雪は温かい。(後編)
『雪は暖かい?』
どうにか、その言葉を理解しようとするが、わからない。
なぜなら、私の知っている雪というものは、冷たい、寒いのだから。
だから、素直に聞いてみた。
「雪は暖かくなくて、寒いんじゃない?」
その問いに返ってきた言葉は、
「いいや、雪は、あったかいんだよ。」
「雨は冷たいんだけどさ、雪はあったかいんだよ。雪は、たくさんあれば……
なんていうかな、囲われるから寒くないのよ。
かまくら、もそうでしょ?
中に入れば暖かいでしょ。
みんなに囲われて、温かいのよ。だから、寒くないの。
誰に言われた訳でもなく、一緒に帰ってた。
居残りの子がいたら、
終わるまでみんなで待って下校してた。
1列になって、先頭は5年生、最後尾は6年生で、それ以外の1〜4年生中間に、年長者が守るように集団下校していた。
1年生には、雪の山道は厳しくて、年長がおぶってあげて道を歩いてやった。
誰に言われた訳でもなく、自分たちが考えて動いてたんだ。
今、それを想うと、小さい子達が、
よくやったなぁと、
ありがたかったなぁと、本当に涙が出てくる。」
と、
笑みに目に涙を浮かべながら話していた。
ちなみに、
この会話は、同じ内容であと2回続くのだが、
これは認知症によるものだからしょうがない。
けれど、
繰り返し聴くからこそ、分かってくることもあるのだ。
それは、
彼女の言う、『雪はあったかい』は、
雪と関連するその思い出、
全てが記憶の中で混ざり合って出てきた言葉だったのだ。
だから、雪は寒いでも冷たいでもなく、
『雪は、温かい』なのである。
これは、私の勝手な推測でしかない。
けれど、
寒く厳しい環境だったことよりも、
記憶に強く残るのは、
人と過ごした温かな思い出だったのだろうと、
そう思う。
今日は、
夕方から深夜にかけ、
外は冷え込み、大雪となるようだ。
帰路につくころは、
きっと雪が降っていることだろう。
けれど、
なんだか今日は、心地良く帰れそうだ。
だって、 雪は温かいのだから。
終わり。
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