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幻の練馬サーモン

かつて練馬サーモンと呼ばれた魚がいた。
釣りを始めたいと思った当時、自宅のある東京23区の西側から行ける釣り場を検索していた。
元々江戸は港町であったので、割と海へのアクセスは悪くなく、お台場や豊洲なら首都高を使えば30分ほどで行ける距離である。シーバスやクロダイを狙うのは楽しそうだ。とは言えわざわざ首都高使うのもなあ、という正直な気持ちもあった中、釣りの情報サイトやブログを色々眺めていたある日、としまえんでの釣りについてのレポートを見つけ興味が沸いた。

としまえんフィッシングエリアは2010年から夏季以外のプールの活用として管理釣り場として営業していたが、釣りに興味がなかったためそんな事になっていたとは知らなかった。ここなら環八使って車で20分ほどであり、気楽に遊べる感じもするしして初心者が行くにはうってつけではなかろうか。

そんな期待を込めて2020年の2月に初めて行った「としまえんフィッシングエリア」は、思った通りカジュアルな感じがする場所だった。どう見てもデート中の高校生カップルがキャッハウフフと楽しんでいる。ハードルが少し下がった気がした。
しかしこちらは菅釣りどころか魚釣りそのものがほぼ初心者の50代。しかもルアーは子供の頃から憧れていたが、まともに投げた事もない。スプーンの種類も分からず、釣り場の売店に相談し反則級に釣れますと店員さんが勧めるルアーを購入し早速釣ってみる。とはいえ、狙ったところに投げるなどという芸当もできるはずもなく、最初の数時間は練習のつもりでキャスティングを繰り返す。

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やっと一匹何とか釣れて、これは面白いと感じた矢先、見回せばスタンドにロッドを何本も立てて、分厚いスプーンワレットからルアーを取り出す人が大勢いた。なるほどこのオーラを纏った方々が常連さんなんだなと、思わず彼らが使っているタックルをしげしげと眺める。常連客たちは、朝から並んで場所をとっているそうで、開園組の方々は昼には引き上げる感じだった。そんな中、60cmを超える魚を持ち歩く人がいた。それがここの名物「練馬サーモン」だった。

凄え。

正直、驚いた。それと同時にたまらなく釣ってみたくなった。
大きな魚を釣りたくなるのは釣り人の性というか狩猟本能の残滓というか、自然な感情だろう。
練馬サーモンだ。最初の目標が決まった。

練馬サーモンとは

「ニジマスの三倍体」という通常のニジマスよりはるかに大きく、更に赤身になるように養殖した魚を当エリアでは「練馬サーモン」と呼んでいます。今までの最大サイズは87cmととても大きく、釣りごたえ、食べ応えのある1番人気の魚です。

三倍体?通常の3倍のサーモンかと思ったが、事はそう簡単ではない。染色体の違いなのだ。

普通、ニジマスとブラウントラウトを交配させても、その子どもはほとんど死んでしまいます。そこで、
(1)普通のニジマスの受精卵(2n=二倍体)に高い水圧をかけて染色体を2倍(4n)に増やします。
(2)成長した四倍体(4n)の雌から採った卵子にブラウントラウトの精子を受精させ、三倍体を作ります。
三倍体は、雄も雌も子どもを生むことはありませんが、雌は卵をもたないため、その栄養が成長にまわり通常よりも大きくなり肉質もよくなります。
そこで、
(3)ブラウントラウトの雌を雄性ホルモンで性転換させ、将来雌になるX精子しか作らないようにして四倍体ニジマスの卵子と受精させます。

3倍体は生殖能力がない反面成長が早く、しかも自然環境に逃れても繁殖できないため環境を汚染しない、らしい。あくまでも人間の都合で生み出された生物であるが、だがそれが悪いとは誰が言えよう?
そもそもほとんど家畜は人間の都合で繁殖したものだし、競走馬だってそうである。
全ての命が尊いのなら、ちゃんと食べて自分のエネルギーとし感謝を捧げるべきではないのか?

鮭と鱒の違い

練馬サーモンについて調べて初めて知った事が多々ある。
「Q1:「さけ」と「ます」の違いは?」
結論から言いますと、生物学的に明確な区分はありません。

は?

もはやカオスである。
おにぎりの具で一番好きなのはここ40年ほど鮭なのだが、コンビニで食べる鮭のおにぎりは果たしてどこの鮭なのか?海で養殖されたニジマスなのか?

しかし自然環境に負荷をかけず、人間の嗜好や食欲を満たすテクノロジーとしてこのサーモンの養殖技術の発達はとても有意義ではないかと思う。

ならば、何としても自分の手で採って捌いて美味しくいただきたい。
ではどうすれば釣れるのか。

練馬サーモンを釣る為の装備

としまえんのフィールドは、大型の練馬サーモンを中心に放流している「ミシガンエリア」、ルアーフィッシング専用の「ナイアガラエリア」、ルアー・フライ・エサ釣りが出来る「アマゾンエリア」があり、練馬サーモンをルアーで釣るにはミシガンエリアで5gのルアーを30〜40m投げなくてはならないらしい。
常連さんはそのために開園前から並び良い場所を確保していたのだった。
しかも、3.5gから5gのルアーを40m遠投だ。いきなりハードルの高さを思い知らされた。

軽いルアーを遠投するなら、スピニングリールが王道だ。
ベイトフィネスというベイトリールで軽いルアーを使う釣りも近年盛り上がりを見せてはいるが、まだまだ数は少なく管理釣り場では酔狂の部類である。実際としまえんフィッシングエリアでもベイトリールを使っている人は一人もいなかった。
だが、そこが楽しそうだ。

アンバサダーでトラウトを釣る人を検索すると、それなりにいそうではあった。
だが、エリアトラウトも渓流釣りも主流は2500番台をカスタムしている記事ばかりだ。4000番台で管釣りしている人なんて一体どれだけいるのだろうか。

ならばやってやろう。

とはいえ、ノーマルの4600C R,Gunnar Sprintで3.5gのルアーを投げるのは素人にも相当難しいという事は想像できる。ましてや40m先のポイントを狙うのはリールの性能だけの問題ではない。それに適したロッドが不可欠だ。
一般に、ロッドは長ければ長いほど遠投性能は高いらしい。そしてとしまえんフィッシングエリアのレギュレーションではロッドの長さは8ftまでとある。
このレギュレーションに合致したベイト用ロッドを検索した結果、1本のロッドに行きあたった。

Fishman beams inte 79ULを購入

ベイトロッド専門メーカーであり、世界中の怪魚からアジングまでをこなすロッドを開発している北海道のメーカー「Fishman」。レギュレーション内で可能性のありそうなのはこのメーカーの Beams Inte 79ULだ。
ということでリールをカスタマイズするかたわら、あちこち検索しこのロッドも入手した。

突然の閉園

2月に釣りに行き目標を決めロッドも入手した矢先、新型コロナウイルスの感染拡大を受け緊急事態宣言が発令された。これを受けとしまえんフィッシングエリアも休業となり、何とそのまま5月で閉園となってしまった。その後としまえん自体が老朽化とパンデミックにより8月には閉園してしまうのだが、これで練馬サーモンにチャレンジするための投資が無駄になってしまったのだった。というか、これはないよ西武さんと今でも思っている。一時は外資系の企業と組んでハリーポッターのテーマパークを作るという報道もあったが、いやそれも違うでしょうと。

Fishman beams inte 79UL はせっかく買った事だしメバリングやアジングにも使ってみたが、ど素人の自分ではとても性能を出し切れたとは言えずにいる。

帰ってきた練馬サーモン

ところが、2020年の冬に練馬サーモンが復活するという話がSNSで囁かれていた。
としまえんフィッシングエリアの運営会社が西武園も運営することになったらしく、同じ養殖業者から仕入れるため西武園に練馬サーモンが帰ってくるというのだ。
期間は2020年12月4日〜2021年2月28日。
これは行かねばなるまい。

今度はクルマで1時間ほど。西武園ゆうえんちも改装中で駐車場からプールまで迷いながら到達すると、釣りができるのは流れるプールのみ。10mキャスティングすれば対岸へ届く感じなので、長い竿は必要なかった。
6時間ほど粘り、10匹ほど釣れたのだが練馬サーモンは釣れなかった。
餌釣りのカップルが釣り上げているのを目撃したので、確かにそこに存在はしていた。

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その後西武園ゆうえんちフィッシングランドもシーズンの営業を終了し、今季の営業は未定のままとなっている。もう練馬サーモンには会えないのだろうか?
この記事を書くために色々を調べていたところ、こんな記事を見つけた。

「練馬と名付けたが、実は富士山麓のきれいな水の養魚場出身なので、ぜひ刺し身で味わってほしい」

そう言えばとしまえんで放流していたトラックは富士山ナンバーだったし、かつての公式サイトにもそう書かれていた。ならば養殖はまだ富士山麓で行われているはずだ。
いつかどこかでニジマスの3倍体を釣ることでリベンジは達成できるのかもしれない。

エリアトラウトの楽しさ

管理釣り場での釣りは、確実にそこに魚がいる釣り。それをどうやって攻略するかのゲーム。
海など自然の中で釣るのは楽しいが、どこに魚がいるのかを探り当てるまでに時間がかかることが多い。
常に同じ場所に通っている地元民やベテランには当然だが到底敵わない。
新型コロナ禍の中、手軽に自然で遊べるとありキャンプや釣りがちょっとしたブームになっている中、マナーの悪さなどから釣りを禁止する場所も増えてしまっている。
環境に負荷をかけずに釣りを楽しむという意味では管理釣り場は理に叶っている。
と言いながら、単純に楽しくて仕方ないのでこれからは各地の管理釣り場を体験していきたい。

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