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彼はどんな思いで・・・

少年は職員に連れられしっかりとした歩調で、まっすぐ前を向き、寮に向かってきた…

「お願いします!」
担当職員が教官室を覗き込むように声をかけ、少年の名前と必要最低限の情報を伝える。
「はい、了解しました」

「今から、入院の挨拶をしてもらう、先生に、自分の気持ち、やる気をしっかり伝えるように・・・いいな!」

「はい」としっかりとした返答・・・
「気をつけ!休め!気をつけ!・・・礼!」号令に合わせしっかりとした所作
「〇〇少年鑑別所から来ました〇〇〇〇です。よろしくお願いいたします。」

一般的に言えば大きな声でしっかりとした挨拶である。
下を巻くような、啖呵を切るようなものではなく、ある意味立派な挨拶と言えるだろう。

「聞こえねぇよ!何にも伝わらねぇよ!もう一回やれ、・・・礼!」と大きな声で号令を…

繰り返し挨拶を行う少年・・・

「聞こえない!」・「何も伝わらない・・」・「お前、何しにここへきたんだ?」・「自分を変える気があるのか?」・「聞こえねぇ!」・「伝わらない!」・・・と繰り返す

中にはふて腐る者・反抗的になる者・怯える者もいる。

しかし、この瞬間が実に大切で、娑婆っ気を抜く、見栄や虚勢を捨て、本当に心の中、

頭の中を素直に、空っぽにする・・・

少年にとっても教官にとっても一つの大切な勝負の瞬間だ!

中途半端な挨拶ではこれからの生活、自分を見つめ直し、反省し決意を固めて行く妨げにしかならい、自分の経験では挨拶だけで3・4時間を裕に超えたことも多々あった!

声は出なくなるし、足は棒のように固まるし、全身が筋肉痛のように、時に頭痛も・・・

繰り返す挨拶の中で、少年の目の奥に変化を感じる瞬間がある・・

「お前、死ぬまでヤクザやって行くのか?本当はどうなりたいんだ?」
「変わりたいです・・ただ普通に暮らせるようになりたいです」

「その手伝いがしたくて俺はこの仕事に就いたんだ・・手伝わせてくれねぇか?」

「お願いします」
「厳しいよ!半端なく・・・でもそれだけじゃない・・お前次第だ!」

「はい!」・・・こんな会話が自然に生まれるようになった時・・・
初めて自分の前にたった時の少年はそこにはいない・・・
嘘のように、優しい表情に、ある意味とても可愛い表情の少年がいる・・

出院前の少年たちと色々な話をすると必ずと言って良いほど・・
「入院時の挨拶では、こいつ娑婆に出たら絶対ぶっ殺してやる!とか今すぐ飛んでやろうか!とか思いましたけど、だんだん、どこまでしつこいんだ?なんでこんなにマジになっているんだ?俺なんかになぜここまで真剣に・・って思い、不思議に嬉しくなったり、自分の兄貴分(組織の)と被ってきたり、この人ならって思えたりして、マジで真剣に考えようって思えたんですよ!」と話す少年がほとんだった!
こちらも、同じで物凄く、愛おしく思え、可愛く感じてくる、時には友のように・・

その少年も同じように挨拶を繰り返した・・・
彼は、反抗的なったり、不貞腐れることはなかった・・・まっすぐに顔をこちらに向けしっかりと目を見て一言一言に丁寧に答えていた・・ただ怖いくらいに目に表情がなかった…

無感情というのか、冷たい視線というのか、ある意味、分厚い壁を感じた・・・
本当に心を開くまではかなり時間がかかるかもしれない・・・・そう思った。

「お前、まだ心が開けないでいるようだな・・・俺じゃ役不足か?」

「いいえ」

「心を開くのが怖いか?」

「・・・・・」
もう遠い記憶だが、この時初めて視線を斜め下に落としたように記憶している。

「いつまでもカッコつけてんじゃねぇよ!俺も、お前も、みんな、人間なんて弱えんだよ!」
と一喝した・・彼は再び視線を戻ししっかりとこちらを見た・・ここは今でもはっきり覚えているが、目に一杯涙を溜めていた・・・

「自分の弱さ認めて、助けてくださいって言えば良いじゃねいか、変わりたいんだろ!」

「はい!・・・」この時の表情から初めて彼から暖かさを感じたというか、冷たさが消えたというか・・・変な例えだが、冗談ひとつ言ってはいけない雰囲気から普通に弄って良い、揶揄っても良いと感じる、そう、彼の笑顔が想像できた瞬間だった。

「おい!本当に本気でやるか?」

「はい」今までの返事より響きがあるように感じた

「最後に、全てを捨てて、素直な心でもう一度挨拶決めてくれ!」

「はい」

「決めろよ!・・休め・気をつけ・・礼!」
「〇〇少年鑑別所から来ました、〇〇〇〇です、よろしくお願いいたします。」

嬉しくなるような響きだった・・・教官室内で聞いていた教官達も終わったな、ひとつ乗り越えたなと感じられる挨拶だったという・・・彼自身も少し微笑んでいるような清々しい顔をしていた・・
「お前、表情全然違うよ!こんな顔していたんだね、優しくて、かしこそうに見えるよ!」

照れくさそうにちょこんと頭を下げ、次のオリエンテーションへと・・・・
彼の新入時の生活はとても落ち着いていた・・日に日に表情も柔らかく・・口数は少ないものの問いかけには素直にごく普通に応対していた・・
彼から何か雑談をしてくるようになるまでは少し時間がかかったが・・彼からたわいない話をしてきてくれた時は本当に嬉しかった!
他の少年たちと雑談で、ちょっとHな話をしている時、突然吹き出し笑い出したことがあった・・・「なんだお前・・全然興味ないような顔して・・実は・・」・・・・
「違いますよ!普通ですよ!普通!」と顔を赤らめて笑っていた。

新入時教育期間も順調に進み・・そろそろ進級という時・・
両親について面接指導したことがある・・
彼のご両親は・・二人とも教員で父親は高校の校長であった・・・

幼少の頃から厳しく育てられたようであった・・・
教員の子供なんだから・・・しっかり勉強し、良い成績を取り・・優等生であれ!

と直接言われないまでもその雰囲気がひしひしと伝わり嫌だった・・・
普通に友達と遊んで、ふざけて、時に叱られてそんな生活に憧れていたと言う。
出来て当たり前・・が嫌だった!比べられるのが嫌だった!・・・
できない事や失敗を笑って欲しかった・・・何か出来ないことや、失敗があると黙って首を傾げ去っていく父親が嫌だった、慌てて、その場を取り繕い補習授業のように教えたり、指示してくる母が嫌だった・・
「暴走族に入ったり、傷害事件を起こしたりを繰り返したのは当て付けかも・・」

と話していた。

「先生が良く(俺は勉強が全くできない・・サボってばかりいたからね・・でも出来ないことがあるとか、失敗するって事は決して悪いことではない・・まだまだ伸びる可能性があるんだよ!俺は可能性の塊のような男だ!)って言っていたじゃないですか・・あれなんか凄く響いたと言うか・・そうだよなって思って、なんで親は学校の先生なのにそう言う考えを持てないのだろうって思いました。」と真剣に話すと言うか訴えるような事があった!
その時、ぷっ!と吹き出し、「その時のこと覚えていますか?〇〇君が先生、可能性の塊って言うけど、できない事、失敗、ありすぎでしょ!って・・〇〇君調査指導した方がいいですよ!3日間ぐらい謹慎とか」とニコニコと・・・コイツ!変わったなぁ〜と嬉しかった
彼の両親は新入時教育期間中は一度も面会に来ていない・・・

両親との確執を中間期に申し送り彼は中間期に進級した・・

彼の中間期での生活も安定しているようだった・・当直の時や、ちょっとした時に彼の元に行き声をかけた・・これはもちろん彼だけに限った事ではなく・・・

新入時を担当すれば全ての少年たちの事が気にかかるもの、指導者として当たり前の行動・想いだと思う・・

進級した少年たちとの会話も楽しかった、彼らの成長や様々な心の動きを違った角度から感じられる。中間期を担当する先生方の努力、そして職業訓練も始まり少年たちの生活全体に活発さが増してくる・・
これが出院準備期に入ると更に大人を感じさせる少年たちも多く見られる・・・


ある日、非常事態を知らせるブザーが鳴った・・・
「何かあったな・・」と緊張が走る・・手の空いている職員は現場に駆けつける・・

興奮がおさまらないまま・・一人の少年が連行されてくる・・・
新入時の寮には調整という心を落ち着かせ考える部屋もある出院前の少年が社会復帰の心の準備や規律違反での反省の為のものである。
中には興奮が収まらず暴れたり、自傷行為、自殺等を避けるために何もない保護室、トイレのみで突起物がない状態の部屋であり安全のため監視カメラも設置されている。

連れてこられたのは彼だった・・・
その表情は入院時のあの無表情の顔でもなく、今までに見た事もないような・・

明らかに、怒りに満ちた顔だった・・・
「喧嘩?」連れて来た職員の一人に聞いた
「いや、指導中に突然・・・詳しくはわからない・・」

「まだ話せる状態じゃなさそうだね・・」

彼はそのまま保護室に入った・・・

何度か様子を見にも行った・・担当の職員からもいろいろ様子を聞いた・・

何度となく声もかけてみた・・・振り返る事もなく黙って背を向けている
日が経つにつれ少しずつ落ち着きと表情にも変化がみられて来たが・・・
口を開くことはない・・・

そんなある日の彼から提出された日記に保護室に入ってから初めての記載があった・・

“毎日、〇〇先生と△△先生が声をかけてくれる、申し訳ない。”と一行のみ

でも明らかに一歩前進だと感じた・・・

しばらくして保護室から普通の調整の部屋に移ったが、彼自身の大きな変化は見られない

居室内で俯いて座っている彼に「おい!〇〇・・・」と声をかけると・・スッと顔を上げ

「先生、すみません、迷惑かけて・・・」

「どうした?いろいろ話は聞いたが一方的だ・・お前の話も聞きたい」

「すみません、今は何も話したくないです。それとあの先生とは二度と話したくないです。」

「そうか、でもそこをクリアしないと前には進まないだろう・・」

「わかっています・・でも今は・・・」

「わかった・・・何かあったら言えよ・・じゃぁな!」

「ありがとうございます」小さな声で、頭をちょこんと下げ、目を瞑った。

食事を受け取る時も、下げる時も何をするにも無言である・・・

担当の教官との面接でも質問には一言二言話すものの核心に触れると口を閉ざしてしまう

ここまで心を閉ざすのだから、指導に問題がなかったとは言えないと感じていた。

両親との問題や出院後の事を話している時に突然反抗的になりふて腐るような態度をとったので厳しく指導したとの報告がなされていた・・・

当直の日に外巡回で外から彼の部屋の前にゆき・・思い切ってその時の話をぶつけてみた。
「あぁ、もちろんそれが原因と言えばそうなんですけど・・それだけじゃなく色々積み重なった感情があの人にはありましたから・・」わからなくもなかった・・・残念だが

“あの人”かぁ・・・もうほぼ信頼関係は無くなっているんだろうと感じた・・・
「言葉って難しいよな!思いを正しく伝える為のものなのに・・・伝わらないことや誤解を招くことも多くある・・」

「先生、大丈夫です・・先生の言葉はちゃんと伝わっているし感謝しています」

「ありがとう!・・そろそろお前も笑顔を見せろよ!・・・怖いから・・」と冗談混じりに

「えっ、あぁ・・はい」と少しだけ微笑んで見せた。

時間はかかるだろうけど頑張りどころだなと感じた。
この仕事に就き初等科研修の時に授業の一環で映画「奇跡の人」ヘレンケラーとサリバン先生の実話を映画化した作品を見た・・・繰り返し繰り返しぶつかりながら諦める事なく成長を信じ接していくサリバン先生、いつしかその愛と情熱に応えていくヘレンケラーの姿に研修生みんなで感動し指導教官たちと熱く語り合った事を思い出した・・・

この時もそんな思いでいた時・・・
ある日の職員朝礼で・・・
彼を他の施設へ移送という話が持ち上がった・・・ふざけるなっ!と正直思った!
当然、真っ向反対した・・・
「放棄するんですか?」
「そうじゃないけど、環境変えた方が・・」

「まだ、何もしてないようなものじゃないですか・・移送は絶対反対です。」

そんなやり取りが続いたが・・・・「もう決まった事で、先方も受け入れ体制ができている」

上の人間だけで決めるのか・・現場でぶつかり合っている人間の意見も聞かずに・・

「少しずつでも笑顔も見られるようになっているし、その報告もしていますよ!」

「・・・・うん、まぁ・・でも、ねぇ・・」

納得できなかった・・・・

その日の夕方お偉いさんから呼び出され・・・・
出張を命ぜられた・・・・
「明日。〇〇君を△△少年院へ移送します。その移送に貴方に行ってもらいます。」

唖然とした・・・「なぜ、自分なのですか?」
「今、一番彼が心を開いているのは先生でしょ、彼の安全と精神的な面も考慮してです」

「・・・・・・」断ろうとも思った・・色々な思いが巡った・・・

どれくらい悩んだか、返事をするまでにかなり時間がかかったように思う。

一緒に行く先輩教官から、「あいつも先生が一緒の方がいいでしょ・・・なっ」

翌朝・・・彼の部屋に行き告知・・・
彼の顔を見るのが辛かった・・
移送の準備を進め・・・・出発した。
「何もしてやれなかった・・・ごめんな」
「先生、すみません・・喧嘩腰で反対し、色々やってくれたって・・」

「えっ?」

「さっき、運転手の人が言っていました・・すみません」

何も言えずただ、肩に手を置いた・・・


車の中で、何を話せばいいのか・・・なかなか言葉が見つからない・・
彼も、黙って外を眺めている・・・

「お前、群馬だったよな?」
「はい」
「じゃぁ・・この辺の道はわからないだろ・・」

「はい」

「この道をまっすぐ行って・・・途中右に入って行った所に、いい女がいるんだよ!」

「・・・・はっ?」

「俺の元カノだよ!」

「ハハハッ、マジですか?・・元カノ?振られたんですか?」
「馬鹿野郎!逃げられたんだよ!」
「なお悪いじゃないっすか!」久しぶりに彼の笑顔を見た・・
「お前、彼女待っているんだろ?」
「って言っていましたけど・・どうですかね・・・」
たわいのない話が続いた・・彼は穏やかで、落ち着いていた・・・
移送は正解だったのか?俺のただのエゴだったのか?・・・
車は高速に入った・・・
「久しぶりだなぁ・・高速道路なんか・・気持ちいいですね」

「出院前に社会見学の時ちょっとだけ乗る事があるだよ・・」

「そうなんですか・・」

「行かせたかっていうか・・うちから出院させてやりたかったなぁ・・」
「そうっすね・・でも自分が悪いんでしょうがないっす、てか、すみません」

なんとも言えない時間が過ぎて行った・・
でもおかしな話だが、ちょっと楽しかったりもした・・時々ただドライブを楽しんでいるような感覚である・・・彼自身からそんな雰囲気を自然と醸し出されていたようにも思う。
車はゆっくりとPAへ
「トイレ行くか?」
「はい」
「規則だから・・悪いな!」と手錠と腰縄を・・・

車を降りると彼は大きくゆっくり深呼吸をし・・「気持ちいいです」
「行くか・・」
「はい」とトイレに向かった・・一人の少年に二人の職員が・・
俺と彼は手錠と腰縄で繋がっている・・・その事が悲しかった・・・・

コイツと俺は・・心と心は本当に繋がっているのだろうか?・・・切なかった!

トイレに入ると清掃のおばさんが掃除をしていた・・それを見た彼が・・
「おばさん、ご苦労様!ありがとうね!」と声をかけた

正直、ちょっとその言動に驚くと同時に嬉しさも感じた・・

「あぁ・・ありがとう!」とおばさんもあかるく、にこやかに応えてくれる。

「おばんさん・・何歳?」
「もう、70過ぎているからお婆さんだよ!」

「へぇ・・大変だね、頑張って・・・」と彼は手を挙げた・・
ハッとした・・彼の手には手錠が・・・
清掃のおばさんの目にもしっかりその手錠は見えた・・がおばさんは顔色ひとつ変えず、
「お兄ちゃんも、しっかり頑張りなさいよ・・若いんだから・・・ネッ!頑張れ!」

「うん!ありがとう・・じゃぁね・・」と彼も優しい笑顔で返した・・

ちょっと泣きそうになった・・・今すぐ手錠を外してやりたいとも思った・・・
同時におばさんの心の大きさと言うか、暖かさと言うか、愛情深さと言うか・・感動した。
「ありがとうございます。」と深々と一礼し車に戻った・・・

「あの、おばさん・・良い人ですね・・」

「そうだな・・気が付かないだけで必ず味方はいる、支えてくれる人がいるってことだよ」
「・・・・・」黙って何度も頷いていた。
再び車は高速に・・・

「そろそろ・・着くぞ・・」

「・・・・」大きく息を吐く彼
到着・・必要な手続きを済ませ・・職員に連れられ再び我々の前に・・・
「ほら、ちゃんと挨拶して・・」
「ありがとうございました・・色々すみませんでした」
「頑張れよ!」
俺は何も言えず・・ただ握手だけした・・・グッと力を込めると彼もグッと握り返しきた・・

その日は近くのホテルで泊まりとなっていた・・・
夜、同行した幹部職員・先輩教官達と食事を兼ねて少し呑んだ・・・

色々言いたい事、話したい事もあったが、彼の事は何も話さずただ呑んだ・・全然酔わない!

ベッドに入ってからも全然寝むれなかった・・・

移送から数日後・・・落ち着いて生活しているとの連絡があったとの報告があった・・
少しの安心と寂しさと言うか・・物足りなさと言うか・・複雑な気持ちで聞いていた。

それから特に問題となるような事もなく通常の落ち着いた生活が続いていた・・・

数ヶ月の月日が流れたある日・・・
職員朝礼で・・・院長から
「ちょっと残念な、悲しいお知らせがあります。
〇〇少年院に移送した〇〇君ですが・・・
先日、居室内で縊死したとの連絡がありました・・特に遺書等もなく、それまでの生活も落ち着いていたとのことで突発的なものと・・・・」
途中からよく話が入って来なかった・・・・「黙祷」と言う声が・・・

黙祷したのか、どうしたのかも覚えていない・・・全く思考が止まった

職員朝礼が終わり全体朝礼のためそれぞれの配置に移動した・・・
その時、ある幹部職員が・・・
「移送させて正解だったな・・・こう言う結果になるのが一番困る・・良かったよ!」

全身の血液がものすごい勢いで駆け巡るような感覚が襲ってきた!」
「おい!てめえ、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!何が良かったんだよ!」

多分、掴みかかるような勢いで詰め寄ったと・・・
「先生!ちょっとアンタに話がある・・・来い!」と直属に上司が・・

「なんですか!ちょっと待ってくださいよ!」
「いいから来い!」と腕を掴まれた・・・
その上司は自分の事を常に心にとめ、認めてくれ、尊敬している上司だった・・

「おい、お茶飲むか?」

「いらないです・・・」

「まぁ、いいから飲めよ!・・アンタも頑固だな・・」
「頑固はアンタだろ」と心の中で呟いた・・

「話ってなんですか?朝礼があるし早くしてくださいよ!」
「朝礼は行かんでいい・・落ち着いて聞け・・アンタの気持ちはわかる!」
「・・・・」
「ぶつけても、わからん者にはわからん・・許せとか、気にするなとも言わん」

「自分が拝命する時、当時の院長から言われました・・あの国家公務員の宣誓をする際に、今した宣誓の国家公務員は“国民の奉仕者として”と言う事を忘れないで欲しい、少年たちと接する上で奉仕者としての精神はとても大切だと・・・最近その意味がよくわかってきていましたけど・・あの方達は、施設や自分の立場を守る事ばかりだ!それが仕事だって言うのなら俺がここにいる意味は無いし、どこに矯正教育があるんですかね・・俺たちは少年達の更生や将来の幸せのために、働いているんじゃないんですか?何よりも優先されるべきは少年達でしょ!」

「とにかく落ち着け・・アンタは間違った事も言ってない、正しい事を言っている。その感情・怒りも当然だ!わかる・・よくわかっている!」

幹部教官はじっと俺を見つめている・・不思議と気持ちが落ち着いてくる・・
感情を吸い取られているような感じだ・・・ただそんな自分の状態が嫌で、もう一度怒りをぶつけようとするが・・・その目が変んに優しく包んでくる・・・
「アンタにはもっとやる事がある・・・これからも変わらんで良い、そのままで良いから、ケツは拭いてやるから・・ここは引け・・・今更どうにもならん事だ・・いいな!」

「・・・・・」何かを言いたい!反発したいと言う気持ちはあるが言葉が出て来なかった!

「おい、お茶飲め・・これは良いお茶なんだ・・特別に飲ませてやるから・・飲め」

「いただきます」・・・・なんだか悔しい・・このクソ爺いめって感じだ!

「アンタの気持ちは十分わかった上で言うけど・・あとでちょっと謝っとけ・・」

「わかりました・・・」・・悔しかったが、全てを受け止めてくれているとも感じた。
有難いと言う気持ちと完全に一本取られたって気持ちだった・・・

この幹部教官とは今でも連絡を取り合っている・・・自分の親父のような存在だ
この時の話は今でも「アンタ、あの時は本当に・・・」と時々話をする・・・
本当に迷惑ばかりかけた・・

事を起こすたびに呼ばれ・・「全くお前は・・・でもそれで良いアンタはそれで良い!」と

頭を叩かれながら・・・・

アイツが生きていれば今いくつになっているのだろう・・
あの時、どんな気持ちで・・・そんな事を考えたり・・
生きていたらどんな男になり、どんな生活をし・・・両親とはどうなったのか?
彼女は待っていてくれたのか?結婚はしたのか?子供は?
「先生、お久しぶりです!太りましたね・・年とりましたね・・」って
「うるせいな!余計なお世話だ・・・元気か?」って再会はできたのだろうか・・・

「馬鹿野郎!」って気持ちと「力になれず申し訳ない!」って気持ちが・・今でも時々・・


誤解のないように・・・

少年たちは・・・

自分の問題点も見つめ、必死になって戦っている・・・
少年院で働く(教官)先生方は・・・

少年達の幸せを祈り、本気でぶつかり合っている・・・

ただでも残念なことに・・・

そうでない方々がいるのも事実・・・


少しでも・・そんな少年たちや、共に戦う先生方の事を理解してあげて欲しい・・・と思う。

自分が伝えられる事・・少なからずも力になれる事にこれからも力を注いでいきたい・・
奴らのためにも・・・・そんな活動を少しずつでもしていこう・・・

多くの接してきた少年たちや、他の仕事でも出会った子供達から本当に多くの事を学ばされているなぁとつくづく思う・・・全くもって俺自身は成長していないようだけど・・・

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