母校の名前がニュースで何度も流れた日

私の母校である旭川東高校の有名人といえば、
・寺沢武一(代表作「コブラ」)
・佐々木倫子(代表作「動物のお医者さん」)
・藤田和日郎(代表作「うしおととら」)
となぜかマンガ家が多い。
芸術コースのある学校ではなく、普通の公立高校で道北イチの進学校だ。

アスリートの有名人もいるが、かなり時代を遡る。旭川東高校の前身である旧制旭川中学に在籍し(中退して巨人に入団したので卒業はしていない)、プロでも活躍したヴィクトル・スタルヒン。
旭川には彼の名前を冠した「スタルヒン球場」があり、球場前には銅像が立っている。
NPBの公式戦を行なえるくらいには設備の整った球場だ。
ちなみにスタルヒン球場の横に旭川北高校があるのだが、そこがスタルヒンの出身校だと思ってた人もいた(この誤解は熱く説明して正した)。

数年前、この「母校の有名人」枠にひとり、アスリートが加わった。

やり投げでオリンピック代表となった北口榛花選手だ。旭川東高校在籍時代、インターハイ優勝のニュースを目にした時は、「スポーツの分野で母校の名前が出るなんて…」と思ったものだ。
北口さんがやり投げを始めたのが高校時代。当時の陸上部顧問の勧めだったという。
そんな教師、東高にいたの!?というのがまず最初の印象。何度も言うが、正真正銘の進学校で、スポーツに力を入れた私立高校ではない。私の時代には全く経験のない運動部の顧問をしている教師の方が多かった。たぶん今だってそう変わらないだろう。
北口さんの可能性を見出せて、適切な指導ができる教師がいたのは僥倖どころではなく奇跡だ。

北口さんは大学でも、社会人になってからも活躍を続け、東京オリンピックにも出場。見事決勝に進出したが、予選で脇腹を痛め、決勝では思うような結果を出せず涙を見せた。
いつも満面の笑顔で明るくチャーミングな北口さんが試合後に見せた悔し涙が印象的だった。
そして今年、世界陸上2022オレゴン大会では銅メダルを獲得。
女子のフィールド種目では日本人初のメダリストだ。

7月23日、その快挙のニュースが流れた頃、もうひとつの「快挙」を成し遂げようとする後輩たちがいた。

夏の高校野球、北北海道大会。旭川東高校野球部が34年ぶりに準決勝の舞台に立った。
何度も何度も言うが、公立の進学校だ。私立高校のスポーツクラスなら昼から練習するような環境の中、普通に午後もきっちり授業を受けてからの練習。なんなら休みの日には模試だって多い。もちろん部活にだって真剣に取り組んでいるだろうけど、高校の雰囲気としては部活よりも学業に重点を置いている。
そんな高校なので、旭川地区予選を突破して北北海道大会に出ただけでも「でかした」という気持ちになったのに、北北海道大会のベスト4にまで残った。
もうそれだけで「偉業」で「快挙」だ。

23日に旭川スタルヒン球場で行われた熱戦をバーチャル高校野球のライブ配信で見ていた。
まず驚いたのは野球部ではなく吹奏楽部。短期間で相当練習を積んだんだろう。どの曲も素晴らしかったし、特にモンキーターンは強豪校にも引けを取らない音色で聞いていて涙が出た。
試合内容も派手さはないがチャンスを掴んで地道に点を重ねていた。
守備はセンスも必要だがそれ以上に練習をどれだけやったか(質・量)が如実に表れると思っている。後輩たちはあまり多いとは言えない練習時間の中、質の高い練習を積み重ねてきたのだろう。雨の中でも堅実な守備を見せていた。
旭川東は終盤の滝川西の反撃をなんとか凌ぎきり勝利を収めた。34年ぶりの準決勝進出の次は53年ぶりの決勝進出だ。もし甲子園ということになれば旧制旭川中学からの歴史の中でも史上初となる。スタルヒンだって甲子園に行けなかったのだ。

余談だが、この快挙を伝えるニュースの中で、北口榛花さんのお父さんのコメントがあったが、お父さんは娘の銅メダルを見届けてから、東高の応援にスタルヒン球場に来たという。たくさんの父母やOBOGたちがスタンドで応援する中、北口さんのお父さんを見つけた記者がすごい。

翌24日。北北海道大会決勝戦。
決勝の相手は旭川大高。地元の強豪校だ。
おそらく年齢的に、沼田投手(現・巨人)や持丸選手(現・広島)らの活躍を見て「甲子園に行くために」進学を決めた子が多いだろう。野球エリートの集まる私立の名門との力の差はいかんともしがたい。
初回から点を取られて苦しい展開が続く。
7-0で迎えた9回表。ツーアウトランナー2塁から5番秋山くんのタイムリーで1点を返した。
最後まで諦めないという気持ちの溢れたバッティングだった。
残念ながら試合は7-1で終わってしまったけれど、負けて悔し涙を流す後輩たちの姿に胸が熱くなった。

素晴らしい経験をした3年生たちは、もうすでに受験モードに突入しているだろう。大学でも野球を続けようと思う子も増えたかもしれない。六大学野球(東大)を目指す子ももしかしたらいるかもしれない。
彼らのこれからの人生に、この経験が役立つことを願っている。

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