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15歳の娘が男だと言い出した。(14)

違う、1年半くらい前。。。。』

この言葉が頭から離れなかった。
この時期は、彼女にとって、おそらくとても辛かった時期なのだ。
まさか、あのことが、まだ尾を引いているのか。。。。
原因があるのだとしたら、あれしか考えられなかった。

彼女が自分を男性だと自認し始めたと言った時期、それは中1の最後ごろ。
世界は、コロナ禍の最終段階に入ったところという時期。
中学という新世界がスタートするも、まだまだ世の中の不安度は高く、
授業は開講になったり、オンラインになったりを行ったり来たりする日々だった。

小学校までのSちゃんは、女子だけとつるむという子ではなく、男子とも女子とも
交友の幅がとても広いのが特徴の子だった。
中学に上がるとすぐに、彼女を含めて5人だけの、小さな女子グループに身を置いていた。それまでの交友関係の広さとは変わって、とても小さな集団の中でその子たちだけと付き合う様子を見ていて、コロナ禍だからなのか、それともそういう年齢なのかなと、親として少しの心配から聞いたことがった。
「小学校で仲の良かったR君とかD君とかCちゃんとか、最近名前聞かないけれど、仲良くしてないの?」
「選択クラスで一緒だったら喋ったりするよ。でもなんかさ、沢山の人と仲良くするって疲れるんだよ。小学校は楽しかったけど、結構疲れたんだ、今思うと。
これからは少ない中で、仲良くしたいなって。人間関係ちょっと調整してるんだ」

「そっか」
彼女が決めたこと。任せればいいと思った。

中1の年末のとある昼下がり。学校カウンセラーから電話が入る。
「お嬢さんのことで、お話したいことがあります。このままお電話で伝えて良いでしょうか」
突然のことで、とても驚いたが、話を聞けば、S本人が望んでいるので
クリニックに受診させてあげてくださいということであった。
星の数ほどあるクリニック、どの科に受診したら良いかを問えば
「そうですね、カウンセリングがある思春期外来があるクリニックや心療内科などが良いと思います」
との回答だった。
「学校で何かあったのでしょうか。。。」
「そうですよね、私からこういったお電話があれば、ご心配なお気持ちになりますよね。お嬢さんからは、今の段階では親御さんには言いたくないということで、
詳細をお話しすることは控えたいというのが現状です。ですがお友達との関係というところは話して良いと了解を得ています。
私の方に自ら話に来てくれたことは、大切な行動が取れたこと、その気持ちを支援しながら、継続的にお嬢さんとお話しをしていきたいと考えています。
お母様もあまり心配なさらず、まずは本人が望む医療機関に連れて行ってあげてください。私はそちらとも連携いたしますので、また連絡をとっていきましょう。」
おすすめとやらのクリニックをいくつか教えてもらい、
メモを取って電話を切った。

情けない。。。。
娘の変化に全然気がついていなかった。。。。
友達との関係ということは、想像するに無視や仲間はずれなどのイジメに関することだろう。いじめを受けていた?いや、いじめ側なのだろうか。。。
小学校でもお友達とのトラブルは常にあったが、それは見えていた。だからきっと私は、妙な自信を持っていたのだ。
中学からの彼女の心の変化、、、全く見えていなかったことに、母親として、失格だなと自分を責めた。

スクールカウンセラーから電話があったことは、伝えていいと言われていたので、
どうやって切り出そうかと悩みながら、彼女が帰宅する前に、いくつか教えてもらったクリニックに電話をして一番早く予約が取れたところに行くことを伝えようと思った。

「ただいま」
いつもの元気な声が、玄関に響く。
「おかえりなさい、Sちゃん」

ポーカーフェイスを装ったつもりが、私の表情で悟ったのだろう。
不安げな顔になった。
「Sちゃん、〇〇っていうクリニックの予約をしました。◯月◯日、◯時からです。予約まで10日ほどあるけれど、大丈夫かな。」
「うん。」
「まま、ありがとう」
「こちらこそ、教えてくれてありがとう。すごく勇気が入ったよね。。
ごめんね、言いにくかったよね。。。」
「。。。。。」

謝ってはいけなかったかなと思った。謝れば、親に迷惑かけたとか、親に心配させたくないとかの気持ちできっと自分を責めるのではと感じた。。でもその時期、転職をしたばかりで忙しかった私に、言いにくい雰囲気を感じていたのかもしれないのだ。

何も答えてくれなかったけれど、部屋に行こうとしていた背中に一言だけ声をかけた。

「まま、今から抹茶クッキー焼くね、着替えたら降りといで」

いつも通りにしよう、あの時は、それしかできなかった。


続く







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