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オシャベリな僕が、口数が少なかったり無言だったりしたことがあります。

14~15年前、「学校で、娘が虐められている」と聞かされました。
離婚した、前の妻からです。
娘が、確か小学2年生だったはずです。

僕には娘が2人います。
1人は、一緒には暮らしていない娘です。
もう1人は、現在の妻、ゆかりちゃんの娘です。4年前に養子縁組しました。
こっちの娘とは一緒に暮らしています。


娘の母親から、SOSの電話があったのです。

「学校へ、一緒に行ってほしい」と。
「母親だけでは舐められてしまうから」と。
「いるだけでイイの」
「何も言わなくてもイイからね」
と、依頼から命令に変化して、相変わらずだなぁと思ったことを憶えています。

「公立の先生は、全くダメ」という、典型的な不満の言葉も聞かされました。

学校近くの喫茶店で待ち合わせて、簡単に事情を聞くと、

・上履きを隠されたり
・ランドセルにゴミを入れられたり
・それらを見てニヤニヤされたり

というオーソドックスな虐めでした。


「担任はやる気ナシ!」
「学年主任は、教頭の顔色ばかりうかがっている!」
「公立の先生は、全くダメ!」

ドラマの、悪いPTAのお母さんを演じているみたいです。
日頃は冷静な彼女が、興奮しまくりでした。
わが子のことですから、「冷静に」とか、「客観的になって」なんて、きっと母親には不可能なのですね。


僕は、心の中で、
(僕も、小学3年生のとき虐められたなぁ)
(転校生だったからなぁ)
(ガキ大将が、虐めの対象者を決めていたなぁ)
(ケンカが弱いくせに口だけ達者で、まあ、あの頃の僕はイヤな奴だった)
(娘は僕と同じで、理屈っぽいからなぁ)
(母親の性格と似て、気が強いからなぁ)

などと思っていました。

(僕は、親に言うと「チクリやがった」と軽蔑されそうで怖かったけど…)
(女子には、そういうのがないのかな?)
(それとも、今どきの子にはないのかな?)

そんなことも考えました。


学校に着き、応接室みたいなところへ通されました。

女性の先生が来ました。担任の先生です。
顔に怒りが出ています。それを隠そうともしていないのです。
これまで何度も、元妻とバチバチやりあったのでしょう。その瞬間も、元妻と視線で殴り合っているのです。

担任教師の眼は、モンスターペアレントを見る眼でした。
僕たちを、クレーマー夫婦と決めつけています。

学年主任の男性教師が現れました。
卑屈なほどペコペコ頭を下げますが、ペコペコし過ぎです。
そこに【本心】がないことが、逆に明白になってしまっています。

教頭先生も加わりました。
教頭先生は、100%他人事、という顔でした。
興味関心が1ミリもないのでしょう。逆に、よくこんな表情ができるものだと変な感心をしてしまいました。
僕が、短気で喧嘩っ早い性格なら、その顔一発でNGです。


予定参加者が揃ったのでしょう。
学年主任が口火を切りました。

「これだけはまず、先に言わせてください。
 私は、いじめ問題というものは、
 【イジメられる側にも問題がある】
 とは、決して考えてはいけない!

 これが大、大、大前提です!
 私共は、心からそのように考えております!」

元妻は、わが意を得たりという表情をしていました。
元妻は、例えば電話とかで、学年主任ともやり合ったのかもしれません。

ちなみに僕は、口喧嘩では【町内会のチャンピオンレベル】です。まあまあ強い方です。
元妻は、日本のトップレベルです。
下手したら日本代表になっちゃうかもしれません。僕は1度も勝ったことがありませんから。


そんな元妻が論破できなかった公立小学校教師陣ですから、理屈をこねてもダメだろうと、僕は、そう思いました。

そもそも僕は、学校にも、元妻にも、虐め問題を解決できるとは考えてはいませんでした。
虐められた経験があるので、虐める子供の狡猾さを知っているからです。
また真の犯人は、けっして首謀者1人ではなく、【その場の空気(雰囲気)】という、とがめようも裁きようもない、曖昧模糊《あいまいもこ》としたヤツなのです。


元妻と学校側の主張など、どうでもいいと思っていたのです。
僕は、

娘が、またスクスクと、学校生活を謳歌してくれればイイなぁ。
本当は、娘が自分で、こういう問題を乗り越えられたら良いんだけどなぁ。
転校したってイイんだよなぁ。

そんな考えをしていました。


僕は、元妻の言いつけを守って15分か20分か、無言でした。
黙っていろと言った元妻でさえ、「あなたも何か言ってよ!」という怒気のこもった眼で僕を見ました。

男性の先生方は、元妻の演説にうんざりしていて、お父さんは?という顔をしています。
担任の女性教師は、どうせコイツも同じ穴のムジナだと決め付けた、侮蔑の眼差しになっていました。


僕は、「ちょっと、・・・いいですか?」と、皆に聞きました。
どうぞどうぞ、と即されました。

何秒間か充分な間を取り、そして、発言しました。


「娘も、悪いのかもしれません」


先生方が全員、無言で、「え?」という表情になりました。
隣にいる元妻の顔は、怖くて、とても見れませんでしたが、怒気、邪気、怨念などを、ピリピリと左肩に感じました。


「この問題は、親と学校が対立する必要はない……と考えます」


先生方は固まったまんまです。
担任の先生は、眼球が落ちそうなほど、目を見開いていました。


「共に、子供を育てましょう」


皆、無言です。次の言葉を待っているのが分かりました。

担任の先生は、僕のことを化け物でも見ているかのような警戒の目で見ています。得体の知れないモノを見る目です。


「私から、1つだけお願いがあります」


「・・・」
「・・・」
「・・・」


「子供たちに、【卑怯】という概念を、教えて下さい。
 卑怯とは、『最も恥ずかしいこと』なんだと、教えてほしいのです」


先生方3名の、【納得感】が漏れ出ました。

姿勢が正され、
でも、少しリラックスして、表情が柔らかくなりました。

担任の先生も、休戦を受け入れた戦士のような顔に変わっていました。


隣の元妻だけは、(何、ぬるいこと言ってんの!)というオーラをビンビンに放っていましたけど……。


その5者面談の、5日後ぐらいです。

「また来てほしい」と、元妻から電話がありました。

虐めた子供たちの母親たちが、「わが子にちゃんと謝らせたい」と言い出したというのです。
そして、その場に、父親のあなたもいてほしい、という依頼でした。


前回のことがあったからでしょう。
すごく、念を押されました。

「ただ居ればいいの。何も言わないで。余計なことは絶対に言わないで。男親が、その場にいるというだけでイイの」と、要は、黙っていろと命令されました。


茶番の中のザ・茶番を見せられました。

親から謝罪を命じられ、おそらくはセリフを与えられ、ニヤニヤしながら暗記したセリフを語る小学生低学年の男子。

僕が娘の立場なら、そんな心のないクチだけの謝罪で、「うん、許すね」とは思えない。
でも、「ざまあみろ」とも思えないし、かといって「謝らなくてイイよ」とは絶対に思わない。

複雑だろうな、と思って娘の顔を見ると、なんと!、けっこう満足気じゃないか。
やや軽く、「ざまあみろ」と思っているのか?

僕が、複雑な顔になっちゃいました。


この前、横浜に行ったとき、晩飯を一緒に食べました。
イタリアンレストランで、2時間半も語りました。

ワインを3杯か4杯飲んでいて、けっこう酒に強くて、驚いたなぁ。

小学校では、あのあとどうなったのだろうか?
今度、聞いてみようか。






おしまい


※この記事は、エッセイ『妻に捧げる3650話』の第1310話です
※この記事は、過去記事の書き直しです
※僕は、妻のゆかりちゃんが大好きです


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