集客に直結する「タイトルづくり」3ヶ条【まいまい京都のメソッド公開①】
■まいまいツアーはマニアック?
まいまいのツアーは「マニアック」だと言われることがある。たしかに廃線跡をめぐったり、土塁をたずねたりと、よそではあまり例のないツアーは開催している。けれども、けっしてマニア向けではない。
むしろ、そのジャンルに詳しくない初心者の目線から見て、面白いかどうかを重視している。たとえば廃線跡をめぐるというマニアックに見えるツアーであっても、鉄道の知識がない人にも楽しめるようにしている。言い換えるならば、すでに鉄ちゃんになった人だけでなく、これから鉄道や廃線が好きになるかもしれない「潜在的マニア」にも響くようなツアーを大事にしている。
■タイトルを決めると、内容が見えてくる
では、まだその魅力を知らない人に、どうやって参加してもらうのだろう。そのためにまいまいが、特に力を入れているのがツアーの「タイトル」だ。
行政などが主導する多くのまち歩きツアーは、まず歩くルートや内容を固めて、そのあとでタイトルを付ける。そしてそのコースについて語れるガイドを募集するという順で準備が進む。しかし、私たちはその逆だ。まず面白い人を探し、次にタイトルを考える。細かな内容はその後だ。なぜかというと、タイトルはもっとも短い企画書だからである。
最大39字×2行に、ツアーの魅力を詰め込む。言葉を選んでいく過程で、このツアーのいちばんのアピールポイントが何なのか、絞り込まれてくるのだ。このタイトルがツアーの内容と集客を決める。
■集客に直結する、タイトルづくり3ヶ条
タイトルの目的は、参加者の期待を最大限に高め、ツアーに申し込んでもらうことだ。あたりまえのことのように聞こえるかもしれないが、意外と見落としがちなポイントである。巷のまち歩きツアーでは、「宇治バスツアー(昼食付き)」などコースタイトルがたんなる説明になっていることも多い。これで参加者の期待は高まるだろうか。まいまいでは、タイトルだけで参加者に「楽しそう!」と感じてもらえるよう推敲を重ねている。そのための3ヶ条がこちらだ。
1)いちばんの魅力を「一言」に凝縮する
コースのウリは何なのか。いちばんの魅力をしっかりと絞って、言語化しておくこと。これが何より重要だ。それが絞り込めていないと「このツアーは結局何をするものなんだっけ?」と魅力がぼやけてしまうのだ。
では、どんな要素をアピールするのか。まずはやはり「誰と行くか」。まいまいツアーの魅力は、ガイドさんがもっている独特な見方にあるからだ。「仏師のお仕事拝見」と職業名を打ち出すこともあれば、「美食家僧侶といく」「バス愛が止まらない!」など特性をアピールすることもある。もちろん「どこへ行くか」という場所情報を明確にするのも重要だ。それも単に地名を書くだけではない。「世界的建築家が競演する聖地」「都心に残る野鳥の楽園へ」など、どのような目線で歩くのかを解像度を上げて表現する。
2)しつこく、はやく、おもしろく
コースの目玉となる要素を言葉にしたら、その内容を「しつこく、はやく、おもしろく」表現する。
タイトルは読者に刺さらなければ意味がない。「もっとよい表現があるのではないか」「読点の場所は」「ひらがな、カタカナ、漢字のバランスは」「削られる文言はないか」と一字一句、「しつこく」こだわっていく。この姿勢が基本だ。
粘りの推敲をするのは、ネット時代のシビアさがあるからだ。タイトルを見た一瞬で、読者を惹きつけないと、それに続く告知文は読んでもらえない。そのため、情報を配置する順番もかなり意識している。サブタイトルよりもタイトルに、タイトル後半よりタイトル前半に、魅力的な表現を仕込み、読者に「はやく」情報を届ける。
読者の心をつかむには、「おもしろく」表現するのも欠かせない。好奇心が刺激されるような見方を提示するのだ。たとえば、「世界遺産の金閣寺」など無難な表現ではなく、金閣寺を「日本国王の宮殿」と言い表すなど、ガイドさんの言葉を借りて新しい見方を打ち出す。あるいは、「ダンシング宗教レボリューション!」「平安京・呪術バトル勃発」など、現代の言葉づかいに引き付けたり、あえて意外な言葉を組み合わせてみたりする。文献を調査し、ガイドさんにヒアリングをしながら、これぞという表現を探していく。
3)初めて見る人の目線で考える
ツアー担当者は、上記のことを意識しながらタイトルをいくつも作成する。そこからのプロセスも重要だ。提案されたタイトルを、ツアー内容を知らない私が確認する。初めてそのツアーを知る人が、タイトルだけで心動かされるかどうか判断する必要があるのだ。
必要があれば手を加え、第2案をいくつかまとめる。そして、また何も知らないスタッフに「この案と、この案、どっちがいい?」と聞いていく。ABテストを繰り返し、もっとも反応のよいタイトルに決定する。
まいまいのタイトルづくりでは、徹頭徹尾、初めての人に伝わるかどうかを意識しているのである。
■ぜいたくな船旅が「ミステリー桜クルーズ」へ
では、実際にどのようにタイトルを推敲していくのか、具体例を紹介しよう。当初、担当者がもってきたタイトルはこれだった。
このタイトルは、「誰と行くか」「どこへ行くか」は明確だ。いちばんのウリは「貸切クルーズ」でのお花見のようだ。しかし、どのあたりが「ぜいたく」なのかイメージしづらかった。そこで担当者にヒアリングしてみた。
すると、このコースの魅力が見えてきた。このクルーズは、キャプテンと7名限定の参加者が小さい船に乗るもの。キャプテンが「あっちの桜がいまちょうどキレイやし、寄ってみよか」と、参加者の反応を見ながら臨機応変に航路を選ぶのだという。それはまるで、ベテランの船頭さんとともに、自分の船で気ままなクルーズをするようなものだという。
それを聞いて、このツアーのウリは「行き先を自由に決められること」だと考えた。そこで、タイトルはこのように変わった。
ツアーの魅力を「ミステリー桜クルーズ」なのだと一言で表現してみた。タイトルのキーワードを決めると同時に、ツアーの内容にも変更をかけた。当初は、桜ノ宮や大阪城などと行き先が決まっていた。けれど、ミステリーツアーのほうが参加者の期待を高めるだろうとの判断から、行き先は決めないことにした。タイトルを磨いていくと、コース内容の輪郭もはっきりしてくるのだ。リリースしてみると反響は大きく、満員御礼の人気ツアーとなった。
たった2行、されど2行。このタイトルが、ツアーづくりにおいて大きな意味をもつことがおわかりいただけただろうか。まいまいではひとつのタイトルを決めるのに、数時間かけることもある。まち歩きツアーの企画とは、言ってみれば「ツアーのタイトルを考える」ことでもあるのだ。
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