アレハンドロ・ホドロフスキー監督「SANTA SANGRE」

観てしまった、とうとう!カルト映画の巨匠という呼び名にふさわしいであろうと思われる映画。この予告動画を以前に見ていたので、情緒不安定に陥る恐れあるかもなぁと思いしばらく手が出なかった。しかしながら、映像と音楽の凄まじい吸引力に抗えなかったのが正直なところだ。

 ホラーやスプラッタ等が殊更好きな訳ではない。だから、血がドバーッ!とか首や内臓がぁ~~とかが楽しいとは思わないし、そういうのを期待しているどころかむしろ避けたい方だ。でも、何かを描くために避けられないと言うか、必然と言うか・・・そういう場合は全然気にならない。

 サンタ・サングレは、ホドロフスキー監督の作品中では、比較的一般受けする分かりやすい作品と聞いていた。観終わって納得。象徴するところや結末などが分かりやすくてちょっと拍子抜けしたかも。別に悪いことじゃないけどね。でもそういうところはたいした問題じゃない。「虹泥棒」や「リアリティのダンス」と同じように、わたしを強く惹きつけたのは「幻想的な映像の美」と「雰囲気のある独特な音楽の使い方」と「哲学的な言葉」に尽きると思う。そして、善や悪を超越した世界観だ。

 予告動画にもあるが、サーカス団の象が死んで立派な棺に収められて葬儀が執り行われ、最後は崖下へ捨てられる場面。巨大な棺がサーカス団員や楽団に囲まれた葬列の盛大さ、この世のものとは思われないような幻想的な場面。かと思うと、最後には崖下へと大きくバウンドして転落していく象の棺。貧しい人たちがすごい勢いで崖を滑り降り、棺を破壊して象の死骸を略奪する。これはものすごい映像だった。善とか悪とかじゃない、生きることと死ぬことをそのまま肯定するしかない迫力だった。こういうところがホドロフスキー監督のすごいところだ。

 もう一つ、特にわたしが惹かれたのは聴覚に障害がある少女だ。クラウンのように白いメイクに細いアーチの眉。少年の胸に彫られた猛禽のタトゥーと、少女の掌が羽ばたいていく。それぞれの場面で流れる音楽も印象的だ。