見出し画像

『セクシー田中さん』作者・芦原妃名子さん急死

漫画家の芦原妃名子(あしはら ひなこ)さん(本名・松本律子、50歳)の訃報は多くの人々に衝撃を与えました。

彼女の漫画『セクシー田中さん』は、17年9月から小学館『姉系プチコミック』で連載され、23年10月に木南晴夏主演でドラマ化されました。

このドラマ化に際し、原作者の芦原さんは「原作に忠実に」という条件を提示。しかし、実際には原作からの大幅な改変が行われ、芦原さんは訂正指示を繰り返すも、最後は自ら9、10話の脚本を担当を申し出ることに。それでも漫画家としては経験が浅い脚本執筆に満足がいかず、自身の力不足をSNSで反省していました。

これで終わればよかったのですが、この投稿が大炎上となり、ドラマ制作側(脚本家など)やテレビ局に対し、攻撃的な内容の書き込みがネット上に溢れ、波紋を広げました。


◆報道ガイドラインについて、当記事の見解

まず最初に大事なことをお伝えします。専門家によるガイドラインによれば、自殺報道について、その原因を推測する記事はご法度とされています。ですので、本記事は芦原さんの死因については言及しない事とします。

◆ネット上の負のエネルギーが「原作者のお墨付き」を得たと勘違いした悲劇

この事件から浮き彫りになったのは、日本における「原作クラッシャー」問題(原作の映像化が、原作の内容や魅力を大幅に損なうことでファンの批判を浴びること)の深刻さです。

過去に映像化されたあらゆる漫画作品の失敗が積み重なり、ネットユーザーの間で不満がくすぶっていたことが、これほどの大炎上を引き起こした主因と思われます。

原作者の告発=本音をSNSで見た彼らは「原作者のお墨付き」を得たと勘違いしたのか、ここぞとばかりに日ごろの不満を爆発させているかのようでした。

◆「原作ものの映像化」が下手だった日本

日本映画の「原作ものの映像化の下手さ」は、2003年に「超映画批評」( https://movie.maeda-y.com/
を私がオープンさせた時から、重要な批評テーマの一つでした。

ここで20年以上色々と考え、試行錯誤してきましたが、現時点での結論としては、外部の人間ができる唯一の方法は、実写化作品に対する「具体的な」批評を行い続けることです。

大事なポイントとしては、文句や批判ではだめで、読めば改善できるような「具体的な」指摘がないとあまり意味がありません。感想と批評の違いはその点だと思っています。

その方が得だ、その方がビジネス上も利益がある、と論理的に納得すれば、作り手側も次回からそのように行動します。

これは20年以上「批評」活動をやってきて実際に効果があったことなので、感情的にSNSで不満を表出させる前に、ぜひ共有してほしいと思います。

◆20年単位でみれば、相当な改善がなされている

実際、クリエイターや関係者で「超映画批評」の隠れた読者は少なくないようで、ひそかに指摘についての共感やお礼、「ダメ映画になった裏事情」を寄せられることが何度もありました。表立ってはなかなか言ってくれませんが……。

当時と比べれば今の邦画界の「原作モノの映画化テクニック」は、見違えるほど向上したと思います。

こう書くと、最近の作品について「原作クラッシャー」だとお怒りの向きには信じられないかもしれません。

もちろん私の目から見てもまだまだ不満は多いですが、2点とか3点(100点満点中)をつけたくなるようなデタラメな実写化は、ほぼ見られなくなったのも事実なのです。

◆良い映像作品を作ればすべては解決だが……

そもそも「原作クラッシャー」問題をなくすのは簡単で、原作より面白いか、原作同等の高品質な映像作品が当たり前になればいい。

「原作クラッシャー」とは、「原作の"良さ"のクラッシャー」という意味なので、とにかく良い映画やドラマさえ作れば、(原作改変を一切許さぬ一部の原理主義者以外は)誰も文句は言わないものです。

◆あと10年で問題は大きく改善する

しかし、言うは易く行うは難しで、これは一朝一夕には成りません。何しろここまで向上するのに20年もかかったのです。

ただし、ペースは遅くとも良くなってきているのは間違いないので、あと10年もすれば70点以上が当たり前、くらいにレベルアップするのではないかと私は期待しています。

◆「SNS上で不満をぶちまける」は危険、問題を悪化させる可能性が大

一方、今回のようにファンが怒りに任せてSNSで言いたい放題、脚本家や制作陣、テレビ局を攻撃するのは、絶対にやめたほうが良いと断言できます。スポンサー等への不買運動なども同様です。(見ていないと思うかもしれませんが、実際はテレビ局などはこうした声をかなり詳細に集めています)

また、原作者本人が、不満をSNS等でぶちまけるのも非常に危険だと思います。

なぜならば、そのような事をするとテレビ局などは、「この作家のファンは面倒くさい」「この作家は面倒くさい」と判断し、「もうコイツの作品を扱うのはやめよう」と結論付ける可能性が高いからです。

「よし、次はもっと上手に映像化しよう」ではなく、単にブラックリスト行きにする──。

これは大企業の危機管理上の問題なので、容易には変えようがないものがあります。

唯一無二の大作家先生なら別でしょうが、良くも悪くも日本には分厚い中堅作家層があるので、彼らは簡単に「代わり」を見つけてきます。

◆関係者が内情を発信するのも危険度が高いと知るべき

原作者以外の関係者の、個人的な発信も極めて危険です。たとえば今回の騒動は、ドラマ版の脚本家が自身のSNSで制作の内情を暴露したのがそもそもの発端でした。

クリエイターは作るのが仕事で、その多くはメディア発信がはらむ危険性については素人同然です。同種の事件が相次いでいる現状を見れば、危機管理ができている人の方が少数派でしょう。

その日の食事の写真程度ならともかく、舞台裏についてなにか発信したいのであれば、情報やメディア対策の危機管理を理解しているその道の専門家に任せる方が無難だと思います。

それくらいの意識でいないと、原作どころかすべてがクラッシュ、破滅する危険さえある時代だという事です。

◆まとめ

この記事では、感情的な情報発信は映像化のクオリティアップにつながらず、それどころかせっかく世に出た原作のチャンスまでも奪いかねないというお話をしました。

マスへの発信はかつては特殊技術で、特別な教育と経験のある人、組織しか手を出せない、出してはいけない分野でした。

インターネットによってリテラシーのない発信が増え、その危険性がこれだけ明らかになっても改善されないのは、「発信」が特殊技術で、取扱注意なものであることを、いまだほとんどの人が認識していないからだと思います。


※こうしたエンタメ時事分析を読みたい方は、私のメルマガ(まぐまぐ殿堂入り)

超映画批評【最速メルマガ版】
https://www.mag2.com/m/0001689910

もチェックしてみてください。ほぼ週刊&無料です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?