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Review#20:Letters from Juan vol.5 (Juan Tamariz)

全6巻のうち5巻目で、今回は紫。かなり面白かったです。Letters from Juanはどんどん面白くなってる気がします。いよいよ次回は最終巻です。どうなるんでしょうか。早速内容にいってみましょう!


Letter from Juan (序文)

タマリッツがとんでもない生活リズムであることや、孫がヨーヨーアーティストであること(なお孫のダニエル・タマリッツは大阪で開催されたヨーヨー世界大会で優勝、グランプリ獲得しています)などのアイスブレイクではじまります。
タマリッツが、客を自分のサイドや後ろに座らせる理由を述べています。そちらに座らせると首しか見えないじゃん?って言われるけど実はね…という内容で、勉強になります。

なお、タマリッツの孫の優勝パフォーマンスはこちらで見られます。マジシャンが見ると、「おぉ、手品やないか」と思う瞬間が数回あります(笑)

Tweezers: A Two-Card Monte

映像で単売されているものでVanishing Incからダウンロード商品で出ています。演技自体は以下のYouTubeから視聴可能。

ハンドリング含めて、映像とほぼ同様なように見受けられます。タマリッツの大好きなメキシカン(以下略)なども出てくるモンテ風作品です。
解説はかなり気合が入っていて、体の向きや手の位置など、詳細に語られており、この作品からタマリッツが伝えたいミスディレクションであったり、アスカニオのConditioned Naturalnessだったりが散りばめられています。
なんというか、まぁ現代的なSNSマジックに慣れすぎていると、現象が起きるまでどんだけ引き伸ばすねん、と思わなくもないのですが、その構造的強さによって観客が追いにくくなっているのは間違いないです。
後半フェーズいいですよね、モンテで折り目つけるやつは個人的に好き。

Dupless Transpo

非常に大胆かつダイレクトなマジック。なんですがタマリッツ、あなたでもこれは厳しいんちゃうか、とすら思う内容。
現象は至ってシンプルで、客の持っているデックのトップカードと2枚めのカードをテーブルに置いておまじないをかけると、入れ替わっている、というもの。ただ、手法が大胆すぎる。
正直これは彼のメッセージがあまり読み取れない部分があり、味わいきれていません。タマリッツ自身がカードに触れていない印象をつくっていそうではありますが特にそこに至る工夫は見当たりません。2枚目のカードを描写するところで詳細なイメージを描写する、などの小さなtipsや、現象を示していくところに関する彼の考察はありますが…その程度です。ぜひ皆さんの考えを聞かせてもらいたい作品。

Polyphony

アンビシャスカード、リバース、カードトゥポケットがミックスされた壮大な作品。クイーン4枚がアンビシャスしたりリバースしたり移動したり、ポケットから出てきたりクイーン以外のデックがポケットに移動してたりと、もうとにかく現象盛りだくさんのルーティンです。
おそらく、非常にテンポよく演じることで、冗長な感じはなくなるように思います。現象も多岐にわたるため飽きなさそう。ただ、観客からすると、驚いている間に次の現象が起きていそうで、せわしなくなるのは間違いないので、適切なポーズが必要でしょう。タマリッツとしては、異なる現象をシームレスにつなげて演じる試みとしての作品だそうです。
マジックのスライトそのものの難易度は高すぎるわけではないですが、適切なミスディレクションによって十分にカバーできる内容です。まぁ自分がやることはないかな…とは思います、盛りだくさんすぎるので。構成は勉強になる部分があり、現象の強さも後段に連れて強くなっていくなど意識されているように見受けられました。

Impromptu Total Coincidence

Magic from my Heart (DVD)にあるImpromptu Real Magicと同じらしい(DVD未見)
Sonata(邦訳『ホアン・タマリッツ カードマジック』)に掲載されているTotal Coincidenceと比較すると、2デック使わずに1デックだけで現象が成立するものになっています。ざっくり言えば、軽量化されている、とでもいいましょうか。オリジナルの方はフルデック使いますから、カードを配るくだりなどが冗長になることは間違いなく、かなりのショーマンシップを求められていたものですが、シンプルに枚数が減っていることによって、そういう無駄な時間がごっそり削られています。
Impromptuと名前がつけられていますが、これは言ってしまえば、別トリック演じつつも必要なセットアップを終える、というものです。非常に狡猾な考え方で、賢い。この類の試みは、だいたい退屈になる事が多いのですが、タマリッツの提案は観客参加型になっていて、むちゃくちゃいいな、と思いました。多くの人が参加している場でこれをやられたらマジで魔法に見えるはずです。良い!

そして改めて、Total Coincidenceっていいトリックだな、と思いました。NYCでショーを長いこと演じているSteve Cohenもトリで演じていますし、トリックそのものも強力、ショーマンシップでもってさらに観客をノックアウト可能、という本当に素晴らしいトリックですわ。
お手元にある方は、Fig.20~22でタマリッツの狂気が伝わってくる、といったら共感してくれる方は多いのではないでしょうか。

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