見出し画像

【放置厳禁】がんのやせ(悪液質)を改善するために最も効果的な治療法とは (エドルミズ®)【医】#54

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「エドルミズ®の効果的な使い方」です。

動画はこちらになります。

進行がんの60%が悪液質になると言われています。しかも、進行がんの初診時には半分近くの患者さんが、悪液質の状態だとも言われています。

悪液質になってしまうと、抗がん剤の効果が低下し、QOLも下がっていきます。したがって、悪液質の進行を抑えることは、患者さんの予後やQOL改善のためにはとても大切になります。

そんな悪液質の治療には、エドルミズ®が有効ですが、実際に使ってみると、あまり効果を感じられないという声もよく聞きます。しかし、エドルミズ®を効果的に使うにはポイントがあり、それを外しているがために、効果を感じられないでいるのです。

今日はエドルミズ®の効果的な使い方についてお話します。

この記事は、若いがん治療医の先生、エドルミズ®を効果的に使いたい方、悪液質を改善したいと思っている方に、ぜひ見ていただきたい記事です。ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。


エドルミズ®を効果的に使うための重要論点

エドルミズ®は2021年に発売された、がん悪液質に対する日本初の治療薬です。エドルミズ®は、グレリン様作用薬と呼ばれる作用機序を持つ経口薬です。

グレリンは、主に胃から分泌される内在性ペプチドで、受容体に結合すると、体重・筋肉量・食欲・代謝を調節する複数の経路を刺激します。

エドルミズ®はグレリンと同様の働きをすることで、がん悪液質の患者さんの体重と筋肉量を増加させ、食欲を亢進させる作用があります。

しかし、実際に使ってもあまり効果がないという声も良く聞きます。それには理由があるのです。エドルミズ®を使う悪液質の時期を間違えているからです。

実は、エドルミズ®は早い時期に使うと効果があるのです。後で詳しく説明しますが、悪液質には、前悪液質、悪液質、不応性悪液質の3つの段階があります。

エドルミズ®は、3つの段階のうち「悪液質」の時期に使うということが大切なのです。不応性悪液質になった段階、すなわち終末期に使っても効果はないのです。

つまり、患者さんが悪液質のどの時期にあるのかを診断できなければ、エドルミズ®を効果的に使うことができないということです。したがって、エドルミズ®を効果的に使うには、次の3つのことが重要です。

1.悪液質の診断をする

具体的には体重減少、食欲低下、筋力低下、倦怠感が患者さんに起こっていないかを観察することです。

2.正しい時期にエドルミズ®を使う
3.エドルミズ®と同時に食事・運動指導をする

この3点です。それではそれぞれの論点を詳しく説明していきます。


悪液質の診断をする

悪液質は、適切な時期に適切に治療すれば改善できます。そして、それができれば、患者さんの抗がん治療が継続でき、生命予後を延長することが可能になるのです。

悪液質になると、食欲低下・体重減少の他に、倦怠感・筋肉減少が起こります。筋肉が減少することで、筋肉疲労のための痛みが起こります。さらに、そういった症状が精神的にも影響し、不安・抑うつなどの症状が起こってくることもあります。

これらの症状を、できるだけ早期に見つけることが大事なのです。

悪液質の定義は色々あります。エドルミズ®の適応基準となる悪液質の定義を紹介します。

過去6ヵ月間で5%以上の体重減少と食欲低下があり、
1.疲労感・倦怠感
2.全身の筋力低下
3.CRP0.5mg/dl以上、Hb12g/dl以下、Alb3.2g/dl以下のいずれか1つ以上
1,2,3,のうちの2つ以上当てはまる場合、悪液質と診断できます。

しかし、悪液質の定義には当てはまりませんが、過去6ヵ月間の体重減少が5%よりも少なく、食欲不振・代謝異常が起こってきた状態を前悪液質といいます。

前悪液質でも、食事療法や運動療法などの適切な対処をすることで、悪液質にならないよう予防できることも明らかになっています。

一方、不応性悪液質は、悪液質がさらに進んだ状態です。不応性悪液質になると、起きている時間の半分以上を、横になった状態で過ごしているくらいのADLになります。

不応性悪液質になると、パフォーマンス・ステイタスではPS3以上となり、抗がん剤治療はできなくなっています。予想される余命は3カ月未満です。不応性悪液質の時期は終末期、それも終末期後期といって良いと思います。

つまり、悪液質には段階があり、前悪液質・悪液質・不応性悪液質があります。後で詳しく話しますが、エドルミズ®は不応性悪液質になる前に使うことで効果を発揮します。

線引きすることは難しいですが、まずはエドルミズ®の効果が発揮できる状態の悪液質なのかどうかを、正しく診断することが重要です。


正しい時期にエドルミズ®を使う

エドルミズ®を適切な時期に使うと、悪液質が改善されます。食欲が戻り、体重が増加し、疲労感・倦怠感が無くなります。そして、抗がん剤治療も継続でき、患者さんの生命予後を延長することが可能になります。

エドルミズ®は悪液質の早い時期に使うことが重要です。その時期は早ければ早いほど良いこともわかっています。具体的には、前悪液質、悪液質の時期です。

とはいっても現時点では、前悪液質の時にエドルミズ®を処方すると、保険適応にはなりませんので、悪液質の定義に当てはまる時期に使うべきでしょう。

ではなぜエドルミズ®を悪液質の早期に使わなければいけないのでしょうか。それは、不応性悪液質になると、がん細胞の増殖スピードが速くなり、悪液質自体も改善が困難になるからです。

不応性悪液質の時期にエドルミズ®を使っても、焼け石に水といった状態になるのです。すなわち、不応性悪液質の時期では、エドルミズ®は効果が無いといって良いと思います。

したがって、エドルミズ®は不応性悪液質になる前の、できるだけ早い時期に使うようにしてください。


エドルミズ®と同時に食事・運動指導をする

悪液質の治療において、非常に大事な点をお話します。

それは、エドルミズ®のような薬だけの治療では、悪液質の改善は十分ではない、ということです。つまり、悪液質の治療には、薬に加えて、栄養療法、運動療法を組み合わせて行う必要があるのです。

それぞれ単独では効果が乏しいので、これら3つを組み合わせて行うことが大切なのです。それゆえ、がん悪液質の治療には、栄養療法・運動療法の専門家とチームを作り、医師のあなたがチームリーダーとなり悪液質に対処してください。

これら具体的な悪液質の治療については、以前の記事で詳しく解説していますので、参考になさってください。

最後に、エドルミズ®を処方するための大事な点をお伝えします。それは、e-learningを受講しなければいけないことです。

今では少し緩くなって、メーカーから情報提供を受けるだけでも、処方できる資格が得られるようになっているようです。詳しくはメーカーにお問い合わせください。

それらを学び理解してから、患者さんにエドルミズ®を処方するようにしてください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「エドルミズ®は、がん悪液質の改善に効果のある優れた薬ですが、早い時期に開始することが最も重要です。悪液質を早期に発見し、エドルミズ®の処方と同時に、食事・運動指導も一緒に行いましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん・ご家族・医療者向けに発信をしています。

あなたのお役に立った、と思っていただけたたら、ぜひ記事にスキを押して、フォローしてくだされば嬉しいです。

また、noteの執筆と並行してYouTubeでも発信しております。

患者さん・ご家族向けチャンネルはこちら

医療者向けチャンネルはこちら

お時間がある方は動画もご覧いただき、お役に立てていただければ幸いです。

また次回お会いしましょう。さようなら。

ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。