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成熟した威風堂々「辺境の老騎士 バルド ローエン」(コミック)

主人公のバルド・ローエンは、老いを避けがちな自分とは対照的な、成熟した真の大人としての理想像だ。

引退しているとはいえ、かつて正道を歩んだその生き様は変わらず、弱者を助けずにはいられない。その堂々たる風格は、他の誰でもない、まさに騎士と呼ぶにふさわしい存在だ。

修羅場での落ち着きは、その実力と経験に基づくものであり、護るべき者がいる状況では破格の強さを誇る。その力強さの裏には、無理がたたって寝込むほどの老体があり、その限界も垣間見せる。だが、その矛盾こそが一番の魅力なのだ。

関わるもの全てが、騎士なのに気さくで飾り気のない彼に惹かれ、敵すら敬意を持って接する存在だ。登場する仲間も、個性が強くて存在感のあるキャラクターばかり。彼らとバルドとの絆も、この作品の魅力を高めている。

のんびりと食を楽しみながら旅するバルド一向と出逢う人々との交流を、じっくり描いているのがこの作品の持ち味だ。しかし、現代コミックのジェットコースターのような展開に慣れた読者には、この緩やかなペースが逆に物足りなさを感じさせるようで、作品の評価は賛否両論あるようだ。

また、このコミックを友人から薦められた時、まだまだ若く現役でありたいと願う自分には、「老騎士」というテーマが、相容れないかもしれないと思ったのも事実だ。

だが、バルドがふと漏らす『やるべきことはやってきた、あとは生きて死ぬだけだ...』は、老いや死の概念を避けがちな自分にとって、衝撃だった。この死生観は成熟した大人特有のものであり、懸命に生きるには、そのリアリティと向き合う勇気が必要なのだと痛感させられた。

この成熟と衰えを共存させるバルドは、自分が避けてきた「老い」に対するネガティブな見方を塗り替えた。たとえ肉体は衰えてもそれはそれとして受け入れ、終わりが無い頭脳と心の磨き上げに精進する姿勢が、大人としての老いなのだ。

読み進めるうち、「出逢いに感謝し、知ることを楽しみ、様々な試練にも動じることなく、常に矜持を持って挑む老練な騎士」の真摯な生き様に惚れ込んでしまった。

この姿こそが最も価値のある「学び」だ。仕事も趣味も精進を続け、多様な経験からの洞察を得ながら、最期の日まで誇り高く生き抜くーーそれが、この作品とバルドが自分たちに訴えかけるメッセージなのだ。

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