだよ。出て行って欲しい。」
と軽蔑の眼差しをわたしに向け、そう言った。

それに対してわたしの口から出た言葉は

「わかった。でもこの家はわたしが探してきた家だから、あなたが出て行ってね。」

ベランダからは荒れ狂う嵐と飛び交う屋根の一部や袋、看板、道路の洪水、ずぶ濡れになって歩く人…
台風真っ盛りの景色が見えていた。

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あれ?
ここはどこだっけ?
わたしはなんで今外にいるんだろ?
帰らなくちゃ。

わたしの家はこのマンションの確か…42階?
それとも53階だっけ?

40階から上は住居者専用で、直通エレベーターがある。38階には住居者専用のレストランやショップが。

それより下は一般のデパートのような建物。
それがわたしの家のはずなのだが、何階に住んでいるのかわからない。

エレベーターのボタンをなんとなく押し、降りてわたしの家の扉を探すのだが、見つからない。

でもこの建物は知っている。
前に自分の夢に出てきた建物だ。
夢?
ここはわたしの家ではない?

途方に暮れて、外に出た。
嵐が去って次の日の赤い夕暮れ。

落ち着こう。
郵便物を思い出そう。
いつも自分あてに来る郵便物の住所は?

-301号室。
いいぞ。次は?建物の名前は?
……ランドハイツ。

そうだ、ランドハイツ、301号室。
三回建ての築40年は過ぎている小さな鉄コンマンション。
そこがわたしの家だ。

そこへ帰らなくちゃ。
そうだ携帯。

ズボンのお尻のポケットをさぐると、iPhoneといっしょに紙切れがでてきた。
20センチ四方の小さな紙切れを開いてみると、オレンジ色の水性ペンで絵が書かれている。

ぷんすかとむくれているわたし、ぽろぽろと泣いているわたし、はりきり気味のわたし、お菓子を食べているわたし。

絵が得意な夫が書いた小さなわたしがたくさん居た。
どのわたしも、とても可愛らしい。

喧嘩する前に書いていたずらでわたしのポケットに入れたのかな?
彼のこういうところ、大好きだな。

でも、出て行ってしまったんだな。
あの嵐の中、電車が苦手なあの人は、きっと、自転車で。

わたしはなんて最低なんだろう。なんてばかなんだ。

わたしをこんな風に可愛らしく描いてくれるところ、昔と変わっていない。

雨に気付かず洗濯物を入れなかった彼に腹を立てた。
食事を忘れて物事に熱中してしまう性格の彼を好きだったのに。

いつも電気を点けっぱなしにする彼にいらいらしていた。
わたしがお風呂のお湯を溜めていたのを忘れていても、彼がお湯を止めて「たまったよ」と教えてくれるのに。

お菓子をわたしのぶんまで勝手に食べてしまう彼にうんざりしていた。
彼は自分の食べているものを、自分が足りなくてもわたしに分けてくれるのに。

もう嫌だと思っていたところは、もともとはそうじゃなかった。
いつからか勝手にわたしが許せなくなっただけで、変わってしまったのはわたしのほうだったのに。

気付くと日はとっぷりと暮れて夕闇が街とわたしを包みこんでいる。

わたしはこれからどうしよう?
わたしの人生にはもう、彼は居ないんだ。とますます途方に暮れた。

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そんな夢を今日は見た。
目が醒めた時は泣いていた。
夢だと分かっていたが、身体が硬直してしばらく動けなかった。

強張りがとけてきて携帯を見ると「自転車がパンクしたから君の自転車借りたよ!」というメールが夫から来ていた。

きのうまでのわたしなら怒っただろう。
わたしも使うかもしれないのに勝手に?と。

くだらないんだ。
夫が私のモノを、自分のモノのように境界なく扱うところに苛立つなんて。

だって昔はモノを彼と共有できるなんて、嬉しくてたまらないことだったのだから。

モノなんてなくしたってまた買えばいいのだし、モノでしかない。

でも彼という人間に替わりはいない。

わかっているつもりなのに、あまりに自分に余裕がないとただ、悪意の塊みたいになってしまっている時がある。

相手は人間だ。
小さなことでもいちいち口とやかく言われたら自信をなくすし心がすり減っていく。

最近言われた「可愛げがない」という言葉。
夢で「出て行ってくれ」と言われてわたしが返した言葉は「わかった。ここはわたしが見つけた家だから、あなたが出ていってね」

本当に、可愛げがない。
笑えないくらい可愛げがない。
そういう事だと気付かされた。

夢の中で彼を失った。
あんなところもこんなところも、好きだったという感情しか残らなかった。
好きなところばっかりだった。

たかが夢、されど夢。

#日記 #夫婦 #夫婦喧嘩 #エッセイ

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