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前田和摩「怪物」

田澤廉選手がトヨタ自動車へと就職し、学生駅伝界隈では次のスター選手を捜さんとしていたが、まさか自ら名乗り出てくるとは微塵も思わなかった。それが、前田和摩くんその人である。

全日本大学駅伝予選会では最終組で留学生と渡り合い、箱根駅伝予選会でも1年生ながら堂々の日本人トップとなる全体9位。いうまでもなく、彼は今大会の目玉選手ともいえる。

そんな怪物が選んだ大学は東京農業大学。10年近く箱根から遠ざかっていた農大をなぜ選んだのか。そこにはぶれない思考があった。


世界を目指している

東京農業大学は駅伝では実績を残していない時代でも戸田雅稀選手や、MGC優勝者の小山直城選手など実業団で活躍する選手が入学し切磋琢磨を繰り返してきた。その中で前田くんもまた「世界を目指す」。

そういったことを考えている選手の一人だ。だからこそ、練習環境を重視したかったのだという。

「箱根は憧れの舞台の一つですが、最終的な目標はオリンピックのマラソン日本代表として世界と戦い、入賞すること。そのためにも、大学ではケガしないように自分のペースで練習をじっくり積ませてもらえる環境を大切にしたかったんです」

https://number.bunshun.jp/articles/-/859245

ぶれずに自分にとって最適な練習環境を選ぶことをいとわない。その思考こそが前田くんの根源にあり、そして今もなお変わらずにあるのだ。実際に東京農業大学で監督を務める小指徹さんもまた、前田くんの状況をしっかりと理解している。

もっと練習させればいいタイムは出る

「ケガをさせないことが一番です。もっと練習させれば、すぐに27分30秒、40秒くらいのタイムは出ますけどね」

https://number.bunshun.jp/articles/-/859245

このように小指監督も語っている通り、本来ならば前田くんが練習を積めばタイムが出ることは間違いない。しかし、あくまでも目指している先がその先であることを分かっているからこそ、前田くんも小指監督も無理はさせない。

東農大に入り、コツコツと補強トレーニングに取り組み、徐々に体作りも進めているところ。基本のジョグにも気を使う。あえてペースを落とし、長い距離をゆっくりと走ることを心がけている。ジョグで体を調整し、ポイント練習にはしっかり力を注ぐ。

そうして今もなお「世界と戦えるだけの身体を作ること」に主眼を置いているように思える。それは彼がまだ陸上競技というものを始めて、まだ4年しかたっていないからだ。

本格的に始めたのは報徳学園から

実は前田くん中学まではサッカー部に入っていて、中学3年間はサッカーボールを追いかけていた。駅伝部に助っ人で駆り出されてそこから報徳学園にスカウトされたわけだが、本格的な陸上のトレーニングを始めて間もないころ疲労骨折に見舞われてしまう。

「あれほどもったいない時間はなかった」と語ったほどで、その失敗があるからこそ、彼は決して練習では無理をせず、継続的に練習ができることを主眼に置いて行うようになっていた。

そのようなぶれない思考の中でインターハイ5000メートルで日本人1位になったことは何も驚くべきことではない。そして冷静に自分を客観視でき、分析できる環境にあることと村上和春コーチなどの理解を得ることができたことで農大の進学を選択したこともまた、驚くべきことではなかった。

ぶれることなく、そして冷静に。彼は一度の失敗から多大な情報を得てそして次へと活かしていく。そういった頭脳も持ち合わせている。だからこそ、むやみなプレッシャーを自らにかけるのではなく冷静にできることだけしか口にしない。

「高校の時、『僕がやらないと』と思ってしまって、3年生の県駅伝で失敗しているので、『やらないといけない』という考えではなくて、『力になりたい』という気持ちです」

https://4years.asahi.com/article/15029255

何よりも高槻くんと並木くんという強いランナーがいる東農大において、今彼がやるべきことは自らの力をまずは出し切るだけということ。その姿を無事に焼き付けることができると、私は信じている。

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