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なじみのカフェで考える、”人生の1/3”という時間軸について

海外初移住、メルボルンで親子ふたり暮らしを初めてようやく3ヶ月がすぎました。

とある日の朝、”なじみのカフェ”でミラクルが起きました。
このカフェは、私のコミュニケーション活動の一環で、ほぼ毎朝、決まった時間に、同じ飲み物、“アーモンドラテ”をオーダーしているお店。スタッフに“MADOKA、おはようー”って名前で呼んでもらうのをひとつのゴールとし、足しげく通っています。
この日もいつものようにウォーキングの帰り道に立ち寄りました。9時を過ぎていますから、朝の混雑はひと息ついたところで、お客さんは私を含めて5人ぐらいでしょうか(20人も入ればいっぱいになるようなこじんまりしたローカルカフェです)。
私はいつもの席にひとり座りました。
英語の勉強も兼ねて“Herald Sun”の見出しまわりをざっと読んでいると、見知らぬ女性がひとり入ってきました。70歳前後でしょうか、小柄なアジア人です。私は何となく彼女のことが気になり、ちらちら見ているとテーブルにある食器を慣れた手つきで片付け、キッチンに運んでいました。“えっ、この人は何者? かなりの常連なのか?”。しばらく彼女の行動を見守ることにしました。

この新聞を読むにはまだまだ時間かかります……。

英語から突如、日本語を話しはじめるふたり

このカフェは、40歳前後のオーナーと思われる女性とバリスタ、ふたりで切り盛りしています。さきほどのその女性は、親し気にオーナーと話し込んでいるのです。“この二人の関係性は何なんだ。ちょっ、ちょっと待て、顔が似てるな、もしや親子なんじゃないか?”
それからしばらくすると、その女性はオーナーに日本語で話し始めました。”うぉっ、今まで英語だったのに、何なんだ”、このふたり⁈”。私の頭の中は半ばパニック状態になり、質問せずにはいられない状況に……。
思わず「おっ、おはようございます、私、日本人なんです」と名乗る前に国籍を言う、ものすごく奇妙な挨拶をしてしまいました。

テーブルの前に広がるいつもの光景。

「あらー、そうなの。私はMARIKO。よろしくね」
「あっ、あっ、よろしくお願いします。私はMADOKAです。3ヶ月前に東京から引っ越してきまして、今はこの近くで娘と二人で暮らしています」
「そう、それはいいわねー、私はもうここに暮らして43年になるわ。それにしても二人で海外暮らしするなんて、大したものね」
「ありがとうございます。まだまだ慣れないんですけどね、何とかやってます」

まさかの日本語で自己紹介

私とMARIKOさんはその後もあれこれと話し込み、すっかり意気投合。私が推測した通り、オーナーのお母さんということが判明しました。
「娘はね、HANAっていうの。ここで生まれて、小学校だけは日本人学校に行かせたのよ」
「はじめましてHANAさん。私はMADOKAって言います、よろしく」キッチンで忙しくしているHANAさんに私、まさかの日本語で自己紹介をしていました。
ランチメニューに“JAPANESE VEGETABLE CURRY”や“THE OKONOMIYAKI WITH SALADA”、“RAMEN WITH GYOZA”というメニューがあるのも、お母さんが日本人だからこのメニューが生まれたということ。なるほど、なるほど、このカフェの謎がだんだん解けてきました。

今日はTHE OKONOMIYAKIはなし。

人生の1/3の時間をかけて店を切り盛りする

私とMARIKOさんが話している間もHANAさんは忙しく働いています。
「HANAさん、ここのオーナーさんですよね。お若いのに素晴らしい」
「でしょ、私もそう思うの。もう14年になるのよ、このお店」と誇らしげなMARIKOさん。するとHANAさんが、
「人生の1/3はこのお店にいるってことですね」と、キッチンの向こうから話してくれました。この“人生の1/3”という表現の仕方に、彼女が人生をかけてこのお店を切り盛りし、守り、そして育てているんだなと深く感じました。それと同時に、日本でイタリア料理店をしている夫のことを思い出しました。HANAさんの言葉を借りると、夫は“人生の1/2以上”を自分の店に捧げています。私たちが結婚して今年で24年になりますが、店で過ごしている時間のほうがうんと長い。いろいろ考えてしまいます、HANAさんの表現、じつに感慨深い。私は娘と”人生の1/3弱”の時間を過ごし、そして、“人生の1/10”に満たない時間をメルボルンで暮らす予定です。

いつもオーダーするアーモンドラテ。

異文化美容コミュニケーション、はじまる

「MADOKAさんは、こっちに来て何をしているの?」とMARIKOさんに聞かれました。
「私、日本でずっとフリーランスの美容ライターをしてるんですよ、もう20年以上になりますね。なので、オーストラリアの美容情報に詳しくなりたいなって思って、あちこちネタ探しに奔走してます。それと、サステナブルや環境問題も勉強しようと思ってます」
「えー、すごいじゃない。私の知り合いにね、美容にすごく詳しい友だちがいるの。月に何回か彼女の家に集まって美容レッスンしてるんだけど、今度一緒に行きましょうよ。あっ、でも、私の友だちだから年齢高めなんだけど、大丈夫?」
「そんな年齢なんて関係ありませんよ。美容は一生ですからね、むしろ先輩のご意見を伺いたいくらいです」と丁重に答えました。
「じゃあ、電話番号交換しなくちゃ。次回は、クレイパックについて教えてもらうのよ、みんなでパック」
見ず知らずの方とメルボルンでクレイパックをする。何と素晴らしいことなんでしょう、これこそまさに“異文化美容コミュニケーション”。世代を超え、国を超えて新しい美容の扉が開くことにときめき、ワクワクをおさえることができません。

こうして私は“なじみのカフェ”の一員となり、まさかのオーナーさんのお母さんと友だちになるというミラクルまで起きました。人生とは本当にわからないものです。半年前は東京のスタジオで雑誌のメイク撮影に立ち合い、モデルさんやヘアメイクさんに取材をしていた私。あの時の時間も本当に大好きで、今でも現場に戻りたいと思うことがたびたびあります。でも、こうしてメルボルンで出会った人たちのつながりも大切にしたい。

人との出会いで、人生が豊かになる。
メルボルンの小さなカフェで、私は確信いたしました。

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