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ガラスのエースからダイヤモンドの守護神へ

トレード

トレードというものは、チームに不要な選手をやり取りするものではなく、チームに必要な選手を切ってでも、もっと必要な選手を獲る手段である。
しかしオフシーズンのトレードとシーズン中のトレードは少し意味が違うと思っている。
オフシーズンのトレードは中長期時点でチームに必要な選手を得るため。
シーズン中のトレードは「今すぐに」チームの補強のために必要な選手を得るため。

そんな中で、少し毛色の違ったトレードが2017年のシーズン中にあった。
ヤクルト・杉浦稔大と日本ハム・屋宜照悟とのトレードだ。

トレードの意図は明確。ヤクルトはケガ人続出でチーム編成もままならず、二軍の試合をするにも厳しい状況だった。とにかく今すぐにでも投げられる(しかも一軍ではなく二軍で投げられるだけでいい)タフな投手を得るために、ポテンシャルは高いが毎年のように怪我で離脱している投手を放出した。
ファイターズとしては、現在進行形でケガをしていつ投げられるかわからないが、地元北海道出身でポテンシャルの高い先発候補を得た。シーズン中でありながら、将来を見据えたトレードだった。
実際のところ、2017年は怪我の治療・リハビリに充てられ、一度も投げることはなかった。

今でこそこのトレードは「なんで杉浦を出したんだ」とヤクルトファンに言われているけど(当時もそんな声はあったけど)、当時の状況からあれは仕方なかったし、あのままヤクルトにいても今のような活躍はできていなかったのではないかと思う。
先発投手のやりくりが苦しい中で、ここ数年のファイターズのように、ゆっくりと登板間隔を取って調整することができたかどうか。

復活の狼煙

2018年7月、移籍して初めての先発。
杉浦は期待以上のピッチングをした。5回まで無安打無失点で球数もまだ65球。ノーヒットノーランの期待がかかる中、栗山監督監督はここで杉浦を降板させた。
打たれるまで投げさせてみればよかったのではないかという意見もあったが、個人的にはホッとした。
これまでのことを考えると無理してどこか痛めては元も子もない。復帰登板なのだから、5回まで投げられただけでも御の字だ。

その後も無理させない登板が続く。2019年も中10日〜2週間で投げ抹消を繰り返しながら、少しずつ球数だったり、投球回を増やしていった。
登板間隔は普通の投手よりも必要だけれど、先発してきっちり試合を作る力はある投手だ。
2020年も前年ほどではないが充分な間隔を取りながら先発ローテーションの一員として投げていた。
しかし秋吉の不調で抑えが不在となったチーム事情から、シーズン終盤にはリリーフに回り、11月9日に抑えとして初セーブを挙げた。

ただまさかこの時は、翌シーズンの守護神に杉浦が抜擢されるとは思っていなかった。
外国人も入国できず、確定ローテは上沢くらいと言われていた中で、杉浦を守護神にしていいのかという疑問があった。杉浦はローテーションに入っていてもらった方がいいのでは?先発だってメンバー揃ってないのに……
しかし3月3日のオープン戦で9回に登板した杉浦が、三者連続三振を取る姿を見て、「これは守護神」と思ってしまったのは事実。8回の宮西、9回の杉浦という鉄壁の勝ちパターンを想像したらワクワクした。

帯広の子

杉浦は高校まで帯広で過ごし、トレードが決まって入団会見をしたのはファイターズが道内遠征をしていた帯広の森運動公園だった。
道産子は道産子というだけで応援したくなる。
そして札幌以外の市町村出身だと地名とセットで覚えられる。
玉井は「佐呂間」、今年のルーキー伊藤は「鹿部」、巨人に移籍した鍵谷は「七飯」。
まるで小さい頃から知ってる近所の子が野球選手になったかのように、親しげに語られることも多い。

実際に2018年に札幌ドームで観戦していた時に
「杉浦って誰?」
「ほら!あれ!帯広の子!」
「あぁ帯広の子!」
というおばさまのやりとりを耳にした。
「ヤクルトから来た」ではなく「紺野あさみの夫の」でもなく「帯広の」杉浦はファイターズファンに愛される存在になっていた。

だからこそ、過保護なほどに慎重に間隔を空けて登板する杉浦にも厳しいことを言うような人は少なかった。ファイターズに来てからケガをしたことはないけれど、ケガがちだということは誰もが知っていて、無理させたらいけないとファンですら思っていた。

そんな中での「守護神抜擢」で「杉浦くんで大丈夫なの?」という意見のほとんどは守護神としての適性を言ってるのではなく「守護神っていったら連投するかもしれないのに大丈夫?」という意味だった。
正直言って、まだ不安だ。
今季のファイターズはなかなか勝てず、守護神杉浦の出番も少なかった。
しかし昨日、今日とファイターズは連勝し、杉浦も連投している。本当に惚れ惚れするほどの完璧な守護神だ。150km/hを超える伸びのあるストレートは
なかなか打たれそうにない。
さすがに明日は投げないと思うけれど、チームの状況によって2連投が今後何度もあるかもしれない。

ガラスのエースから、誰にも砕けないダイヤモンドの守護神へ。
杉浦がシーズン終了まで輝き続けられますように。

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