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「ベルリン・天使の詩」②失職した天使たち

 ★街や図書館で市井の人々の声を聞くことしかできない天使たち

 何故かベルリン図書館には天使たちが大勢いる。そのシーンはとても印象的だった。

 ある者は壁に寄りかかり、数人は吹き抜けのフェンスに腰かけ、皆ぼおっとしていて所在なげだ。一見普通の市民みたいだが周りの大人に見えていないことから天使なのだと気づく。


 神の使いとして人間を導くはずの天使は、第二次世界大戦後に失職したかのようだ。

 この映画は1987年公開だから、終戦から40年以上経過しているわけだが、人々の生活に爪痕は深く残っている。天使は大戦にあたって為すすべもなく未だ神の怒りは融けないのだろうか。

 天使ダミエルと天使カシエルも図書館内をぶらぶらしている。カシエルはある老人に寄り添い、彼の心の声に耳を傾ける。

 この老人の名前はホメロスという。「オデュッセイア」などで知られるギリシャの吟遊詩人の名前。ホメロスは語り部である。記録する人。カシエルが聞いた心の声は「語るものがいなくなったらどうするんだ」という意味の言葉だったと思う。(なにしろ鑑賞してから日が経っているため正確な文は記憶からこぼれ落ちて、意味だけが心に残っている感じ)

 ここでね、監督のメッセージがじわじわと伝わってくる。大戦直後の瓦礫と化したベルリンの街等の記録映像も後のシーンで使われているから・・。

 人間の醜い姿がむき出しになった戦争。あの戦争の傷は消えたわけではない。しかし、記録し語る者がいなくなれば忘れ去られてしまう。過去の過ちから学ぶことができなくなる。そんな危機感。
 カシエルはそんなメッセージを伝える役を担ったホメロス老人の声を聞くのだ。

 ホメロスだけでなく、ダミエルとカシエルが通るところ、人々の声が、思いが音声になって流れてくる。大勢の人々の想い・・。
 けっして本人には気づかれることなく(大人には天使は見えないのだ)
ただ寄り添い、心の声を聞くことは・・それでも意味があることなのだろうか?

     ③に続く