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第99回箱根駅伝感想「最後の男祭り」

ということで、箱根駅伝の総括をしていこうかと。

レースの展開で行ったらぎりぎりの展開での勝利だった訳だが、今回の駒澤は「誰が出てもある程度やれるだけの能力がある」チームだった。
もっと言うならば、絶対的エースだった田澤廉くん以外であれば外れても2位以下を2分から3分ほどに離せるだけ力があったと考えている。

さらに田澤くんが万全であればヴィンセントくんの記録を塗り替えることだって可能だったかもしれない。
勿論青学が若林くんを起用できなかったというエクスキューズがあるにせよ、彼のコンディションが万全であれば1時間5分台で走破していただろう。
だとしても1時間6分台を2度出したのは凄い。今回のレースに関していうならば接戦を制したという形にはなるが駒澤大学の圧勝と言いきってもいいかもしれない。

だが、レース全体を見渡せば下記のポイントがあった。今回はあくまでも優勝を分けた部分だけにフォーカスを当てる。

4区鈴木芽吹くんの競り合いを制した「強さ」

前回、駒澤大学は当時2年だった安原太陽くんが3区で青山学院当時1年の太田蒼生くんに突き放され、区間16位と大ブレーキに終わる屈辱を味わった。その太田くんは今回準エース区間でもある4区を走る事となった訳だが、いうまでもなく芽吹くんの実力は大学2年生で日本選手権3位に入るレベルの強いランナーだ。
怪我が多い選手とはいえ、本来の力を発揮すれば競り勝つことはたやすい。しかし、太田くんもまた前回の箱根では3区区間賞を獲得した丹所健くんと堂々と渡り合う強さも持っている。
青学も若林くんが万全であれば、多少負けていても大丈夫と踏んだのだろうが、5区は高い能力を持つ山川くんだったことと8割くらいの出来であれば存分に力を発揮できる芽吹くんの実力差でわずかに及ばなかった。区間順位とタイムでは25秒太田くんが早く1つ上だが、このたった1秒が結果として明暗を分ける形となってしまった。
また、中央大学も結果として4区で逆転されたことが復路でも大きく響いてしまう事となった。明暗として別れることになったのは山登りと山下りではなく、4区だったと個人的には見ている。

勿論、近藤幸太郎くんの2区での激しい走りの流れにやや3区で乗り遅れることになった青学の横田くんと田澤廉くんが60%のコンディションの中でも最善を尽くした走りを見せて、何とか競り勝った篠原くんという差はあった。
こうした4区までの各区間にて細かな競り勝ちがあったこと。これがレースの趨勢を決めることとなったことは言うまでもない。

とはいえ、山の区間が大きな影響を与えなかったかと言えばそうではない。青学とタイム差にして7分、2位の中央大学相手には互角だったとはいえ、重大な差がついた。そちらについても解説したい。

流れを掴んだ5区、決定的にした6区

5区の山川拓馬くんと6区の伊藤蒼唯くんはそれぞれ当日変更で選ばれた選手だ。何よりも1年生であることは見逃せない。適正区間であったことはもちろんだが、経験者のいた中央と違ったのは「思い切りの良さ」だったのかもしれない。

山川くんは青山学院の脇田くんを大きく突き放していくと、途中中央の阿部くんに15秒差まで詰められる。最終的にはそこから15秒差を離してゴールしたが結果として詰めることが出来た秒差は8秒。トップの妙とまでは言わないが、その貯金を大きく活かすことが出来た駒澤と追いかけざるを得なかった中央との差が如実に出た。

結果6区では今回唯一駒澤で区間賞を獲得した伊藤くんが芦ノ湖からさらに17秒引き離したことで、中央にも大ダメージが残った。決して平地の選手たちのレベルから言えば中央も駒澤と引けを取らないレベルの選手たちが残っていた。挽回しようと思えばできたはずだが、結果としてこれが駒澤にとって「耐える」こととなった7区と8区で差を詰め切れなかった決定的な差となった。

耐えた7区と8区

逆に駒澤にとってこの区間は「耐えられる」という算段を踏んでいたのだろう。安原太陽くんも花尾恭輔くんの代わりに入った赤星雄斗くんも決して力のないランナーではない。
区間順位とタイムでは7区で千守くんが3秒詰めたものの、8区ではかえって秒差を広げられ、結果としてこの時点でレースは決まってしまった。

山野くんは3年連続9区を走る実力者だし、青柿くんも前回大会で10区の経験者。中央も当然実力者を走らせたが、ほんのわずかな差ながらも駒澤の各選手に余裕を持たせることとなってしまった。

一方で各駅伝で勝ちまくっていた青山学院は今シーズンは「無冠」に終わった。これは2014年度に箱根駅伝を制覇してから初の事だ。

2015年度出雲と箱根、2017年度は3冠、2018年度は出雲と全日本、箱根駅伝復路、2019年度は箱根、2020年度は箱根駅伝復路、2021年度は箱根駅伝と圧倒してきた。

駒澤に力負けした面もあるが、ミスの許されない展開の中である程度計算していた選手たちが体調不良や怪我といったものに狂わされる事は多々ある。前回大会ではそれが駒澤で、今回は青学だった。チームのピーキングにあれだけ優れる青学でさえもここまで苦しむ今、駒澤大学の3冠は途轍もない価値があることは間違いない(もちろんどの時代の3冠も大変重要な価値があることは否定しない)。

有終の美を飾った大八木監督

その要因は、やはり駒澤大学の名将・大八木弘明監督が最後の指揮を執るからという事もあったのだろう。近年でこそ指導スタイルが変化したと言われているが、日本の長距離陸上界において、彼ほど育成能力に長けた指導者はいない。

早稲田大学の花田勝彦監督が「指導者は辞書」と部員に話したが、大八木監督はまさしくそれを体現している。

大八木監督の記事は別途書きたいが、その時代に合わせて変化しそして多くの選手を育成してきた彼の実績そして最後にかける想い、自発的に部員たちから出た「3冠」という数字……。

最後は気持ちという部分で表現があるならば、間違いなく駒澤大学の2022年度は「大八木監督の為に」と選手たちが結束した大きな結果だったのだろう。選手の差が上位3校でそこまで無かった…そう考えるならば、だが。

そして次の100回、藤色のたすきには御大ではなくその愛弟子が指揮を執ることとなる。その箱根路はどんな景色を映し出すのだろうか。

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