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オリジナルとバリエーションの微妙な関係

今回は、「オリジナルのトリックを創作するレッスン」を購読なさっている方からのご質問です。今週はレッスンの配信が休みなので、レッスンの番外編とでも言うのでしょうか……。

ご質問「多くのマジシャンやマジック愛好家が、先人の考えたトリックのバリエーションを考えたり、公表したりしています。

そのバリエーションを作るときについて疑問があります。どうしたら良いバリエーションが創れるのか。そして、そのバリーションが作品として優れていて、新たなオリジナル作品として認知されるには、何が必要だと思いますか?

前田さんが誰かのマジックのバリエーションを作るときに、気をつけていることなどがあれば教えてください。

「オリジナルのトリックを創る」というレッスンの目的から、少しはずれるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」

お答え: 僕が誰かのトリックのバリエーションを考えるとき、気にかけていることは、「バリエーションは、原案者をムカつかせる。嫌な気分にさせる」ということ。いつも、それを忘れないようにしています。

なぜなら、原案を考えた創作者は、その形がベスト(最適な答え)として選んでいるはずですし、時間をかけてそれを選択したはずだからです。

しかし、僕らは「このやりかたのほうが、優れてるんだ」とか「こうしたほうが、簡単なのに」と、つい手順を省略したり、変更したりします。もしかしたら、子供の頃、教科書の内容や教師に反抗するような、幼いクセが抜け切れていないのかもしれません。

こんなふうに、「自分の作品を誰かに改変されたときの感情」を、僕が断言できるのは、ちょっとした理由があります。それは、世の中を見回すと、そんなトラブルがよく起きるからです。たとえば、歌手の森進一さんが『おふくろさん』のイントロ部分を少し付け加えて歌ったことで、作詞の川内康範さんは激怒。「もう森には歌って欲しくない」、「もう森とは、生涯二度と会わない」と宣言しました。当時は頻繁にワイドショーで伝えられたので、ご記憶にある方もいるかもしれません。

金字塔とされるSF映画『ブレードランナー』でも、原作者のフィリップ・K・ディックは、いろんな要素を変えた監督のリドリースコットを激しく嫌っていたことが知られています。スコットが、1982年の12月にVFXシーンの一部を見せたことで二人は和解しましたが、残念ながら、映画完成前の翌年の3月にディックは他界しています。

それでは、バリエーションを作ることが良くないかというと、そうではありません。「ごめんなさい。この部分を変更しちゃいました」とか、「たぶん、ムカつかれてるんだろうなぁ」という、少しの罪悪感とバリエーションを生む必然とのバランスなんだと思っています。

それは、誰かの作品を踏み台のように利用するズルさではなく、原案者の労力を尊敬し、尊重するのか違いでもある気がしています。つい、うっかり「自分が考えた」「こっちのほうがいい」みたいな振る舞いをしてしまえば、自分の黒歴史になりかねないし、マジックの神様がいるとしたら、たぶん嫌われてしまうんだと、僕はなんとなく信じています。

それは、自分のマジックの領域が果てなく広がって、大きなマジックの世界につながっていると意識するのか、それとも家族や友達にみせたらウケた、という小さな空間だけで完結するのかの違いなのかもしれません。

バリエーションがオリジナルに昇華するとき

カードマジックの名作のひとつに「トライアンフ」(バーノン、1946年)があります。トランプの裏と表をバラバラに混ぜて、それが戻るというトリックで、世界中のマジシャンが「トライアンフ」のバリエーションを発表しています。

そのトライアンフも、今から100年ほど前に、デランドが(ダブルバックもしくはダブルフェイスを使用したであろう)商品を発売(1914年)し、後に普通のカードを使うメソッドがジョーダン(1919年)、ギブソン(1927年)により発表されています。

そんな経緯から、バーノンの「トライアンフ」でさえ、バリエーションと言えなくもありません。しかし、現在では「トライアンフ」が(トライアンフシャフルと共に)バーノンによるオリジナル作品と認知されているのはご存知のとおりです。
(ちなみに、僕が演じるトライアンフはメンドーサによるバリエーションです)。

つまり、そのバリエーションに優れた部分があり、なおかつ、世界中の人に「スゲー!」って言ってもらえるだけでなく、レパートリーとして演じられ、時間の淘汰にも消えないとき、それがオリジナルに昇華するのだと想像しています。

それは、どんなジャンルでも同じだと思います。まるで、キリスト教における、実存で生臭い人間が、聖人に認定されるのと似て、生きているうちにはムリな話なのかもしれませんが……。

マジックを音楽や絵画、演劇など、ほかのジャンルと同じ、「広く、大きな世界」と「永い時間に育まれる」、そう想定しておいたほうがいい。僕は、そう思っています。

オリジナルのトリックを創るレッスン」は、誰かのトリックのバリエーションではなく、「これは僕のオリジナルなんです!」と言えるような作品を創るためマガジン。連載期間は2021年4月から6月までの3ヶ月。無料部分もあるので、ご興味のあるかたはチラ見してみてくださいね。

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