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Review#21:Letters from Juan vol.6 (Juan Tamariz)

いよいよ最終巻。虹の色が日本は7色ですが、西欧では6色の国も多く、ゆえに6巻で終了です。vol.6は、トリックそのものの不思議さは失速した印象はありますが、学びの観点からはとても得られるものが多い内容でした。ということで走りきりました!
Rafael Benetar氏が全編英語に訳してくれたことに改めて感謝です。

全6巻

Letter from Juan (序文)

マジシャンがトリックについて議論する際に、秘密(タネ)の部分に注力してしまい、肝心の現象(効果)の部分をおろそかにしてしまいがちなのではないか?というアラートをあげる序文。(と理解しました。Sustainabilityとなどの単語が出てくるんですがちょっとよくわからん部分もあります。)

Aces Through a Book

サインされた4枚のエースの貫通現象。1枚ずつ、貫通のレベルが変わります。

  • デックを貫通(中程からボトムへ)

  • (デックを載せている)本を貫通

  • 本の途中まで貫通(ページの中程から出てくる)

  • 机も貫通してしまう

それぞれの現象を起こすための準備をいつするのか、どうカバーをしているか、という点に注目して読むと学びが多かったです。実用性はかなり高いものですし、構成しかりカバーしかり、takeawayが多い作品ですね。

Another Suit to Order (Gimmicked Version)

タイトルに冠されている通り、ギミックが必要であり、簡単な工作でできるものが必要。それ以外には
Letters from Juan vol.2の”A Suit to Order”の別バージョンであり、客が選んだカードが同じスートで1~Kまで全部揃う、という壮大なもの。なのですが、まぁ前バージョンでも感じた「いや結構しんどい」という印象は特に変わらず。こちらも演技のリズムが相当重要になってきます。
ですがギミックになっていることにより演者側の負担はかなり減っています。あと、トリックの秘密部分については、タマリッツ流のフォース集の趣が強いため、いくつか頭の片隅に入れておいてもいいと思いました。手法自体にはそこまで真新しさはないのですが、これらを組み合わせて1~Kまで揃う作品にしたのはお見事。

Roulette (A Mnemonica Miracle)

タイトルでネタバレしてますがMnemonicaです。Mnemonicaをつかって即席のルーレット的なものをつくり、数字を観客に選ばせるための手法です。商品紹介文にも書いてあるので言ってしまいますが、要はフォースの手法です。Mnemonicaの応用範囲ってすげぇな、という感想以外は特になし。数字1つ選ばせるのにここまでやるのは冗長すぎるので…。ただマジシャン殺しだな、とは思います。

Multiple Divination

フランスのマジシャンRaynalyの古典トリックのバリエーションとのこと。初耳でしたがMagicpediaに名前がありました。

4枚のパケット5つを、それぞれの客に見せていき、5人に1枚ずつ覚えてもらう。パケットをシャッフルしてデックに戻したのち、マジシャンは観客のカードを当てていきます。
即席版やスタックを使う版など様々なバリエーションがここで紹介され、タマリッツの創作における思考方法がよくわかります。Letters from Juanでは、スタックを使うバージョンやレギュラーでやるバージョン、借りたデックでやるバージョン、ギミックを使うバージョンなど、同一の効果を達成するのに複数のシチュエーションを想定して解説されているケースが多くありました。vol.6ではAnother Suit to Orderがそれですし、vol.5ではImpromptu Total Coincidenceなどがまさにそう。

演者の負担はやや大きいもののかなり不思議なトリックでしょう。パケットを分けて覚えてもらうくだりなどの正当化、理由付けが必要だなぁ、とは思ってしまうんですが、観客が大人数であればあるほど良さそうなトリック。

全巻を通しての感想

全6巻読んでの感想は、①アスカニオの履修があったほうが作品を味わえること、②行間を読んでメッセージを読み取ることが必須、ということです。以前のレビューでも書きましたが。

主に英語圏でですが、特に発売当初のネガティブレビューが目立ちました。確かにトリック単体だけで見れば、平凡なものや習作の側面が目立つものも多いのは事実であり、褒められない理由もよくわかります。ただ、そこの裏にあるタマリッツのメッセージやアスカニオの理論などを無視しすぎです。というか読み取ろうとすらしていない気がする。そういう読み取ろうとしないオタクに向けては、特にvol.6の序文にある警笛が響くのではないでしょうか。マジシャンはタネそのものにだけ興味を持ちすぎてしまっているという話。私も心に刻んでおきたいです。

あとは全般的にTipsが多いんですがこれがとても良いというかタマリッツのオリジナルなものが多く、それは「読んでよかった感」を得やすいです。

発売された2023年後半は円安であったこともあり、全巻揃えるとなかなかなお値段になります。値段に見合っているかと言われると心の底から薦められるものではないのは事実ですが…vol.2,vol.4, vol.5あたりは個人的にもおすすめなので、それだけでも読んだらいいと思います!

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