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屈辱のバリウム、流血の胃カメラ

「本日は全ての検査を受けられますか」
毎年、会社の健康診断の受付で決まってこのように聞かれるのが気になっていた。

昔いた会社は大きな会社だったので、健康診断キャラバンが毎年やって来ては敷地内の全社員に定期健康診断を受けさせていました。
仮設の健康診断会場と何台かのレントゲン車の周囲を、変な作務衣を着せられた社員が10日ほどウロウロすることになるのです。
こんな行事は大企業特有のことと知るのは、大きくない会社へ転職した後でした。

それはともかく、冒頭の質問です。
全部の検査を受けますかと、いちいち本人の意思を確かめるということは任意の検査があるということだな。
よーし、ならば、
「胃のエックス線は受けません」
と、ある年に言ってみました。
すると受付の白衣の看護師は、ギョッとして「す、少しお待ちください」と言いながら後ろの方へ引っ込んでいきました。
定まった流れ作業の中、突然のイレギュラーに戸惑ったようでした。

ボクは、この胃のエックス線、いわゆるバリウム検査というものが大の苦手でした。
しかしこれは40歳を越えると毎年受けないといけない。

まずバリウムがダメです。育ちがいいのでマズいものが喉を通りません。
何とか必死で飲んでも、その後の発泡剤もダメです。
げほっとゲップを出したくなるのを止めるのにひと苦労です。
そして最も苦手なのが、本番の撮影です。
固いハーフパイプのウナギの寝床みたいなところに寝かされ、あらゆる方向へ傾かされ、そこでキリモミ状に右回転したり左回転したり、苦しい上にとても屈辱的なのです。
頭が斜め逆さ、つまり4時くらいの方向の逆立ちみたいな姿勢にさせられ、「はいそこで、右に回転して、はーい次、そのまま左へ回転して」などと野太い声で次々と命令され、ぐるぐる回らされるのです。
苦しいやら情けないやらです。
その日はその後ずっと、気持ち悪さと屈辱の後遺症に悩まされます。
また便秘気味となるので下剤を飲むのですが、下剤でのバリウム排出も気分の良いものじゃありません。

そんな屈辱と苦しさがあるのに、胃のエックス線検査は、どうやら無意味な検査、有害な検査であるらしいという説を聞いたことがありました。
どうやら早期胃がんを発見できる確率が低いとのこと。
それは”そもそも”の問題じゃないですか。
スクリーニング検査として、そんなことでいいのでしょうか。
あとエックス線の被曝と便秘による腸へのダメージも看過できないそうです。
いわゆる侵襲性が高いということです。
そんなこんなで健康診断の時期には毎年モヤモヤしていたので「胃部エックス線は受けません」と言ってみたわけです。

後方へ引っ込んでいた受付の看護師が用紙を手に戻ってきました。
この紙へ”一筆”書け、ということのようです。
受診しない理由を考えないといけません。
「イヤだから」「ムカつくから」とは書けないなあ。
うーむ。「宗教上の理由」にしようか。文句はつけにくいだろうけど、後々おかしな事態になるかもなあ。
受け取ったその紙を詳しく見ると、「他の医療機関で内視鏡検査等を受けた場合」「受診日」「医療機関名」という項目がありました。
あ、ここにテキトーに書けばいいんだ。どうせ裏は取らないだろうし。
うろ覚えの近所の病院名を書いてそのダンジョンをクリアしたという訳です。

そんなこんなで45歳くらいからは、毎年”一筆”を書いてバリウムを飲まなくてすむようになりました。
自分だけが時間のかかる検査がない分、他の人より健診が早く終わります。多くの人が座って待っているレントゲン車の前をスルーする気分は爽快でした。
一度だけ、その数ヶ月前にアニサキスにやられてホントに胃カメラを飲んだことがありました。その時は堂々と嘘偽りなく”一筆”が書けたので、さらに爽快でしたね。
ちなみに調子に乗って胸部エックス線も「受けません」を試してみたら、必須の法定検査のようで追及が厳くなりそうだったから断念しましたが。

さてバリウムを飲まなくなって5,6年後、ボクはさほど大きくない会社へ転職することになりました。その会社の定期健康診断は、それぞれ勝手に人間ドッククリニックなどに行って受診する形となっていました。
こちらのほうが一般的なのでしょうか。
会社が推奨するリストからクリニックを選ぶことができます。
ボクは育ちがいいので、一流ホテルのテナントに入っている高級クリニックを選びました。
そこでは有料オプションで胃カメラを受診することもできました。
これは是非とも受けなくてはいけない。

実はアニサキスで胃カメラを飲んだ際に、医者から気になる事を言われていたのです。
曰く、胃潰瘍の跡がある、慢性的に胃炎ぽい、経験的に見て胃がんになりやすい胃壁の外見である、なので年に一回は検査した方がいい、とのことでした。
うーむ。父も祖父も胃がんで亡くなったしなあ。
気になる事というより、恐ろしい事ですね。
そんなこんなで転職後数年間はそのクリニックでおとなしく胃カメラ、内視鏡検査を受けていた訳なのでした。

しかし、その胃カメラも体質的にボクには合わなかった。
タイトルにも書きました。「流血の胃カメラ」、つまり受診後しばらく鼻血が止まらないのです。
もともと鼻の粘膜が弱くて鼻血が出やすい体質でした。
気分も悪くなって、いつもクリニックで休憩していました。
スコープを鼻腔に通すタイプじゃなくて、喉に通す古いタイプの方がボクには合っていたかもしれません。
それでもバリウムよりは信頼性が高いので我慢して受け続けていました。

そして今は転職した会社も辞めてしまいました。
健康診断を受けさせる強制力は無くなっています。
自らの意志で受けないといけません。
しかしバリウムも、胃カメラも受けたくありません。
胃がんになりやすいと医者に言われたのに。
そのくせ毎日たくさんのお酒を飲み、育ちが悪いのか昼間から飲むことも珍しくないのに。

さて、どうすればいいのか。
長くなってきましたので次回にしましょう。
もちろん、解決策があるのです。
完璧な解決策です。
次回を乞うご期待です。
ここまで長文、駄文をお読みいただき、ありがとうございました!
センチュー!
それではまた。


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