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デザイン経営2020 :大企業デザインリーダーに聞くこれからの経営とデザイン メモ

ロフトワーク主催の「デザイン経営2020」のDay2(2020/05/26)のメモです。

セミナー前半部分のロフトワークの林千晶さんを進行役に、ソニー株式会社 VP. クリエイティブセンター センター長 長谷川豊さんと富士フイルム株式会社 執行役員/デザインセンター長 堀切和久さんのお話のメモです。

この日は大企業の中でのデザイン部隊のあり方の実情や、大企業の中でデザイン経営を進めていくのに必要なものは何か、というテーマのトークでした。

SONYデザインの3つのミッション

ソニー株式会社 クリエイティブセンター センター長 長谷川さんによると、SONYデザインの活動として以下の3つのミッションが語られていました。

1.ビジネス貢献
2.コーポレート貢献
3.新価値創造

1.ビジネス貢献

これはSONYがこれまで培ってきた技術やノウハウを新たなビジネスとして実装する試み。
例えばVision-Sのようなモビリティを開発した際は、SONYの持つセンサー技術やオーディオを含めた空間設計など、SONYの持つ技術の側面からモビリティの新たな価値を創造しようとした試みでした。

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また開発事業部のトップとデザイン部隊が1からものづくりの原点を作り上げていくような活動もこの分野とのこと。
XPERIAなどもこのように開発事業部とデザインのタッグによってどのようなメッセージやストーリーを伝えていくか、ということをディスカッションした上で、デザイナーがその伝え方を設計したそうです。


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2.コーポレート貢献

会社への貢献として、デザイン部隊が主導となって各事業部のトップや社長と未来のビジョンについてディスカッションを重ね、年一回程度「デザインビジョンブック」を作成しているそうです。

会社全体でのデザインへの理解と、デザイン部隊が会社を牽引していく主導力の強さを感じました。

3.新価値創造

まだサービス化のされていないような要素技術を使って新たな事業を模索するミッション。
かたちや完成度にこだわらず、とにかく新しい事業への種を見つけていく開発活動もデザイン部隊が主導して行っているそうです。

なかなか多くの事業部を抱えている組織だと、自社にどのような技術があるのかって意外と分からないものだったりします。しかしSONYほどの大組織でも、非常に部門間の風通しの良さを感じました。
そして、デザイン部隊が組織のハブとして機能し、新たな価値創造を行っているという姿も非常に魅力的でした。

また、長谷川さんの言ったデザイナーとは「テクノロジーを編集、翻訳して感動価値を創造する」職業だという言葉も印象的でした。


独立した部隊として会社のデザインを試みる富士フイルム

富士フイルムの堀切さんによると、富士フイルムにも同様にデザインのミッションがあり、以下のように分けられるとのことでした。

1.ブランディング
2.事業デザイン
3.製品、サービスのデザイン
4.新規ビジネス創出

SONYとの違いは「事業デザイン」という分野が含まれていること。

事業デザインとは、かたちやサービスを生み出すことではなく、もの自体がどのように作られていくのかをデザインするものだとのこと。
製造工程だったり、部署編成、人員リソースの割当てなどのことなのかと想像しましたが、そんな分野までデザイナーが担当できるということからも富士フイルム社内のデザイン部隊の人員の豊富さや、社内のデザイン部隊への理解度の高さを感じました。


富士フイルムの単独デザインスタジオ"CLAY"

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また富士フイルムはダイナミックなデザイン経営を実現する一環として、デザイン部隊のための社外独立スタジオとしてCLAYを組織しました。

CLAYは社長直轄の部隊として、社内の製品開発だけでなく広報や経営企画にもデザインを統括する権限を与えられているそうで、富士フイルムのデザインへの注力の仕方がわかります。

またこのようなデザイン部署が各部署のハブとなるような組織構成によって、デザインをメソッドとして用いて健康でクリエイティブな企業体質をつくることを目標としているそうです。


デザインがわからない人に噛み砕いて説明する必要はない

ここからはトークセッションで印象に残ったものをピックアップします。

社内でのデザイン啓蒙活動についての質問で、富士フイルムの堀切さんがこのようなことを言っていました。

デザインをわからない人に理解してもらうために簡単な言葉に噛み砕いていくと次第に離乳食のようなコミュニケーションになってしまう。
しかし、噛み砕いて簡単な言葉にしてしまうとデザインの本質は伝わらないため、あえて固く難しい言葉でも投げかけて理解を得る姿勢が重要。

自分もなるべく言葉を選んで、、と説明をする際に考えてしまうことが多いですが、この言葉を聞いたときそもそも言葉を選んで、なんてやっている時点で少し上から目線でおこがましいような気もしてきました。
これからは自分もなるべく「噛み砕かない言葉」で自分のデザインを理解してもらえるような手段を探すようにしたいです。


デザイナーに何ができるのかを質問してもらえるようにする

同じ質問に対してのSONY長谷川さんのコメント。

確かに、いくらデザイナーの役割を広くしようと言っても、周りの理解を得ていなければ前に進みません。そもそもデザイナー(というか自分は)何ができるのか、ということを質問してもらえるような仕組みは重要かと思いました。どちらかというと「自分から発信しなきゃ」という思いが強かった自分にとっては新鮮な観点でした。


中小企業より大企業のほうが尖ったデザイナーがいる

これはロフトワークの林さんが話した言葉。まさしくそうだと思いました。
どちらが良い、というよりは性質の違いと捉えています。

中小企業では少数のデザイナーが幅広くデザインを行っている(自分の会社もそう)のですが、大企業は「自分はこれ」という専門の領域に特化してキャリアを積んでいく傾向があり、その結果ニッチで尖ったデザイナーが多いという結果に結びついています。

確かに自分も学生の時に大きい電機メーカーでインターンをしたときもその傾向を感じました。
今は製品のかたちだけでなく、ブランドやUXなどの無形の分野のデザインにも携わることができているので自分としては満足していますが、それは裏を返せば大手のように職人的に尖った専門性を身に着けられないというのも事実としてはあるように感じました。


感想:企業のデザイン理解と同時にチーム強化が必要

中規模メーカーのインハウスデザイナーとして働いていますが、たしかに近年では社内でもデザインへの理解を示そうとする動きや雰囲気はあるように感じます。
そのため、たしかにSONYや富士フイルムのように社内をデザインドリブンで改革していくようなことは以前よりはしやすくなっているかもしれません。

ただ、ここでの話の前提には「豊富な人材と推進力あるデザインリーダー」が必要不可欠で我々規模のメーカーではそのどちらないのが実情です。

そのため仮にカタチだけここでの企業のやり方を真似てみたところで、肝心のデザインチームの力がないために途中で頓挫することが容易に想像できてしまいました。

デザイン啓蒙活動も必要ですが、それと同時にそれを実現させていくための個人の自己成長、有能な人材補強もすすめる必要性を感じます。

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