夢がかなうその日まで 夢見心地でいるよ【群青日和 #1】
【試合結果】
3/29(金) 広島東洋カープ
〇4-3
[勝]ウェンデルケン
[敗]島内
[S]森原
◇ ◇ ◇
2年前と同じ対戦カード。
2年前と同じ開幕投手。
あの日も現地だった。最後の打者、大田泰示が打席に立った時既に出囃子は流れなかった。22時を回ると音出しが出来ないので、スタジアムは少しだけ静かになる。
指先の感覚が無くなるくらい寒くて、それはそれは手ひどく負けて。
冷え切った体の真ん中からじりじりと込み上げる悔しさに、ああ今年も開幕したんだな、と帰り道に苦笑したのをよくよく覚えている。
3月・9月はスタンドで熱燗を売ってくれ、と当時の私はそう書き残している。
◇ ◇ ◇
開幕前夜ってのはどうしてこう、ただのファンでも身の置き所が無くなるんだろう。
勝敗にはどうしたって関係ない。
ただ、好きな球団を生活の一部というか中心にし過ぎてしまっている。それだけなのに。
またあの悲喜交々、一喜一憂、そんな四字熟語が浮かんでくるような日々がやってくると思うと、ねえ。
なにせ、全米が涙した!と煽り文句が付けられるような感動大作より心を揺さぶられて、どんなB級ホラーよりも「そんな展開あってたまるか」と詰りたくなる展開を見せつけてくれるのが、我が愛すべき贔屓球団なので。
一人で居ても無駄にソワソワし無駄食い無駄買い無駄ジタバタしそうだったので、開幕前夜は野球好きの友人たちと過ごす事に。
お相手様のグルメを頂こうと、広島名物が揃うお店に行ってきた。
瀬戸内レモンサワーと、開幕スタメン1番起用が明言されたルーキー。
4杯飲んでもバキバキに目が冴えて結局寝つき悪し。
(レモンサワーと料理はめちゃ美味しかった)
◇ ◇ ◇
……体感より失点してませんよね。
「確かに!あんなに攻撃時間長いのにね」
私と同じく女性おひとり様観戦していた隣に座るお姉様と、塁上を賑わせ続ける東を見つめる。
3回表が終わって、3失点していた。被安打7。
ボールカウントを常に優位に進めることを信条とする東のピッチングは、しっかりカープ打線に対策されていた。浅いカウントで連打されていく。
特に「4番・堂林」には面食らった。マジですか新井監督。
スタメン発表時、レフトスタンドからは明らかに大きなどよめきが聞こえてきた。
直近で4番に入っていた新外国人のレイノルズやシャイナーは、6番・8番に下がっている。
意図は分かる。ストライクゾーン内の球に対して早い仕掛け、積極的なアプローチの堂林はゾーン内勝負を徹底する投手と相性がいい。昨年8月、今永が2打席連続本塁打を浴びた場面はしっかり目に焼きついている。そういうバッターだ。
何故そこに飛ぶ、という単打ラッシュ。
こちらの打球は大体菊池に吸い込まれていくのに。
「カープ戦ってこんなんばっかよねぇ」
こんなん、に集約されている要素が多すぎるが、わかる。
でも、毎年そう上手くやられるもんだろうか。
◇ ◇ ◇
「投手の送りバントが成功すると、その回は流れよく攻撃出来る」
見ているこっちの気分がよくなるだけで、そんなもんはオカルトだ。
無死、一二塁。
東がスリーバントを試みて失敗。
背中から猛烈に悔しさが滲み出ている、というより溢れ出している。
ベンチに戻る道すがら、強くバットを叩きつけていた。珍しい。
まだ少しだけ東に気持ちが寄っていたので、その後のことに心が追いつくまでちょっと時間が掛かってしまった。映像を見るとあっという間のことだけど、記憶が若干間延びしている。
九里亜蓮が投じたスライダーがふわり、と浮いたのが見えた。
おそらくこの日唯一の失投。
第一打席、初球に対して見せてきたフルスイングと同じような軌道で、度会がバットを振り抜いた。
昨晩から続いた嵐が止んで、雲一つ無くなった夜空にスーッと伸びていく打球。
あ、これは伸びる。
行け!行け!伸びろ!来い!
ボリュームのつまみを誰かが回しているみたいに、歓声がどんどん大きくなる。
フェンスを越えようか、というところで、ほんの一瞬静まるスタジアム。
あれはきっと、その瞬間を皆が息を止めて見守ってしまうからでしょう。
そして、その向こうへボールは消えていった。
ああ、変わっていく。
寂しい別れもあったけど、この一番星との出会いは確かにベイスターズを変えてくれる。
待ち侘びた新しい風は、横浜に大歓声と春を連れてきた。
◇ ◇ ◇
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