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旅人へ、雨の日に思う

旅先の朝。
私はまずベットで耳を澄ます、そしてカーテンを開ける。
青い空に朝陽が差してますようにと。
でも昨日のニュースで既に今日の天気予報を知ってる。
あー、やっぱりだ。
天気予報ってエライもんだな・・ポジティブに捉えようとがんばるけど。
雨は雨。
せっかく天気を気にせず旅行を楽しみたかったのにな。

ポツポツ・・なんとかなるかも。
シトシト・・たのむ、午後だけでも。
ザーザー・・明日はお願い、今日は諦めるから。

私が旅行先で思うのはこんな気持ち。

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ある日のハイキングツアー、ガイドとして思う話。
朝から大雨。
元々10人のお客さんから予約があったが、今朝までに8人キャンセル。
そらそうだ残念だけど。私もお客さんならそうするよ。

でもまだ2人はキャンセルしてないので集合場所に向かう。
大きな傘に長靴スタイル。
カッパも着ようと思ったけれど、リュックから説明用ファイルの出し入れを考えて諦める。
ザーザービシャビシャ。
今日旅行している人を思うと胸が痛くなる。
せっかくの京都、晴れの中で観光したかっただろうに。
雨だと予定変更、洋服、雨具と考えることも増えて煩わしいだろうに。
なにより京都が雨の思い出と共にあるのは申し訳ない気持ちになる。

集合は駅のコンビニ前。
お客さんはまだ来ない。
もしかしてドタキャン、またはキャンセルし忘れたかな。
このまま30分待って来なければ自動的にツアーはキャンセルで私の仕事は終わる。
いっそのこと来ないでくれた方が残念なお天気の話をしなくていいし、気持ちいいハイキングが雨で嫌な思い出に変わらなくて済む。
そんなことを思いながらお客さんを待つ。

10分後、若いカップルが到着。カリフォルニアからだそう。
ピタッとしたスパッツにTシャツ、かばんなど持たないカジュアルスタイル。
私はいつも通り、テンション高めにご挨拶。
そして、今日は激しい雨が降っているから山道はドロドロで岩場は滑りやすいと説明する。
2人とも「オーケー!」と笑顔、そして「傘いるかな?」と質問された。
一瞬、思考が止まった。
気がつかなかったけど、そういえば2人とも傘を持っていない!
この状況で傘がいるかどうか・・考えたこともないよ、逆に(笑)
いるでしょう!当たり前に!という言い方は乱暴だけど、腹の底の細胞レベルでは思っていたかもしれない。
だから「こんなお天気だからね・・」と歯切れ悪く答えてしまった。
「わかった!1本?2本?」とテンポ良く返事が返ってくる。
1本か2本か?また思ってもない質問がきた。
簡単なようで、すごく難しい質問に感じた。
もし雨がやめば、2本買ったことを無駄に思われるかもしれない、
それならカップルだし1本でもいいのかも、
でも山歩きは仲良く一緒にさして歩けない、
小降りなら山の中は木々が傘の代わりになって、雨にあたらず歩ける可能性もある。
私の頭は思いもよらない質問と、一歩も二歩も先の予想をどう返答していいか
分らなく混乱して、言葉も出てこない。
そんな私の様子を察してか、とりあえずコンビニに買いに行く2人。
うん、任せよう、もしかして2本傘が売っているとも限らないし。

戻って来た2人はそれぞれ傘を持っていた。
それを見て、雨が止まないといいなと思った。

民家の立ち並ぶ細い路地を抜け、20分ほどかけて山道入口へ向かう。
いつも通り、お地蔵さんや地蔵盆、神道の話をする。
私の声が雨にかき消されそうで、いつもより声を張った。
2人とも興味を持って聞いてくれて心地いいスタートだ。
なぜ日本を旅先に選んだのか、これまでどこに行って、何を食べたのか。
定番の質問だけど、完全プライベートツアーなのでまるで親しい友達と話している気分だ。

もう一つ彼らに聞いてみた、雨だと分かっていたのにツアーはキャンセルしなかったのか?
すると「なぜ雨でキャンセルするの?僕たちは雨でも関係なく楽しいよ。」
また思ってもいない返事が返ってきた。
そうか、彼らにとって雨だろうが、雨でなかろうがこの日を楽しみに来てくれたんだ。
私はなぜ雨で可哀想だと決めつけて思っていたんだろう。
急にまた違う意味の申し訳なさが込み上げたが、同時に少しホッとして彼らの楽しみに来てくれた気持ちに感謝もした。

山の中を進む。
予想に反して、木々の下でもかなりの雨粒が降ってくる。
彼らは「傘2本買って本当によかったよ。」と笑いながら話していた。
私が朝から勝手に背負っていた重荷がまた一つ下りた気がした。
目の前の彼らは完全に雨のハイキングを楽しんでいる。
そう感じると、私も余裕が出てきて傘をよけて空を見た。
木の隙間から白い空が見えたが、それより手前の何層にも重なる木の葉が圧倒的で新緑のみずみずしいグリーンだ、それを見たら雨を否定する自分はもういなかった。

ツアーの最後には小降りになって、無事にツアーも終了した。
最後の最後にツアーの感想をトリップアドバイザーに書いてもらえたらとお願いする。彼らはこう書いてくれた。
「雨にも関わらず楽しい思い出をありがとう」

こちらこそありがとう。




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