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【読書感想】江戸川乱歩傑作選

 江戸川乱歩の「芋虫」を読んでみたいと思い、「江戸川乱歩傑作選」を手に取った。

 目次は以下の通り。

・二銭銅貨
・二癈人
・D坂の殺人事件
・心理試験
・赤い部屋
・屋根裏の散歩者
・人間椅子
・鏡地獄
・芋虫

 どれもこれもまともに感想を書いているときりがないのだけど、順番に読んでいくと面白かった。

 「二銭銅貨」「二癈人」の時点で現実世界で他人を信用できなくなり、「D坂の殺人事件」「心理試験」で心理学を駆使して謎を解明する明智小五郎に惚れて「赤い部屋」で完全犯罪に驚愕して「屋根裏の散歩者」で明智小五郎の再登場に歓喜して「人間椅子」で文豪って凄いなと思い「鏡地獄」でうわぁ……と思い「芋虫」で完全に言葉を失う。

 とにかく気持ちが上がったり下がったりする本だった。

 本当にどれもこれも違った良さがある。
 今回は重たい重たい二つを。

鏡地獄
 鏡みたいに姿が反射されるものに興味をもつ友人を、はたから眺めているKの視点で進むお話。

 〝夢中〟という感じから入るんだけど、それが段々〝狂気〟に変わっていく。少なくともKの視点ではそう見える。

 この作品は、世界観の美しさとそれを表現する文章力に驚愕した。

 ある時は部屋全体が巨大なる万華鏡です。からくり仕掛けで、カタリカタリと廻る、数十尺の鏡の三角筒の中に、花屋の店をからにして集めてきた、千紫万紅が、阿片の夢のように、花弁一枚の大きさが畳一畳にも映ってそれが何千何万となく、五色の虹となり、極地のオーロラとなって、見る者の世界を覆いつくす。

江戸川乱歩『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫 より

 こんなに魅了された人の作る世界なら、魔性の美であってもぜひ拝見したいと思うくらい、美しい世界でした。
 夢中を止められたくないなと思うと同時に、友人の立場であればどうすべきなのか。考えさせられるお話だった。

芋虫
 戦争で四肢をなくし、芋虫の様になった夫を介抱する妻の話。
 本当にもう、言葉をなくす。
 人間の感情という高度なものが織り成す愛憎や衝動性。その表裏一体の表現が見事という他なかった。
 読んで気分が悪くなる人もいるらしいから、ご注意を。

 凄く充実した読書時間を過ごせて幸せだった。

 ちなみに江戸川乱歩の名前の由来についてだけど、江戸川の付近を乱れた足取りで乱歩する。みたいな意味かと勝手に思っていたのだけど、アメリカの小説家「エドガー・アラン・ポー」をモジったらしい。

 どこまでもセンスのいい方だったんだなと思った。

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