【真冬の出会い】

少年が、どんよりと曇った空を忌々しそうに見上げる。
「うう、クソ寒ぃ…」
そう言って小さく身震いすると、両手をポケットに突っ込んで歩き出す。

ふと、小さな人影が視界に入り立ち止まる。
「あのチビ、まだいる…?」

家電量販店の前、展示用のテレビが並んだショーウィンドウに顔をくっつけるようにして、一人の女の子がしゃがみ込んでいた。


「おい。」
少年は思いつく限りの優しい声で、呼び掛けてみた。
「?」
小さな人影が、きょとんとした顔でこちらを振り返る。
真冬に似つかわしくない薄手のトレーナーは、元は黄色だったのがかろうじて分かるほど色褪せ、袖口は拭いた鼻水でテカテカと光っている。
「お前、朝もいただろ?まさかずっとここに?」
「うん。」
当たり前のように女の子が答える。
「うん…って、寒くねえのか?お母さんは?」

「…。」

「まあいいや。とりあえず何か温かいもんでも買ってやるよ。」
そう言いつつ、ポケットから小銭を取り出した少年の手から数枚の硬貨が滑り落ちた。

その瞬間だった。

ぼーっと少年を見上げていた女の子は突然、目にも止まらぬ速さで硬貨を拾い集めると一目散に走り出した。


「っ!! おいっちょっと!ちょっと待てって!」
リーチで大幅に勝る少年がすぐに追いつき、その手を掴む。

「ごめんなさい、ごめんなさいっ…」
観念した女の子は大粒の涙を流しながら謝る。
「大丈夫だ、怒ってないから…な?」
少年は落ち着かせるようにその小さな手を握ると、何かを思いついたように微笑み、その手を繋いだまま歩き始めた。


「美味いか?」

口いっぱいにドーナツを頬張った女の子が、ぶんぶんと首を縦に振る。
「好きなだけ食っていいぞ。」
少年のその言葉に、女の子は満面の笑みを浮かべて両手に持ったドーナツを次々と平らげる。


最終的に6個のドーナツを胃に収め、幸せそうな余韻に浸る様子を見つめながら、少年は静かに微笑んだ。

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