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幼なじみのイチから聞いた・・同級生の・・・

その日は午前中に、親子体操の指導が2本、午後は幼児・ジュニアのスポーツ教室が3本!午前と午後の場所が異なるため、移動はバイクで・・

さて、午後の悪ガキどもとの戯れに向けてどこで何を食おうか・・決まっているのは食後のあのカフェでコーヒーだ!
ボリュームタップリでリーズナブルな蕎麦屋で、もりそば(富士山盛り)を頂き・・若干の後悔とともに、お決まりのカフェで「アイスコーヒーMを・・」と注文していると、後ろからガタイの良い強面の男が覗き込むように・・
「おぅ、やっぱりターちゃんじゃん、元気っすか?何してんの?」
「・・・おぉぉぅ、イチか!なんだよ!久しぶりだなよくわかったな!」
「ねぇちゃん、俺も同じのくれよ!会計一緒でいいよ!」と1000円をポ〜ン!「いいよ!何やってんだよ!」
「えっ?いいよ、いいよ!ここで飲んでいくんでしょ、どこか席取っといてよ!」言われるままに席を確保する
イチはコーヒー持ってニコニコしながら席についた。
「元気だった?」
「おぉ、元気だよ!そっちはどうなんだ?」
「お陰さんで・・一端に一家構えさせてもらってますよ!ちっちぇけどね(笑)」
「そうか・・」
イチは小学校の一つ下の後輩で一緒にサッカーをし、ヤンチャをしてきた幼馴染みたいな存在、中学は違うが、何かと繋がりも持って色々悪さも・・・
今はヤクザとなり一家を構え数人の若い衆の面倒を見ているようだ・・

「そう言えば、テレビ見たよ!いつだっけもう結構前だよね!年少のやつ!」
「おぉ、もう今は退職して、フリーで体育・スポーツ関係の仕事してんだよ」
「そうか、似合ってると思ったけどな〜昔の悪ガキだからこそ出来る仕事じゃん」
「うん、まぁ〜色々合ってね・・」
「ふ〜ん、大変だね色々、でも今の仕事もターちゃんらしいじゃん!」
「イチも一家構えるなんて・・スゲェな!・・大変だろう!」
「あぁ、うん…人のこと言える柄じゃねぇけど…勘違いした若いバカ多いからね…年少でばっちり教育して下さいよ!人としての基本を!ヤクザの前に俺らも人だからさ!…あぁ今違うから、ダメか!でも体操とか教えてるんでしょ、ガキに!」
「あぁ・・」
「ガキのうちに、大切な事はしっかり教えないとね・・人の道ね!人の道!」
「そうだな!本当、大事だよな!」
「ウチにもいるけど、そんなんだから暴力団としか言われねぇんだよ!って奴ら」
「任侠にならないってやつだね・・」
「そう!さすがターちゃんわかってんねぇ〜」
「で、今日ここで何してたの?」
「あぁ、今さちょっと建築の下請けみたいな事やらしてもらっていてさ・・
その打ち合わせで近くに来ててその帰りにここ通ったら見かけて
“あれ、もしかして”って店に入ってきちゃったよ!」
「よくわかったなぁ〜!俺も移動中でよくここでコーヒー飲んで行くんだよ!」
「ふ〜ん、じゃぁよくここ来るんだ!」
「木曜日はちょこちょこ寄るかな‥ほら、あの店員の娘、可愛いしな!」(笑)
「好きだねぇ〜」と爆笑する
しばらく、組織の事・イチの服役中の話などを聞き、昔話に・・・
「あっ!そう言えばさぁ〜西島くん覚えている?ターちゃんのタメで、中学の時かな変んなタイマン張ってたじゃん!(笑)」
そう、お互いのタチの悪い先輩に言われ、やりたくも無い、なんの意味もないタイマンを二人でダラダラと下手なプロレスのようなのをやったことがあった・・・
別の先輩が来て「くだらねぇ事させるなよ!お前らやめろ!」と止めてもらった。
「今度、何かあったらアイツやっちゃおうぜ!」なんて西島と話したっけ!(笑)
「もちろん覚えているよ懐かしいなぁ…あいつ今どこにいるの?何しているの?」イチの表情が変わり、小さな声で
「いやぁ〜死んじゃったよ・・」
「えっ!」
「首括って・・・」
「うそっ!」
イチは西島とは、ある時期から幼馴染と言う関係から義兄弟として付き合っていたという。
「西島くん…結婚して子供できて、でもちょっと障害のある子でね…女の子なんだけど、それを機にカタギになって頑張ってたんだよね・・」と話しだすが・・・
仕事の時間が近づいている・・・でも、聞きたい、もっとイチと話したい・・・
「イチ、悪い、時間が無い!でもその続き、どうしても聞きたい、俺は19時には終わる、お前今日時間あるか?」
「いいよ!」
「19時30分にまた、ここで良いか?」
「あぁ、そうかバイクだから呑めねぇかぁ〜・・・いいよ」
時間を確認し、仕事に向かった・・・

19時20分頃、再びその店に・・・まだイチは来ていない。
コーヒーを注文しさっきと同じ席に座った、しばらくすると店の前に国産の超高級車が止まり後部座席からイチがゆっくりと降りてきた、運転手に何やら声をかけ、片手をスッとあげそのまま店の中に入って来た、声をかけようかと思った時、イチもこちらに気付き、ニコッと笑い、カウンターで注文を・・
「あっ、酒もあんじゃん・・ターちゃん、俺ちょっと呑んで良い?」
「あぁ、良いよ呑みなよ!」
ニコニコにながら合掌し・・
「俺ね・・“生”くれよ!後、なんかつまみ見てぇなのある?」
「こちらに・・」とメニューを見せる店員
「じゃぁ〜これとこれ!」
生ビールを片手にニコニコしながら
「さっきとおんなじ席じゃん!悪いね一人で呑んじゃって」
そんなイチを見ていて、小学生の頃に良く行った駄菓子屋で見るイチの姿を見ている様な気持ちになり、思わず吹き出す!
「何?何がおかしいの?」
「えぇ〜、持って来たのはビールだけど・・何だかその姿がガキの頃、駄菓子屋で見たイチの姿とダブってさぁ〜(笑)」
「マジで?・・じゃぁこれちびっこコーラーっすか?(笑)」
「懐かしいなぁ〜!ちびっ子コーラ!」
「良く行ったねぇ…俺よくターちゃんにもんじゃ取られたっけなぁ〜はははぁ〜」「ハハっ!くっつきも〜らい!ってね・・、あれエッ君が得意だったんだよ」
「あぁ〜そうだ・・懐かしいね・・・」しばらくそんな話が続いた
「で、西島・・・」
「おぅ、そう・・だからさぁ・・娘ができて・・その娘にはちょっと知的障害があってさぁ、でも凄く美人で、性格っていうのかな、すごく良い子で、本当に可愛い子だった・・西島君もすごい可愛がって一生懸命だった・・“俺は、コイツのために…”って本当に頑張っていて、どこに行くにも連れて行ってさぁ・・俺と飲みに行く時にもよく連れて来てね・・ホステスは娘と遊ぶのが仕事みたいな!(笑)
(娘の将来のためにも、この会社大きくして、娘が安心して暮らせる様にとか、いろいろなことを勉強したり、考えたりしながら、本当に毎日頑張っていた‥
人ってここまで変われるんだと思った。本当に感動した・・、会社も順調に大きくなり、従業員も20人くらいに増え、仕事が丁寧だと評判になり周囲からも信頼される様になっていた・・そんなある時、某大学の建築学部を卒業し一級建築士を目指しているという、まぁよく言う優秀?な男が入社して来た、“学校で学んだこと活かすためにも、まず、みんなで現場に立っていろんなこと、現場じゃなきゃわからない事、仕事はもちろん、働く仲間の事もしっかり理解してくれ”って・・期待を込めて西島は彼に話し、また自らも彼から学ぼうとした。
初めは、素直に従っていたが・・徐々にそいつの仕事ぶりがいい加減になり、何かあると、自分は元々建築士になるためにここにいるので、職人になるためにここにいるのでは無いのでと文句を言う様になり・・ある時、安全のために、しっかり確認しなければならない事をいい加減に行い大きな事故につながってしまった・・その事故で職人の一人は重度の障害をおい、その補償やらで大変な事に・・確認を怠った本人は自分には関係ないと知らんふり、他の社員との間にも溝ができ、お客様との間でもトラブルを起こす様になり・・信頼も徐々に薄れていった。しかし、何とか、その大卒・他の社員のためにと必死で頑張っていた・・方々に頭を下げてまわり、社員の仲を執り持ち必死だった・・
大卒の男は、また、同じようなミスをした・・
あわや再び大事故に・・西島は厳しく一喝した。
“だから、こんな事は俺の仕事じゃないんですよ!そんなに心配なら他の奴にやらせればいいじゃないですか、だいたい古いんだよ、ここにいても学ぶ事はないのでやめます”とそれっきり来なくなる。
西島はそれでも何とかしようと男の家に行ったり一生懸命だった・・
その頃から徐々に・・仕事のキャンセルが増えて来た、不審に思い調べると・・
大卒があちらこちらで有る事無い事悪評をふれ撒いていたらしい・・
会社自体も限界を感じる様に・・
西島は社員に迷惑をかけられないと同業者や仲間に頼み社員の再就職等必死で行った・・それでも数名の社員は残り会社の再建に必死だった・・
そんな中、西島の奥さんが心労も重なったのだろう倒れた・・しばらく入院し回復はしたものの体調の悪さは続く・・奥さんは娘を連れ実家のあるの九州に帰り養生をしながら時折、西島の所に米や食材を送っていたという。
ある時、
借金の返済が遅れそうだと貸主に相談したところ、思いもよらぬ言葉が・・
貸主はニヤニヤと笑いながら
「そんな状況で大丈夫かい、いっそ美人の奥さに稼いでもらったら・・」
西島は耐えた・・
「いやぁ・・あいつは十分に力になってくれています。これ以上は」
「そうか、じゃぁ娘さんだな、障害があって何もわからないんだろう!可愛い顔してんだから何とか稼ぎ・・・いやいやこれは冗談だよ!冗談!」   
西島の中で全てが崩れ落ちる様に・・ただ怒りだけが・・許せない・・・・
気づいたら、目の前で貸主の男はぐったりしていた。
傷害で1年半の実刑を喰らった・・その間、社員が何とか会社を存続させた)
出て来てからも西島君は頑張っていたんだけど・・
結局奥さんの両親から離婚を突きつけられてさ・・・一人ぼっちになって…
でも娘と奥さんにはしょっちゅう手紙書いてね、汚ねえ字で!
ちゃんと親父と別れたとは言え、旦那していたんだけど・・
俺もたまに、会っては仕事手伝ったりしてたんだけど、厳しくてさぁ・・
そんで最近連絡ねぇなぁって思ってたら・・・・首括って死んじまったよ・・
孤独だったんだろうな!寂しかったんだろうな!なんでもっと頼ってくれなかったんだろう!何で気づいてやれなかったんだろうって思うよ!」
「そうか・・・・」何も言葉が出なかった・・
「葬式は家族葬っての?ひっそりと残った社員と俺と・・で、社員と相談して、俺が今引き継いで細々とやってんのよ!」
「奥さんと娘さんは?・・」
「あぁ、会社から月々送ってたんだけど…もうやめてくれって言われて、今は」
イチは、大きくため息をつき・・「何も死ぬこたぁねぇのに・・ねぇぇ」
「そうだなぁ・・あいつの思いを考えると居た堪れなくなるな・・」
「カタギなって、家族のために一生懸命生きてたのによ・・あの西島君がだよ!散々暴れて悪い事もしたよ…でもさぁ反省して、キッパリやめて、真面目に、本当に一生懸命やってたんだ、本来あの人はすごく優しい人なんだよ、思いやりがあってさぁ、人のために、自分が損しても一生懸命になる人なんだよ・・俺一番許せねぇのは“心ちゃん”(西島の娘の名前とこの時知る、いい名前だと思った)の事をああ言う差別したというか馬鹿にしたって言うか・・・あの野郎の事、マジで取ってやろうかと思ったよ!・・」
「その怒り、当然の怒りだよ!誰だって許せねぇよ」
「だよね!本当の悪って何だい!俺は西島君は悪くねぇって言いたい、テメェより心は綺麗だって言いたい!そりゃぁ俺たちはどうしようもねいことしてるかもしれねいけど・・テメェより綺麗な心は持ってるって言いたいね・・ターちゃんならわかるよね!」
「わかる!昔の仲間や、少年院の少年達と接して来て・・本当に感じた事だよ!」「俺たちみたいなのが、言ってもわかってもらえないかもしんねぇけど・・
みんなもっと本当の姿ってか、中身ってか、人をよく見ろよ!って言いてぇんだ!
お前ら高い金出して何勉強して来たんだよ、馬鹿野郎って!俺んとこ来いよ!しっかり人間教育してやるよ!って」と熱く語るイチ・・
「お前の言うとおりだ・・本当にそう思う!」
少年院でのある少年の言葉を思い出した・・
「自分たちは確かに悪い事をし、多くの人に迷惑をかけて来ました。ヤクザになり、親を泣かせ、それを棚に上げて言うわけではありませんが・・自分たち以上に人間として許せない事、悪い事を何食わぬ顔でしているのに善人として、社会的にも優遇され、裏で高笑いしている人がたくさんいるんです。自分も愚かな馬鹿野郎ですが、そう言う人間だけにはなりたくない・・・心からそう思っています」
「西島君の何がいけないんだよ・・元ヤクザだから?あんなに一生懸命頑張ってたのに・・ふざけんななよ!・・・西島君にも俺、怒ってんだよね!死ぬなよ!って!マジで勝手に死ぬんじゃねぇよって・・でも苦しかったんだよなぁって、可哀想で・・何だかよくわかんねぇけど・・」
イチの心の中が、メチャクチャな話の中から痛いほど伝わって来た・・
「ねぇ、ターちゃん、また会えたらその時は呑もうよ!俺らきっと縁があるよ!」「おぉ、そうだな!ゆっくり呑もう!もんじゃ行くか!」
「いいね!」と笑った顔は小学校時代の顔だ!
「じゃぁ〜!」と連絡先を交換する事もなく別れた・・
ちょっと粋だなって思った!
悲しく、辛い話だった・・
でもすごく大切な事が詰まった話だった・・そして再会だった。
西島が合わせたのかな?なんて思ったり・・・
イチの暖かい心を感じた、偶然にもここでイチに会えて良かった。
イチとの縁にも感謝だ。この話を聞いてもう十数年経つ・・西島が大切にした娘や奥さんはどうしているだろう・・イチは相変わらずだろうか?

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