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【疼痛緩和 基本のキ】日本で使える6種類の医療用麻薬の基本的特徴を解説【医】#52

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「6つの医療用麻薬の特徴」です。

動画はこちらになります。

「医療用麻薬はどのように使えばいいのか」とよく質問を受けます。確かに、今では医療用麻薬の数は増え、投与経路も様々ですので、迷う人も多いと思います。しかし、医療用麻薬は使い方を間違えると、効果がないばかりか、有害事象が起こり得ます。

この記事を見てくださっている方は、治療科も違ったり、主に診察している患者さんが、治療中だったり終末期だったり様々だと思います。しかし、どの立場でも、ご自身の患者さんに、最適な医療用麻薬を最適な投与経路で使うことが、疼痛緩和の基本になります。ですので、それぞれの立場で、自分なりの判断基準が必要になってくると思います。

私の医療用麻薬選択の判断基準は、以前の記事(医#51)でお話しましたが、自分なりの判断基準を作るには、医療用麻薬の特徴を知ることが大事です。

今日は、現在日本で使える6種類の医療用麻薬の、それぞれの特徴についてお話します。この記事はあなたの医療用麻薬の判断基準を作る際に、必ずお役に立ちますので、ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。


医療用麻薬の特徴を知る理由

昔は医療用麻薬と言えばモルヒネだけでしたが、現在日本で使える医療用麻薬は6種類に増えています。モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォン、タペンタドール、そして、メサドンです。この記事では一般名でお話します。

それぞれの医療用麻薬には特徴があり、患者さんによって適応が変わってきます。
そのことを知っておかないと、患者さんの疼痛緩和が適切にできません。基本的緩和ケアは、緩和ケア医だけでなく、治療医の先生方も担当するので、これら医療用麻薬の特徴は知っておく必要があると思います。

以前の記事で私が医療用麻薬を使うときの判断基準をお話しました。それには5つあります。

1.内服できるかどうか
2.使用状況:オピオイドナイーブか、すでに使っているのか。
3.時期:治療中か、抗がん剤が終了した時か、終末期か。
4.症状:痛みの度合い、痛みの性状。
5.状態:腎機能障害、肝機能障害などの患者さんの身体状態、服用しやすさ

この5つです。

今回は、現在日本で使える6種類の医療用麻薬の特徴をお話します。


モルヒネの特徴

まずはモルヒネです。

モルヒネは、芥子の実から取れるアヘンを原料に作られた、天然の医療用麻薬です。医療用麻薬の基本と言えると思います。

冒頭にもお話しましたが、昔は医療用麻薬と言えば、モルヒネしかありませんでした。他の多くの医療用麻薬は、このモルヒネを合成して作られています。

モルヒネは、内服、座薬、注射薬と、投与経路のバリエーションが豊富です。
呼吸困難の症状緩和にも効果があります。心不全などの非がん性疾患の呼吸困難の症状にも、使うことが可能です。

モルヒネの代謝物であるM3G、M6Gは体内で活性を持ち、眠気や呼吸抑制を起こします。腎臓で代謝されるため、腎機能が正常であれば問題ありませんが、腎機能が低下すると、体内に蓄積され、先ほどの眠気や呼吸抑制が問題となってきます。腎不全の患者さんには使うことは控えた方が良いと思います。

しかし、呼吸困難に効果のあるとエビデンスがある医療用麻薬は、現在モルヒネだけです。したがって、モルヒネは他の医療用麻薬が新しく出てきた今でも、必要な医療用麻薬です。


オキシコドンの特徴

オキシコドンは、モルヒネから合成された医療用麻薬です。今日本で一番使われている医療用麻薬かもしれません。

オキシコドンはモルヒネの次に発売された医療用麻薬で、おそらくモルヒネは怖い麻薬というイメージが根強くあり、モルヒネではない医療用麻薬ということで受け入れられたのかもしれません。

内服の徐放製剤、速放製剤、さらに注射薬もあり、腎不全患者さんにも使えます。
代謝物に活性はなく、腎不全患者さんにも使えるという点でモルヒネよりも優れていると言えます。

代謝物には活性はありませんが、μレセプターを介した副作用である、便秘、悪心・嘔吐、眠気はモルヒネとほぼ同じです。

医療用麻薬を使い慣れていない先生は、まずはこのオキシコドンを使い慣れることから始めるといいかもしれません。なぜなら、オキシコドンはほぼどこの施設でもあるからです。

しかし、オキシコドンを使うときには、薬物相互作用に注意が必要です。なぜなら、オキシコドンはCYP代謝なので、同じようにCYP代謝される薬物とは相互作用を起こし、血中濃度が下がるからです。抗真菌薬、抗生物質、抗がん剤でCYP代謝される薬物を使っている場合は注意してください。

また、オキシコドンの速放製剤であるオキノーム®は血中濃度の立ち上がりが早く効果は早いのですが、依存やケミカルコーピングを起こしやすい印象です。ケミカルコーピングとは、疼痛がないのに医療用麻薬を使った結果、依存を起こしてしまう状態を言います。これは、アメリカなどでは社会問題になっていますが、日本でも十分注意しなければいけない問題です。

ケミカルコーピングに関しては以前の記事を参照ください。

また、オキシコドンは呼吸困難の症状緩和には効きにくいので、その場合はモルヒネを使いましょう。


フェンタニルの特徴

フェンタニルは人工的に合成された医療用麻薬です。貼付剤の剤型があるのは、このフェンタニルだけです。消化器系の副作用は少ないと言われています。

フェンタニルはこの貼付剤という剤型が内服できない方にも使えることと、麻薬というイメージが少なく、患者さんからの抵抗が少ないので、多くの先生に使われているようです。

しかし、結論から言いますと、私はフェンタニルをファーストチョイスでは使いません。なぜなら、貼付剤なので、吸収・鎮痛に時間がかかりますし、吸収の個体差が大きいため、量の調整が難しいのです。また、安全域が狭いため、昏睡・呼吸抑制が起こりやすいことを知っておいてください。

私も、フェンタニル貼付剤を使って昏睡を起こしたケースを経験しました。ある高齢のがん患者さんでしたが、足にフェンタニル貼付剤を張ったまま、こたつで寝てしまい、昏睡になり、救急車で病院に運ばれてきました。こたつの熱により、薬剤の吸収が促進されてしまったのです。発見が早かったので、命に別状はありませんでした。先ほども言いましたが、これはモルヒネなどの医療用麻薬よりも、フェンタニルの安全域が狭いために起こったものでした。

もしフェンタニルが内服薬なら、飲むのをやめると速やかに血中濃度が下がります。しかし、貼付剤は昏睡が起こった時に薬剤をはがしても、皮下組織にすでに吸収されてしまっていて、急には血中濃度が下がらないのです。在宅での管理は、医療従事者が行うわけでないので、このように思いがけないことが起こりやすいことにも気を付けなければいけません。

また、動物実験では、フェンタニルには天井効果があることもわかっています。強い痛みの患者さんに、どんどん貼付剤を増量しても、すぐには痛みが取れないばかりか、大量に使用しても天井効果のため、痛みが全く取れないといったケースをたくさんみました。その際には、モルヒネの注射剤にスイッチングすると、痛みが消失したという経験も多くあります。

フェンタニルは内服できなくて、痛みがさほどひどくなく、病状も落ち着いている人に使用することを推奨します。詳しくは過去の記事を参照ください。


ヒドロモルフォンの特徴

ヒドロモルフォンも、モルヒネから作られた合成麻薬です。日本では一番新しい医療用麻薬です。

モルヒネ、オキシコドンと同じく、内服の徐放製剤、速放製剤、さらに注射薬もあります。効果・副作用も、モルヒネ・オキシコドンと同等だと思います。

モルヒネと同じくグルクロン酸抱合で代謝されますので、CYP代謝に影響されません。薬物代謝の影響を受けにくく、モルヒネのように代謝物に活性はありませんので、腎不全の患者さんにも使用可能です。

エビデンスはありませんが私の経験上、モルヒネと同様に呼吸困難の症状緩和にも効果があると思います。

また、速放製剤は錠剤なのはヒドロモルフォンだけです。粉薬や水薬よりも錠剤を好む人が多いので、この薬を選ぶ患者さんは多いです。この錠剤は味がなく、口の中で溶けるので大変使いやすいと思います。ヒドロモルフォンの徐放製剤は1日1回服用すればいいので、服薬コンプライアンスに優れていると思います。

発売当初、速放製剤・徐放製剤ともに錠剤なので、この二つを間違えて飲まないかと心配していましたが、間違えることはほとんどありませんでした。その理由は、徐放製剤は丸い形で硬いのに比べ、速放製剤は5角形なので間違えないのだと思います。

以上の点から、ヒドロモルフォンは治療中の患者さんには最も使いやすい医療用麻薬であると、私は思います。ヒドロモルフォンについては別の記事で詳しく説明していますので、参考にしてください。


タペンタドールの特徴

タペンタドールは消化器症状の副作用が少ない医療用麻薬だと言われています。モルヒネ、ヒドロモルフォンと同様、グルクロン酸抱合で代謝されるので、薬剤相互作用は少ないと言えます。

この薬剤の最大の特徴は、SNRI様作用があるということです。つまり、神経障害性疼痛に効果があるのです。しかし、即放製剤・注射剤が無いことは、大きなデメリットです。

また、剤型が大きく、やや飲みにくいようです。さらに25mg錠・50㎎錠・100㎎錠がありますが、全て大きさが同じなので、間違えないように注意が必要です。

タペンタドールは、神経障害性疼痛がある抗がん治療中の患者さんに、私は使っています。


メサドンの特徴

最後にメサドンですが、これは内服できる患者さんで、難治性疼痛のケースに使います。メサドンは、どうしても取り切れない難治性のがん性疼痛には大変効果がある場合があります。

しかし、他の医療用麻薬にはない副作用があるため、使い方には注意が必要です。慣れていない場合は、緩和ケア医などの専門家に問い合わせください。ここでは詳しく説明いたしませんが、過去の記事に詳しく説明しています。

過去の動画では商品名のメサペイン®と表記しています。ぜひご覧いただきたいと思います。

以上、6種類の医療用麻薬について話してまいりました。

最後に医療用麻薬を、野球のピッチャーで例えてみます。先発・完投型が、ヒドロモルフォン、オキシコドンです。モルヒネはベテランですが、まだまだ先発投手として現役です。リリーフが、タペンタドール、フェンタニル、抑えのエースがメサドンと言えるのではないでしょうか。

以上、この記事が、皆さんが医療用麻薬選択の判断基準を作る際の参考になれば幸いです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「現在日本で使える医療用麻薬は、モルヒネ、オキシコドン、ヒドロモルフォン、タペンタドール、フェンタニル、メサドンの6種類です。各医療用麻薬の特徴や、使う際のメリット・デメリットに基づいて適切に使用し、がん患者さんを痛みから解放してあげてください。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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