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たね二郎、金の延べ棒を買う⁉

愚息たね二郎は自分の拠点を持っているのに週の半分くらい帰って来る。
洗濯物を詰め込んでパンパンになったリュックを背負って。

自活出来る十分な収入があるのに、洗濯機を買う気配の全くないたね二郎。

そんなたね二郎がいつもの如く、口の中いっぱいにご飯をかっ込みながら「オレ、金の延べ棒買おうかな」とふいに言った。


何の脈絡もないことを口走るたね二郎の性質には慣れてはいるものの、「金の延べ棒」は日常的な語彙群から逸脱した単語なので、さすがにちょっと何言ってるか、意味がわからなかった。


金の洗濯機買えよ!

心の声


親の私もアウトプットは直感タイプなので、コトバにならないツッコミが脳内で秒発信されてはいたが、そこは亀の甲、表面では平静を繕えていた。

「そんなもの買ってどうすんの?」

「置いとく」

「どこに」

「オレの部屋」

「金庫も買うつもりなの?」

「いや」

「じゃどうやって保管すんの、物騒でしょーに」

「デスクに転がしとけば文ちんっぽいし、
冷蔵庫に入れとけばチョコに見えるだろwww」

私は幾つの息子と会話しているのだろう。
会話がどこへ行くのか見えないし、
母はおかしくもありませんよ。

心の声


たね二郎は(お察しかと思いますが)天然なところがあり、ちょっと変わっている。

そんなことはわかりきっていても、それでも時には言葉を選んで聞いてやらないと会話が成立しない。


「そんなもの買ってどうすんの」ではなく
あなたが金の延べ棒を買おうと思った根拠は何ですか?
と、聞くべきだった。

心の声


「何でまた金なんて買おうと思ったのよ」

「えー?何ていうかあ~、
お金を銀行に預けとくのってどうなんかなあって最近思うんだよなあ」

「うん?」

「銀行もいつどうなるかわからんし、オレみたいな職種には預けておくメリットもないんちゃうかなあって思うし」

「うん??」

「かといってオレ、欲しいモノってないし

「え???」


✕「欲しいもの」  〇「要るもの」


「え?」

「あ、いや、それで?」

「で、収入をそのまま銀行に置きっぱってどうなんかなあって」

「せんたk、、、選択に困っている的な?
せんたk、、急にそんなこと気になり始めたの?」

洗濯機買えよと叫びたい気持ちと葛藤しつつ、傾聴に徹する。

「いや~、前々から思ってたんだけど、こういうご時世だし、ちゃんと考えてみた方がいいかなって思って。」

洗濯できないご時世なのかな?
洗濯じゃなくて、選択について前々から思ってて、でも、洗濯機購入の意思はないのね。
ってか、洗濯機という選択はよぎりもしないのね。


金の延べ棒の意図がよく呑み込めないまま、洗い物をしていると、自分の部屋から出て来たたね二郎が「これ」と、ニヤニヤしながら手のひらを私に差し出した。

彼の手の上には一対の黒い勾玉のようなものが乗っている。

「何それ?」

「無線のイヤホン」

「あ、すにーかーぶる~すみたいなヤツ?」

「何それ」

ものすごい真顔。
知らないんだなあ。

「Bluetoothな。自分には必要ないと思ってたけど、試しに買ってみたら、めっちゃ、えぇんだ~これが!」

「あ、そ・・・」

興味なさそうな私にたね二郎はその手のひらをずっと差し出している。

「何?」

「つけてみて」

「何で?」

「まあ、試してみてよ」

ふだんは自分のモノを触られるのを嫌がるくせに、黒い『すにーかーぶる~す』を私に装着してみろと手のひらを突き出したままニヤニヤしている。

洗い物中なんだよー!と思いながらも、手を拭いてそれをつまみ上げると、たね二郎は私のPCを開く。

設定からBluetoothを『有効』に切り替え、YouTube動画をクリックした。

「そのままトイレ、行ってみて」

面倒くせ~・・・

と思いつつも、言われるままにトイレへ入ってドアを閉める。
音が遮断されることなく聞こえているのを確かめて居間へ戻る。

「ちょっと感動するだろ⁉」

鼻を膨らませて同意を求める。

「な⁉」

「そうだねえ」


「ベランダ行ってみて」

「はいはい」

しぶしぶベランダへ下りて戸を閉める。
ちょっとひんやりする暗闇の中に立ち、たね二郎のニヤニヤはもしかして、サプライズなのではないかとはっとする。

私の誕生日はもう四か月も前だ。

が、親の誕生日を覚える気のないたね二郎なので、この際、そういう小さいことは気にすまい。

そうか、サプライズなのか。
ふ~ん… ♪

顔面が少し崩れそうになりながら空を見上げる。
ああ、月明かりが気持ちよい。


「なかなかいいんじゃない?」
思わず私もニヤつく。

「だろ?だろ?ええよなあ?」

「うん、思ったより音質がすごくいい!
お高いんじゃないの?」

「そうでもないよ、5千円くらいだったかな?」

も~、金額なんか言っちゃってヤボな子ねえ


耳から外したそれをたね二郎が再び差し出した手の上に置くと、たね二郎は大切そうにそっと黒いケースに入れ、自分の部屋に戻って行った。

パタ・・・


静かに閉まったドアを見送る私。


・・・?

まだ少しワクワクしている


ほどなく部屋から出て来たたね二郎は「風呂」とつぶやきながら浴室へ向かった。
手には着替えのパンツを持っている。

思考停止中




たね二郎はBluetoothが自慢したいだけだった。


・・・


「ちょっと!金の延べ棒の続きは⁉」
風呂から出て来たたね二郎に気を取り直して聞いてみる。

「あ~、いや別に金の延べ棒が欲しいんじゃなくて、たとえば保険でもええんよ。
貯蓄タイプとか、特約保険10年分一括払い250万くらいとかでも」

「ぇえっ⁉どゆこと?」

「ん~いや、
まだちゃんと決めたわけじゃなくて、色々考え中ってこと」

Bluetoothを見せたかったのはどういった流れ?


まあ、サプライズでも洗濯機でもないならもうどーでもいいけど。

ティッシュラッシュ



後日、弟(たね二郎叔父)からLINEが入る。

たね二郎からNISAとidecoについて相談が来たぞ

弟は小遣い稼ぎに一年ほど前、少額の積み立てNISAを始めていて、年利で2割近いものを得たとの情報を義妹(弟の妻)から入手していた。
(ナイショのはずのNISA情報を掴んでいるとはさすが義妹であるw)

それをいつか、たね二郎に話したことを思い出した。
(「何でオレに相談来たんだろ」と弟はいぶかしがっていたw)


はは~ん・・・


今年も残すところ3か月ほどとなり、青色申告たね二郎もそろそろ今年の収入の見通しがつく頃である。

さては何か税務的なことを意識し始めて、その思考の途中が「金の延べ棒」だったのではなかろうかと思い至る。

ふーむ、資産運用とか、税金対策とか気になるってことは・・・

ほほう?




さて、突然ですがここでクイズです!


こんなたね二郎ですが、

なぜ洗濯機を買わないのでしょうかっ⁉





この答えはまたいつか・・・


たね二郎と洗濯機についてのおさらいはこの記事 ↑で。

では、また~

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