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あしたの転機予報は?#27-女友達との距離感、男の社内勢力争い-

大阪での週末、友人の結婚式に出席して、そのあとユリカと一緒に二次会に参加していた。
ユリカとは、いい人がいたら、お互いフォローしよな、なんて言っていた。
ユリカと私は、外見のタイプも違うし、男の好みもバラバラだから、都合がいいといえば都合がいい。いいなと思う人が被るということもない。
そんなわけでユリカとは、東京でも出会いの場に行くのなら一緒に行動している。
いつもと同じ流れといえば流れなのだが、それも疲れることがある。
タイプが違うからフォローしあおうねと言ったって、その場で異性の関心をどちらが寄せられるかという点では、差が出てしまうことが多い。
大抵は可愛らしく話しかけやすいユリカのほうに異性の関心を寄せるという点では軍配があがる。

ということで、男の子たちに囲まれているユリカに、お手洗いだと言って、その場を離れた。
スマホを覗くと通知が来ていた。
金曜日に送ったラインの返事が水上さんから来ていたらいいなと思うものの、水上さんからの返事ではない。

かわりに、渡辺さんからのLINEだった。

大阪営業所の飲み会にお邪魔してから、ラリーが続いていた。
というのも、大学が同じで、共通の友人が複数人いるということが判明し、話が盛り上がっていた。
すぐに化粧室から戻る気分にもなれず、渡辺さんとのLINEを続けていた。
学生時代の共通の話題というのは、普段東京にいるからだろうか、懐かしく心が温まる。

化粧室の鏡の前で、スマホをいじっていたところ、
お手洗いにきたユリカに見つかった。

「あ、こんなとこにいた。ずっとひとりにせんといてや」

「や、だって、ユリカ盛り上がってそうやったやん」

そう言い返して、
その声音が、自分が他の男の子たちから関心を寄せられてないのに拗ねているように聞こえてしまいそうだったから、

「あ、ごめん、ごめん、連絡きてて、その返事してた」

とすぐ謝って、ごまかした。

私の顔とスマホの間に、ユリカの頭がぬっと出て、覗き込んでくる。

「水上さんとのやりとり?」

「そうやったら嬉しいんやけどな……。きのうの職場の飲み会で会った、大阪営業所の人」

「えー、また職場関係とか、ややこしいやん」

「そんなんじゃないって。大学一緒やったみたいで、話、もりあがったの」

「えー、なにがちゃうんか、よーわからんわ。水上さんにスルーされてるのに拗ねて、他の男の子に連絡しよーみたいな」

「……水上さんにスルーされてるのは確かにちょっと凹んでる」

「ああ、もう沼にはまってますねー。でも、あかねいいなー、職場に素敵な人いるってうらやましい。私、職場行くの自体苦痛やもん」

ユリカは、職場の人間関係が上手くいっていないようで、それが原因で体調を崩しがちのようだった。
また、彼氏と別れてからの傷心も癒えきっていないようだ。

「……まあ、仕事は何かと悩みの要素やよね」

「そう、だから、休日だけは気分あげたいやん。でさ、さっきの男の子たちの中で東京で勤めてる子ら見つけたんよ。遊びに誘われたから、あかねも一緒に、ね?」

仕事で輝いていると言えるほどではないものの、仕事に対してのある程度の充実感を感じている私に対して、ユリカは引け目に感じることがあるようだ。
ちょうど、私が異性関係の充実度の引け目を感じているのと同じように。
それで、おあいこだよねという納得があるからこそ、上手く付き合えているのかもしれない。


週末、水上さんからの返事はなかった。
既読の文字だけがついたことを確認して、まあ、質問を投げたわけではないしなー。いや、おせっかいな報告やったかな? なんて思ったり。
ユリカに指摘されたように、沼にはまっていた。
かわりに渡辺さんとのラリーは続いている。もちろんずっと学生時代の共通の話をしているわけじゃなく、途中から会社関係の話になったのだが。

――来年度、組織もダイナミックに動くみたいですね。地方営業所の人員のシャッフルもあるみたいで、俺、怖いっちゃ怖いんですけどね。

――まあ、そうですよねー。大阪愛着あります?

――そりゃそうですよ! 地元ここやもん。にしても、そう考えると紺野さん、東京長いですよね。すごいな。

――そうですね、長くなっちゃいましたね。

――東京、居心地いいっすか?

――うーん、悪くはないですけど。たまに帰る大阪は地元の温かみを感じますよね。

――大阪帰ってきたらいいじゃないですか。峰本所長、紺野さんのこと気に入ってますよ。

――あはは、それは光栄です。渡辺さんこそ、東京来たらいいじゃないですか。

――そうですねー、紺野さんいますしね!笑 東京でガンガンセールスするの憧れますけど。まー、俺が東京行くにはもうちょっと、関西でのレベル上げなあきませんからねー。


水上さんからスルーされていることに落ち込みつつも、渡辺さんとの他愛のないやりとりをしながら、大阪での滞在を終えた。

週明け、出社して、
業務の合間、ちらちらと水上さんの様子を観察する。

相変わらず、水上さんは忙しく動いていて、チーム編成変更に伴う引継ぎでバタバタしているようだった。
また合間によく役員に呼ばれているようだった。

水上さんが、外出したあとのことだ。

「水上のあんちゃんも、たいそう忙しいもんなんだなー、俺に雑で分かりずらい仕事を丸投げして、こんな小さな仕事より、もっと大きな仕事があるってか? なあ、これどう思うよ?」

そう大声で話して、自身のアシスタントに資料を見せているのは、剛田課長だ。
剛田課長とは水上さんと職位を同じくして、年齢は水上さんの5歳くらい上、社歴は水上さんよりは短いが、豪快でありつつも結果を残し、本社の中での地位を上げてきた人物だ。
水上さんがスマートで柔軟なイメージだとするならば、
剛田課長は力技で押し進めるイメージだ。
まったく、キャラクターは反対で、たびたびこの二人は仕事のやり方で衝突することがあるようだ。

「なー、あんまりだよなー、もうちょっと丁寧に引き継いでもらわんと、こまるよなー? なー、そうだろ?」

そして、この剛田課長の声はデカい。あきらかに、直接会話している人間以外の周囲の人間にも聞かせてやろうとする悪意が見える。

「仕事やってますみたいなポーズをとるんじゃなくて、中身も伴ってくれんとこまるわなあ」

剛田課長にとっては、水上さんの存在は邪魔なのだろう。蹴落とせるのならば蹴落としてやりたいという魂胆が見え隠れする。

もしかしたら、水上さんの落ち度があったのかもしれない。私を含め、周囲の人間はその詳細を知らない。とはいえ、本人がいない中、辱め晒すようなやり方、あんまりだと思う。

実務的な仕事の忙しさとは別に、社内政治的な部分、水上さん苦労しているのだなあと思った。その心労はいかほどかと私はひとり心配をした。

……to be continued

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