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探索型リサーチについて自分の中で言語化できたこと

Goodpatchでデザインリサーチャーをしている米田と申します。
この投稿は Research Advent Calendar 2023 の19日目の投稿です。
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Goodpatchでは、1年半前に「Insight Research」と名付けた探索型リサーチの提供を開始しました。

下記が「Insight Research」の実施事例プロセスです。
リサーチ実施前の調査・分析からインタビュー実施・分析・アクションにつなげるところまでを範囲にプロジェクトを行っています。

この投稿では、最近自分の中で言葉になってきた、「チームで探索型リサーチを行うこと」の側面について書いてみたいと思います。

クライアントワークで探索型リサーチを行う方や、また事業会社内で探索型リサーチをされている方でも他の部署を巻き込んでリサーチプロジェクトを行う場合が多いと思いますので、事業会社で働かれているリサーチャーの方々にも何か少しでもヒントになればと思っています。


1. きっかけとなった海士町研修

探索型リサーチについて自分の中で言葉になってきたのは、海士町で「株式会社風と土と」の皆さんが提供されている研修である「SHIMA-NAGASHI」に参加したことがきっかけです。

私は現在、北海道上川町に住み、上川町役場での探索型リサーチの仕事をしています。その一貫で、上川町の魅力を活かした事業として上川町に1週間ほど住み込んで行う企業研修事業を行っています。この研修事業をより良くするヒントを得られるのではないかということで、「SHIMA-NAGASHI」に2023年8月、参加させていただく機会を得ました。

「SHIMA-NAGASHI」の詳細については公式HP・一緒に参加した長南さんの投稿を参考にしてください。

この「SHIMA-NAGASHI」で、参加当初の目的に加え探索型リサーチの仕事に対する解像度が上がったことは想定以上の収穫でした。(他にも、自分がやって行きたいこと・大切にしたいことを言語化出来たり、他社から参加していた「SHIMA-NAGASHI」同期とのつながりが出来たりと得るものの多い研修でした。)

公式HPで紹介されている内容ですが、「SHIMA-NAGASHI」は「身体知・内省・対話」のサイクルで成り立ちます。

SHIMA-NAGASHI公式より
SHIMA-NAGASHI公式より

自分なりに改めて図にしてみると、下図になります。

プログラムを一つ行うたびに、参加者・運営のみんなで輪になって「何を感じたのか、何を考えたのか」を言葉にする時間がありました。だからこそ、プログラム体験中は五感を総動員して身体知を得て、さらにその身体知を言葉にしてみようというマインドセットが形成されていました。

例えば、「SHIMA-NAGASHI」プログラムの中の一つに海士町の方々と対話するものがありました。対話させていただいた方のお一人が海士町町長である大江さんでした。この具体的な体験を、先ほどの図に落とし込んでみます。

大江さんと対話することで身体知を得て、何を感じたのか・何を考えたのかを自分の中でふわふわとした言葉にして、そしてそれを他の参加者・運営の皆さんに話し、質問をもらうことで言語化していきました。

研修の終盤には、全てのプログラムを振り返っての言語化の時間もありました。

2. チームで行う探索型リサーチも同じ体験かもしれない

「SHIMA-NAGASHI」から帰ってきて、Goodpatchで行っている探索型リサーチプロジェクトについて振り返ってみた時に、「チームで行う探索型リサーチも同じ体験かもしれない」と考えるようになりました。

この考えをもとに図にしてみたのが、こちらの図です。

1つ目の対話=ステークホルダーとの対話で身体知を得る
ユーザーやそのご家族、あるいはもっと広いステークホルダーに話を聞かせていただいたり、生活を見せていただいたりすることが「1つ目の対話」だとします。
これは、「自分の勝手な判断軸を外してみたステークホルダーに対する新しい解釈・洞察(=インサイト)を身体知的に得る」ことなのではないかと思います。一問一答のような形で問いかけ答えをもらうのではなく、対話をしていくなかで、五感を通した体験から気づきや考えを得ていきます。

2つ目の対話=ステークホルダーとの対話という共通の体験を基に、チームで気づきや考えを共有し対話していく
「1つ目の対話」をチームみんなの共通の体験として、気づきや考えを共有しあい対話を重ね、他の人の視点を得ることでさらに気づきを得ていきます。

形式知化
親和図やフロー図など、その時々にあった方法で言語化・可視化し、アクションに結びつくようにしていきます。

3. 点と点がつながったこと①

Goodpatchでの探索型リサーチでは、クライアントのみなさんに出来るだけ一次情報に触れていただくようにしています。

インタビューを実施する場合、大人数ではインタビューに対応くださる方に圧をかけてしまうので、中継をするなど工夫しながら出来るだけ参加してもらうようにしています。また、家に訪問しての観察調査を行う際や毎日メッセージを送ってもらう日記調査を行う際も、出来れば一緒に参加していただけるようにと設計します。
オンラインでのインタビューであっても、逐語録をテキスト情報として読むよりも、参加することで圧倒的に多くの感覚を得られます。どんな間やテンポで話す人なのか、どんな表情なのか、どんな仕草なのか。その人の人となりを感じることになります。

これまでも「一次情報を得ることでたくさんの情報を得ることができる」と思っていましたし、その後のプロジェクトの質があがることを感じていたのですが、これは、「2つ目の対話として、ステークホルダーとの対話という共通の体験を基にチームで気づきや考えを共有し対話していくために、まずは1つ目の対話という共通の体験が必要だからなのだ」と気づき、だからこそプロジェクトの質があがるのだと腑に落ちました。

4. 点と点がつながったこと②

インタビューや観察調査などを行った後、クライアントの皆さんも含めたリサーチプロジェクトチームみんなで一緒に分析をしていきます。
ここでは「何が今回のリサーチでの問いにつながると思ったか」「何が面白い発見だったか」などをみんなで話し、気づきを深めて可視化しながら進めて行きます。そして、アクションにつながるように、発見や気づきを言語化•可視化して行きます。

分析についても、クライアントの皆さんを含めたみんなで話しながら進めていくことでなぜプロジェクトの質が上がっていたのか、それは、「2つ目の対話=ステークホルダーとの対話という共通の体験を基に、チームで気づきや考えを共有し対話していく」ことが行われていたからだと思います。

5. 点と点がつながったこと③

普段やっている探索型リサーチプロジェクトを捉え直した時に、もう一つ、自分の中で点と点がつながったことがあります。
元々Goodpatchで働かれていた柿迫 航さんという方がおられます。
柿迫さんはコーチング資格をお持ちで、社員向けに研修やコーチングをしてくださっていました。以前、柿迫さんがGoodpatch社内向けに、対話とは切り離せない「傾聴」についての研修をしてくださったことがありました。その時のスライドがこちらです。

まず、傾聴はジャッジする自己との戦いであると説明してくださいました。

他人を見る時に「年下だから」「男だから」「新卒だから」という観点が入ってしまうことはあるあるで、ありのままを受け取ることはとてもムズカシイ。。。

なぜなら他人へのジャッジ(反応)は自分が持っている価値観であり、人生の中で必要があったから大切にしてきたものだからです。

傾聴の第一歩は、「ジャッジしている自分にひとつひとつ気づくことで認めていくこと」だと説明してくださいました。

インタビュースクリプトをつくるとき、できるだけバイアスを省いた形で聞こうとしますし、リサーチの全体プロセスについても、「バイアスをなくすように」ということがポイントとしてあがります。

ですが一方で、「こんなバイアスを持って自分はみていたんだ!」という気づきは対話を始める第一歩なのではないかと思います。

そして、一緒に「1つ目の対話=ステークホルダーとの対話で身体知を得る」ことを体験したプロジェクトメンバーと「2つ目の対話=ステークホルダーとの対話という共通の体験を基に、チームで気づきや考えを共有し対話していく」ことを行うことは、この「自分のバイアスに気づく」ことに、とても有効なのではないかと思います。

あるクライアントさんと探索型リサーチプロジェクトをしていた時のことを思い出しました。そのプロジェクトでは医師の方々にインタビューをし、仕事観も含めた医師の価値観を理解しようとしていました。リサーチプロジェクトメンバーで対話をしながら分析を進めていた時、クライアントの方のお一人が「医師も、自分たちと同じ人間なんだな」とつぶやきました。これは、医師を「自分たちとは違う高尚な人たちだ」と捉えていたご自身のバイアスに気づかれた瞬間なのではないかと思います。医師へのコミュニケーションやサービスを考える時に、「自分たちとは違う高尚な人たち」に対して考えるのと「自分たちと同じ人間」に対して考えるのでは、全く違ってくるのではないでしょうか。

6. リサーチャーの役割とは

つまり、グッドパッチで探索型リサーチとして行っていることは、下記の図の流れが回るようにしていくこと。

  • 問いにつながると考えて対話するステークホルダーとの「1つ目の対話」を行い、五感を通じて身体知を得ること

  • リサーチプロジェクトメンバー間での対話により気づきや考えを共有し、深めていくこと

  • 形になりつつある身体知を、さらに言語化•可視化し形式知化していくこと

であり、Goodpatchで我々が行なっている探索型リサーチャーとしての仕事は、もちろん第1の対話と第2の対話に関わるリサーチプロジェクトメンバーの1人としての顔もありつつ

  • 対話すべきステークホルダーと対話し身体知を得られるように(第1の対話の)場をデザインすること 

  • リサーチプロジェクトメンバーでの対話(第2の対話)の場をデザインすること

  • 暗黙知を形式知にしていくことに並走すること

なのではないかと感じています。

今回、Goodpatchで行っている探索型リサーチの捉え方が自分の中で言語化・可視化されたことで、リサーチャーとしての役割も見え方が変わり、どのように質を上げていけば良いのかがわかったように感じています。
今後もデザインリサーチ専門家として経験を積むと、さらなる側面が見えてくるのかな、また違う視点で探索型リサーチというものを見られるようになるのかなと思うとワクワクしています。
奥が深い世界ですが、今後もリサーチャーの皆さんのご知見も伺いつつ、そして皆さんとのつながりも持たせていただきながら楽しんでいきたいと思います。

アドベントカレンダー19日目、参加させていただきありがとうございました!読んでくださった方もありがとうございました。

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