山木マヒロ

創作は生きがいです。生みだす過程に苦痛は伴いますが、完成した時の喜びは格別です。 あな…

山木マヒロ

創作は生きがいです。生みだす過程に苦痛は伴いますが、完成した時の喜びは格別です。 あなたの心にのこるなにかを作れたら本望です。

最近の記事

蘇生死刑 #4

「……の……は、そのぜ、Zは、どう、どうなった? わた、私は……だ、れな、んだ?」  どうにかして、情報をかき集めなくては。  私は、一体何者なのか。そして、この男の目的は? 「もう、話せるようになったな。そうでなければ困る」  視界の端で白衣の男の体が沈むと、ギシッと金属の軋む音がした。おそらく椅子に腰を下ろしたのだろう。 「質問に答えよう。とはいえ、何事も順序が重要だ。さきほどの話、アマダやZの話だ。あれは、君に大いに関係のある話だ」  登場人物が、加害者か被害者しかいな

    • 蘇生死刑 #3

       また、夢をみていた。  今度は覚えている。半分の男の夢。  ゆっくり、少しずつ頭がクリアになっていく。頭にかかった靄が晴れるにつれて、脳裏に浮かぶのは、得体の知れない不安ばかりだ。  ゴゴゴゴ。  これは、空調の音。  天井から落ちる、ぼんやりとした光。  これは、白熱灯。  空っぽの頭に残っている、なけなしの情報は、今の私の全てで、大事にしなければいけない。  気味の悪い、標本の男の話を思い出す。なぜか、胸がざわつく。  それに、半分の男の夢。これは、ただの夢だろうか。

      • 蘇生死刑 #2

         残り、頭・胴体・右肩・右肘・左肩・腰・左大腿部・内臓少々  夢をみた。嫌な夢だ。  どんな夢だった?  思い出せない。とにかく嫌な夢だ。  天井に、ひとつの白熱灯が吊られている。ぼんやりとした灯りが、夢と現実の境界を曖昧にする。トロンと瞼が重くなる。ああ、だめだ、頭を働かせなければいけない。  ここはどこだ?  腕が上がらない。動かせない。ベッドかなにかに固定されているようだ。  誘拐された? なぜ。  なぜ、私が誘拐されなければいけない。  私は、私は……、誰だ。  ど

        • 蘇生死刑 #1

           残り、頭・胴体・右肩・内臓少々  天井に吊るされたモビール。  この装置は、赤ん坊の上で静かに回転するベッドメリーのようで、ぶら下がったイカの足みたいなものの先に、愛らしい動物や星のフィギュアがいくつもくっついている。  それらが揺れて動くさまに、赤ん坊は目を奪われるだろう。  ゆぐりすな。  この装置は、そう呼ばれていた。  本当は、ただのベッドメリーなのかもしれない。  この拷問に耐えられるのは、きっと赤ん坊だけだ。  頭上で延々と回り続けるゆぐりすなは、全く同じ動き

        蘇生死刑 #4

          noteを使用して思ったこと

           noteを始めて1ヶ月と少し経ちました。  この2、3日で投稿を見ていただけたり、スキやフォローをいただける頻度が突然増えました。よく仕組みは分かっていないのですが、すごい人がなにかをしてくれたのかな、と勝手に思って勝手に感謝をしています。  私の個人的な感覚ですが、これまで投稿をして、noteは長文や長編の物語を読むのにあまり向いていないのではないか、と思い始めました。  何度か試してみて、一つの投稿に1,000~2,000字くらいの完結した物語が、ちょっとの隙間時間に

          noteを使用して思ったこと

          月を食べた男

           前任者から急遽引き継ぐことになった囚人の監視に、瀬戸は右往左往していた。 「珍しいですね、ここで独房だなんて。しかも監視は僕一人だけですか?」 「これは極秘事項でな、一人で監視した方が都合がいいんだ。彼が、ここから逃げ出す心配はない。しかし、このことが外に漏れたら、まず、お前が疑われるぞ」 「彼は誰なんですか?」 「こいつに名前は、もうない。必要があれば、紙魚と呼べ」 「罪名はなんですか?」 「前例のないものだ。歴史上で、人間が犯した罪の中で最も重いとされている」 「最も重

          月を食べた男

          人殺しのリズム

           サトミは闇の中で、水面に立つ波紋を見た。  それは、サトミの心象風景で、実際のものではない。サトミは小さい頃の事故で視力を失っていた。  大きい波紋、小さい波紋、それらは不規則なリズムを生みながら、サトミに近づく。 「こんにちは、おばさま」 「あら、よく分かったわね」 「いえ、……そろそろ、いらっしゃる時間かと思って」  サトミは人の足音のリズムで、その持ち主を判別することができる。このことは、誰にも言っていない。 「サトミさん、今度、あなたのおばあさまのところに引っ越すの

          人殺しのリズム

          ラブエクスプレス

           俺は刑事で、はぐれものだ。  一人で、いくつもの事件を解決してきた。  それが、今回に限ってバディを組めだなんて。 「おい、メグミ早くしろ」 「先輩、待ってください」  犯人から挑戦状が叩きつけられたのだ。このパーク内に爆弾をしかけたという。 「それにしたってこんな広いパーク内のどこに……」 「あ、あれは!」  ベンチの上に黒くて丸いやつが置いてあった。そいつの上の部分の、でっぱりから紐のようなものがチョロっと出ている。これはきっと爆弾だ。俺の刑事としての勘がそう告げていた

          ラブエクスプレス

          あまのじゃく

           伝わりっこない。  それはユウの口癖だ。  彼は、伝えたいことと反対の言動をしてしまう、あまのじゃくだ。  どうして、そんなことになったのか。  彼は言う。小さい頃、頭をぶつけるケガをした。まっすぐ繋げなければいけない線を、病院の先生があべこべに繋いでしまった。それは、ほんとのことかわからない。彼は、あまのじゃくだから。 「ユウ」は、彼のニックネームで、アルファベットのU。Uターンのユウ。入り口と出口が逆の方向を向いている。思ったことと言動が逆になってしまう、彼の性格をよく

          あまのじゃく

          黄金のナイフ

           それで、トキダさん。あなたの言う黄金のナイフ? というものはどこで手に入れたのですか?  機関車公園のベンチに座っていたら、お爺さんが座ったんです。隣というか、こう、ベンチの端と端という感じです。それで、最初ボソボソ喋るもんだから、僕に話しかけているのかどうか分からなかった。  その老人がナイフを?  天気の話とか日本がどうとか、そんな話をしました。向こうが一方的に話すだけで、僕は、ぼうっと聞いていました。だから、詳細はよく覚えていないんですが……。  覚えてる範囲で話して

          黄金のナイフ

          リメンバーミー

           実際、間瞬は天才だ。  それは認めざるを得ない。  メニュー表を見なくたって、一千万通り以上ある組み合わせから、セサミバンズにワンパウンドビーフパティとトマピク(トマトとピクルス)ダブルのチリソーストッピングに裏メニューのグリルドチーズまで挟んで、さらっと注文してみせた。  ここのハンバーガーショップは、その組み合わせが一番美味しいと、タワマンさながらのビルドを誇るハンバーガーを頬張る。え、ちょっと待って、頬張るの? これを? 「耳の下のこの部分を親指で押しながら、あと残り

          リメンバーミー

          三分間の物語

           メイが目を開くと、そこは荒野を思わせる広大な空間だった。  乾いた血と黴の臭いが混ざった空気を肌で感じることで、ここが外ではなく、巨大な建物の中だということが分かる。  三人の屈強な仲間たちが、メイを囲むようにして立っている。  前に立つタンクのケリーが振り返らずに言った。 「ドンピシャだな。さあ、お仕事の時間だ。眠り姫」 「あいつ?」メイは、暗闇の先に忍ぶ二足歩行のトカゲのような怪物を捉えた。「でかいね」 「リザードマンの変異種だ。並のやつよりタフで武器まで使う」 「メイ

          三分間の物語

          ラブドール

          「リアルな人形を作る極意ってなんだと思います?」  恵里を納品したときに聞いた営業マンの言葉を、喜一は思い出していた。 「君はなんだと思う? 恵里」 「さあ。ホンモノより、ちょっと美人に作ることかしら」  ああ、なるほど、と喜一は思った。比べる対象が記憶の中にしかないのだとしたら、それもあり得る。美人にされて文句を言う人は少なかろう。 「考え方としては近いのかもしれないね。正解は、完璧よりも少し崩すらしいんだ。言い方は悪いが、不細工にするってことだ」 「それは、見た目だけのこ

          ラブドール

          ソメイヨシノ

          「桜前線は、もう近くまで来ているそうよ」  美乃は、もの憂げに言った。あきらめたようにも、覚悟を決めたようにも見える。 「その表現は好きじゃない」  大島は窓の外を見て言った。庭には大きな桜の木がある。まだ、三分咲きといったところだろう。 「昔、染井吉野という桜の品種があったそうよ」 「ああ。とても美しい桜だったと聞いたことがある」  部屋の中央にあるスフィアスクリーンに、白から淡い桃色のグラデーションの花弁をもつ桜が映し出される。アシスタントAIの大和が気を利かせて表示させ

          ソメイヨシノ

          トマとリリ

           鈴原翔太はこのデートに並々ならぬ気持ちで臨んでいた。  マッチングアプリで知り合った目の前にいる女性、遥華と深い仲になりたいと思っているからだ。  メッセージでやり取りを交わしていたときも、気が合うと感じていた。  実際に会って話してみると、遥華はより魅力的に感じる女性だった。 「遥華……さんは、その、図書館で働いていると言ってましたけど、お休みの日も図書館に行くんですね?」 「は、はい。図書館の雰囲気が大好きで、気がつくと閉館時間までいることもしょっちゅうで」 「お一人で

          トランスレーター

           佐久間は電車に揺られていた。吊り革につかまり、考え事をしていたが、いつもより車内が混んでいる気がして、そこで今日が日曜日だと思い出した。  目の前には恋人同士と思しき男女が座っていた。十代後半、二十歳そこそこ。佐久間にとっては男の子、女の子という年頃の二人だ。 「いやー、楽しかったなぁ。ブースもたくさん出てて見ごたえあったし、推しのグッズもゲットできたし」女の子がパンパンに詰まったリュックサックを撫でながら言った。 「そうだね……。でも同じものをいくつも買うことないのに」男

          トランスレーター