見出し画像

交通費精算にコンセプトはいるのか? 〜「コンセプトセンス」没パート公開企画その1〜

吉田将英と申します。

広告会社で企画とか社会分析とか経営伴走なんかをかれこれ15年ほどやってきました。この度。執筆しました新著「コンセプト・センス」が、1/26に発売されました。

このマガジン、「コンセプト・センス サイドノート」では、書籍を書く過程での裏話、思っていたこと、泣く泣く没にした原稿のパートの公開なんかをやってます。今回は、「コンセプトはこういう場合は、考えなくていいかも」という没パートを公開してみます。コンセプトの本を書いた身ではありますが、「何でもかんでも絶対にコンセプトが大事じゃああ」とは、実は思ってなくて。どういう時に必要なのかを適切に見極めることから、大事なリテラシーかなとは思ってますが、本論からすると脇の論点かなということで、削った部分です。よかったら以下、読んでみてください。

===

「今月の交通費精算」にコンセプトはいるのか

「コンセプトから何事も考えた方が良さそうだ」ということを言及してきましたが、逆説的に「コンセプトから考えなくてもいい場面」はあるのでしょうか。結論から言うと、「何でもかんでもコンセプトから考えた方がいいわけではない」ということ。「新しい認知なんか必要ないから、とっとと片付けたい」ということも仕事にも人生にもありますよね。そういう事柄に対して、例えば「その事務処理のコンセプトとは何か?」と考えるのは何かが違います。では、仕事がプライベートかが分かれ目かというと、「来期の経営戦略のコンセプト」も「我が家の家計運営のコンセプト」は、どちらも成り立つので、その線引きでもなさそうです。

例えば、「この後の皿洗いのコンセプト」はいらない気がするけど、「これから3年間続く、子供のための毎朝のお弁当のコンセプト」はあってもいい気がします。「明日締め切りの交通費精算の社内申請のコンセプト」は、そんなことより早く出してって感じがするけど、「自社の総務全体のコンセプト」はあった方がいい気がする。何が違うのでしょうか?「コンセプトがなくてもいいパターン」は以下のようなケースだと整理できます。

不要なケース1:「制約がない」

仮に、時間も予算も無限にあって、自分達の存在を脅かす競合相手もいなければ、自分以外の誰かとの合意を取り付ける必要もない状態なら、コンセプトなどなくても「片っ端から、考えられる選択肢を全部やればいい」のかもしれません。セレブがお店でやる「この棚の端から端までいただくわ」という、あの感じです。言い換えるとこれこそ「ここではないどこかにいく必要がない」状態ということですね。そういう状態に対してはコンセプトはいらないです。

ただ、こういう状態は現実的にはほとんどないのではないでしょうか。仮に現状、圧倒的に優位な立場にいて、予算も時間も選択肢も潤沢で「今やっていることをやっていれば問題なし」という法人や企画があったとしても、今はまさに「すぎる時代」。簡単に環境は揺らぐし、ジャイアントキリングも起こる。立場そのものが全く安定したものではないということです。

改めてここでいう「制約」を考えてみますと、

「資源の制約」:お金に代表される、物や事の有限性
「時間の制約」:その行為に費やせる時間の有限性
「合意の制約」:自分のみでは決められないという権限の有限性
「競合の制約」:差別化を図る必要のある競合の存在の有無

この辺りでしょうか。「お金も時間も無限に使えて、誰の合意も承認もいらないし、敵もいない」のであれば、コンセプトなんてなくてもいいのかもしれないというのが1つ目の「制約」の話です。

不要なケース2:「創意が不要」

では先ほど例に出した「交通費の精算手続きにコンセプトはいるのか」という論点はどうでしょう。資源も時間も他者も、制約としてはあります。でも、なんとなくいらない感じがするのはなぜでしょう。

2つ目のポイントは「創意が必要とされるかどうか」です。「まだみぬ、新たな交通費精算の方法を、僕は求めているんだあ!」という状態って、どのくらいあるでしょうか。そんなこと言ってたら総務課の人に「いいから早く出して」って言われそうですよね。「自分自身がその行為にまだみぬ新しい可能性を見出したいのか」「相手はあなたがその行為をやる上で、そこにまだみぬ新しい可能性を期待しているのか」。この2つの「創意の必要性」がどれほどかというのが、コンセプトの要不要を左右するもう一つのポイントです。

言い換えると、「創意よりも圧倒的に大事なほかの要素がある場合」は不要とも言えます。スピード、正確性、再現性… ここにはいろいろなものが当てはまると思います。ただし、「そんな行為に創意など必要ない」という考えこそが、まさに思い込みである可能性は常に付きまといます。よく物語に出てくる「役に立たないものをいつも作っているマッドな発明家」というキャラクターが、ピンチのシーンでミラクルを起こすときのように、予期せぬコンセプトは「そんなところに創意はいらないよ」とみんなが思っているところにこそ見出されるかもしれないのです。交通費の精算も、ある1回出すだけなら創意よりスピードかもしれませんが、総務部長がそもそも社内の事務処理全体の生産性を抜本的に上げる新しいアイデアはないか?と考える場合は、コンセプトから考えても面白いかもしれないです。

不要なケース3:「意思決定が少ない」

最後のポイントは「意思決定の量」です。例えば、「明日の息子のお弁当」は、コンセプトなんかよりも今、冷蔵庫に何が入っているかからさっさと考えた方がいい感じがしますが、「これからの3年間の息子のお弁当作りのコンセプト」は、なんだかあった方がいい気もします。違いは「意思決定の量」です。お弁当作りにはそれなりに、制約もあるし、創意を求める余地もあります。ただ「明日の1回」と「3年間の数百回」の違いは、同じ行為の枠組みにおける一定の基準や目的を持った意思決定が何回あるかと言えるのではないでしょうか。そこには「指針」と「遊び」の両方があった方が良さそうですよね。

これは例えば、「今年の夏休みの自分一人の過ごし方のコンセプト」や「自分の人生における仕事との向き合い方のコンセプト」のような、合意形成相手や競合相手としての他者の存在がいない事柄についても、「意思決定の項目が多岐にわたっており、自分一人のためとはいえ何か羅針盤がないと良い結果に至れなさそう」という点において、考えてもいい対象だと言えます。別の言い方をすると「その意思決定がもたらすインパクトの総量が多い場合はコンセプトがあった方がいい」とも言えます。

ある一回、飛行機に乗って聞かれる「ビーフorチキン?」は好きにすればいいと思いますが、年間数十回飛行機で世界を飛び回るライフスタイルの人にとって、その選択の積み重ねは自分の体になんらかの違いをもたらす気がしますよね。さらにメタ的に考えるのであれば「機内食の選択も含めた、食生活全体のコンセプト」まで広げると、もたらされるインパクトはさらに上がります。こういう考え方も一つあるのではないでしょうか。


コンセプトが必要な時を見極めよう

「どんな制約がどの程度あるか」
「創意を凝らす必要性や余地がどの程度あるか」
「意思決定がどの程度あるか」

この3つは、コンセプト思考で向き合うかどうかの分かれ目と言えると思います。迷った時や、「実はコンセプトから考えることが足りないかも」という対象を探すときに、ぜひ思い出してみてください。

日本を代表する映画監督の一人、小津安二郎はこんな言葉を残しています。

ぼくの生活条件として、
なんでもないことは流行に従う、
重大なことは道徳に従う、
芸術のことは自分に従う。

小津安二郎

この言葉は「自分の人生を構成する要素の、どの要素に“コンセプトを求め”、どの要素は“そこまで深く考えない”のかを定めた言葉」とも読めます。言ってみれば、「コンセプトを持つところと持たないところの方針のコンセプト」のような、メタ的な人生のコンセプトでもあります。「ここではないどこかへ」行きたいという気持ちの解像度がなかなか上がらず途方に暮れがちな人はぜひ、1層考えるレイヤーを抽象化して、メタレベルでコンセプトを考えてみてもいいかもしれません。

===

以上、没原稿公開第一弾、「コンセプトがいらないケース」でした。いらないケースが定義できていると、必要な時に、何を満たしていないと作った意味がないことになってしまうかも明確になるので、悪くない論考かなと思い、シェアしました。感想など、ぜひいただけると嬉しいです。また、このnoteでの記事に関する質問、または「コンセプト・センス」本編にまつわる質問は、マシュマロまでいただけると嬉しいです。


「サイドノート」も引き続き、マイペースに更新していきますので、よかったらマガジンのフォローもお願いいたします。としてはじめてみます。

「子育てと仕事しながら、本を書くってどういうことだったか」
「会社員が、思想を持って社会と直結することの難しさ」
「本を出したい人へのエールとアドバイス」
「おすすめの都内作業スペース&おこもり作業宿」
「泣く泣く削除した、ディレクターズカットパート」

こんなあたりを、考えてますので、更新をお待ちください。


てな感じで、今回はここまでです。
May the concept be with you!


〜〜〜

【今後の刊行記念イベント情報】

2/13 18:30~20:00 
@六本木ヒルズ アカデミーヒルズ  リアルイベント
「価値創造のための、逃走のススメ」

情報学研究者のドミニク・チェンさんと、「ここではないどこかへ」いくための創造と、その時にコンセプトは人と社会に何をもたらしてくれるのかをお話しする予定です。


2/26 18:30~20:00 
@渋谷ヒカリエ 8/ COURT リアルイベント
【コンセプト、持ってる?】正解のない時代の答えのつくりかた  〜コンセプトづくりの3人のプロが導く、3つの秘技〜

おもちゃクリエーターの高橋晋平さんと、プロジェクトプロデューサーの横石崇さんと、社会のさまざまなグッドコンセプトをお題に、自由に語り合う予定です。


2/28 07:30~08:30 
@ZOOMウェビナー
YOUTRUST×朝渋 コラボイベント「Hello,Future!!」
「コンセプト・センスが未来を作る」仮題  
※URL未定

朝一番のインプットを、朝渋さん主催のイベントでお届けしたいと思います!コンセプトが人生の夜明けを生み出す、的なメッセージを込めたいと計画中。


2/29 21:00~22:00
@Schoo オンラインウェビナー
「コンセプト・センス - 人を動かす企画の生み出し方」

この本を書くきっかけになったSchooさんでの凱旋講演です。2年前から大幅パワーアップした内容でお届けできると思います。1/31の初回を経て、第二回は「実際にその場でコンセプトを作ってみよう」という、料理番組的スタイルで皆さんとご一緒する予定です。コンセプト、実はよくわかってないかも…?という人から、実際に企画を目下作らないといけなくて困っている方まで、オススメです。


3/14 13:30~14:30 
@テテマーチ オンラインウェビナー
「コンセプトの生み出し方」
  ※URL未定

テテマーチさん主催のオンラインウェビナーで、Z世代を味方につけるコンセプト発想のあり方について、トークセッションを予定しています。


3月 日時未定 
@B&B リアルイベント
「未来を作るコンセプト」
 ※URL未定

詳細未定ですが、ゲストの方とコンセプトのこれからについてトークする予定で目下計画中です。


4/2 08:00~09:00 
@虎ノ門ヒルズ OVAL CAFE リアルイベント
ソーシャルブレックファースト
「社会をよくするコンセプト」
 ※URL未定

社会を良い方向に進めるために、コンセプト発想ができることは何か。事例も辿りながら考えてみたいと思います。

※※※
今後もどしどし、企画中です。
随時、情報UPDATE致しますので、ぜひチェックしてみてください。

サポートありがとうございます! 今後の記事への要望や「こんなの書いて!」などあればコメント欄で教えていただけると幸いです!