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やばい、まじやばい! 俺の住む街は世界最強レベルの武装要塞都市だった

やばい、まじやばい!
何がやばいって、俺の住む大和市、郊外ののんびりした文教都市かと思っていたら、なんと世界最強レベルの武装要塞都市だった。
これは、やばい!

大和市ってのは、神奈川県の真ん中ぐらいにある人口25万人ぐらいの中堅の郊外都市だ。
都心から離れていることもあって、家賃を含めて物価が比較的安い。
小田急線と相鉄線の2線が使えるので、新宿、横浜、湘南に一本で行けるという利便性もあって、そこそこ住みやすい街だと俺は思ってる。

大和市の福祉政策の一丁目一番地というのが、”最高水準の健康で文化的な市民生活の実現”。

その目玉として「図書館城下町 大和市」をスローガンに、3年前に「シリウス」って名付けた日本一巨大な図書館を駅前の一等地にぶっ建てている。
なぜ図書館なのか、なぜシリウスなのかはよくわからない。
なんでだろうな。

とにかくこのシリウス、図書館なんて感じがまるでしない。
外観は、ちょっとデザインに力の入った巨大ホテルかショッピングモールって言っても誰も疑わないレベル。

去年、ここに引っ越してきた俺には、どうしてそんなものがこの街にあるのか不思議だったけど、広くて、静かで、スタバまであって、本好きの俺にとっては最高の施設だと思ったよ。
シリウスの中には、文化ホールとかもあって、演劇やらコンサートやらの催しものも沢山やっている。行ったことないけどね。

そのうえ、そんな超でっかい図書館があるってのに、街中に移動図書館が走り回っている。どんだけ本が好きなんだよ。大和市民!
あちこちで見るから、多分何十台ってレベルで移動図書館を走らせている。

スマホで検索して、読みたい本の予約、返却申請すると、わざわざシリウスに出向かなくても、GPSで位置を把握して移動図書館が来てくれる。
だから本の受け取り、返却は、ファミレスでも牛丼屋でも公園でもどこでもいい。

で、大和市のもう一つのスローガンが、”分断の解消と融和”。

というのも、大和市ってのは、大和駅を中心に、南北に走る小田急線と東西走る相鉄線とで街が四分割されていて、地区同士の交流がほとんどないうえ、お互い反目しあってきたという歴史があったんだ。

で、市は”分断の解消と融和”の第一弾として、それまで地上を走っていた相鉄線を全て地下に埋設した。
相鉄線が地下にもぐったことで、それまで線路で南北に分断されていた地区が交流できるようになって、南北間での反目はほぼ無くなったそうだ。
線路があったところは、全部緑地公園や広場となって、今や南北双方の市民の憩いの場となっている。

街を東西に分断している小田急線もそのうち地下に埋設されるだろうって街の人は言ってる。

言葉で言ってもわかりにくいだろうから、図にしてみた。
大和市はだいたいこんな感じだ。

大和市

見ての通り、大和市は米軍施設に囲まれている。
だから、外人さん(正確には米軍関係者)が普通に街を歩いていたりする。
街の中の店、公共施設はだいたいどこも英語が通用するし、ドルでの買い物もできるって話だ。
だから、ちょっと外国っぽい雰囲気があるって言えばあるかもしれない。


そんな文教都市大和の裏の顔がついにあらわになったのが一昨日の夕方だった。

俺が閉館間際のシリウスの5階の見晴らしのいい図書室に残っている最後の利用者だった。
俺が残っていたのは、シリウスの館長のおっちゃんと、景色を見ながら、どんな本が好きかについて話をしていたからだ。
俺は歴史モノが好きで、特に戦記が好きなんだ。で、館長も戦記が一番好きだって事で二人で大いに盛り上がってたんだよ。

そしたら、けたたましい金属的なサイレンとEMERGENCY!EMERGENCY!って いうでっかい館内放送が鳴り響いた。
スマホからも警報がガンガン鳴った。この前の大震災の時に鳴ったアレだよ。

何事かとスマホ見たら、
敵ミサイル発射。大和市に向かって巡航中。着弾まで1分40秒! 注意!
って出てるじゃん。
「えええーーーーー!!」ってぶったまげたよ。ありえねー。

そしたら、ズーーーーンっていうものすごい地響き。
シリウス前の広場の地面の一画(5m x 5m)が左右にスライドして開くところだった。ええーーーっ!

10秒ぐらいで開ききると、中から3発の迎撃ミサイルがズドーーーンって一斉に発射された。 
3発ともゴーってすごい音を立てて猛烈に白い煙を吐き出しながら垂直にどんどん上昇していった。

市内のあちこちからも、同じように白い煙を立てながら垂直に上昇する迎撃ミサイルが何十発も発射されていた。
空に向かって何十本も白い柱が伸びていくようで、それはすごい眺めだった。

そしてはるか上空で、シュバ、シュバ、シュバって光が何回も明滅して、それからかなり遅れてドーーーーーン、ドーーーーン、ドーーーーンって重低音のすごい衝撃波が何回も伝わって来た。
飛来したミサイルが迎撃された音だった。

着弾するミサイルはないようだし、ちょっとほっとしてたら、今度はシリウス全体がぐいっと1メートルぐらい急上昇した。
壁という壁、柱という柱がメキメキ音を立ててたよ。
シリウスがこのまま崩れちゃうんじゃないかって俺は超びびった。正直。

そしたら、シリウスの館長のおっちゃんが、俺にウインクして、親指を立てて、大丈夫だって言った。
で、「本日天気晴朗なれども風強し。シリウス、大和駅に向けて発進!」って館内放送マイクで叫んだ。
なんだよ、それ。
館長、頭が狂ったのかと思ったよ。

そしたら、シリウスがウオーーン、ウオーーン、ウオーーンってすっげー唸りながら、ゆっくり、ゆっくり大和駅に向かって動きだした。えーーーっ!
館長によると、巨大なキャタピラー118機が、建物の下に着いているって話だった。
相鉄線跡にできた緑地公園と広場がシリウスの通り道になった。最初からそういう計画だったそうだ。

館長が「シリウスは直ちに大和駅と合体。小田急、相鉄への送電を全てレールガンに集中。充填完了後、米軍の敵軍事施設位置特定を待ち、直ちに反撃開始。敵軍施設を殲滅する!」って叫んだ。

30秒ぐらでシリウスは大和駅と合体して、超巨大シリウスになった。
もう見た目がどうなってるかなんて想像がつかない。
ただシリウスのへんてこなデザインっていうのは、大和駅とかっちりはまるようにできていたことだけはわかった。
窓から外を見たら、建物の外壁から砲塔が無数に突き出ていた。
まるで砲塔で作った巨大なハリネズミっぽい感じだ。

図書館の受付のおばちゃんが「大和駅とのシステム結合完了! 小田急、相鉄への送電全てをレールガンに集中設定完了!」って叫んだ。
そしたら、シリウスの空席表示システムが点滅しはじめて、次々に座席表示が緑から赤に変わって(普通ならそこに誰か座ってますって意味なんだけど)、全ての席が赤になった。
多分、充填完了ってことなんだろう。

また、おばちゃんが叫んだ。
「米軍より、敵軍施設位置特定できたとの打電あり! 反撃地点座標セット完了!」
おばちゃんがすっげー男前に見えたよ。

それを受けて、館長が「レールガン、北北西に向けて全弾発射!」ってマイクに向かって叫んだ。
そしたら、シリウスから沢山突き出ている砲塔から、音もなくシュパー、シュパーって感じでミサイルが次々に上空に向かって発射されていった。

レールガンの原理は俺にはよくわからないけど、とにかく火力は必要ないみたいで、強力な電磁波かなんかで砲弾を猛烈に加速させて打ち出してるらしい。
とにかく音が静かで、逆にそれがすごく不気味。

館長の話だと、レールガンから発射されたのは1500発のミサイル。
マッハ12で敵の軍事施設にほぼ全弾着弾して、一瞬で敵基地の基幹機能は壊滅するだろうということだった。

一回でも殴られたらたら、1500発殴り返すってわけだ。
そんなやつとは誰も二度と喧嘩したくないよな。

もちろん報復があるかもしれないから気は抜けない。
大和駅と合体して巨大軍事施設となったシリウスは、北北東に進路を取って、約12時間かけて瀬谷の米軍通信施設へと移動した。
これは、市街地からシリウスを切り離すことで、市街地を敵の報復攻撃の対象から外す=市民の安全を確保するということもあったし、市街地を米軍座間キャンプ(陸軍)、米軍厚木基地(空軍)、米軍通信施設&シリウス(レールガン)の3つで取り囲むことで、堅牢な要塞都市とするという狙いもあった。

それから、市内のあちこちから発射された迎撃ミサイルだけど、あれは全部移動図書館のトラックからだった。
なんと移動図書館は、重さ2.3kgの超小型迎撃ミサイルを2基搭載しているんだそうだ。
38台が市内を常に巡回していて、いざ何か起これば、最大76基のミサイルを一斉に垂直に打ちだして、市民を守ることができるようになってるんだそうだ。
今回は、各移動図書館から1発づつ、それにシリウスからの3発の合計
41発を発射して、飛んで来たミサイル5基を迎撃したということみたいだ。

レールガンについては、相鉄線の地下トンネルとレールを使った、とんでもなく長いやつも開発済みだって話だった。(これは超軍事機密な)
それだと理論上マッハ27ぐらいまで加速させることができるので、もはや迎撃するという概念が存在しない次元らしい。

館長は、大和は多分世界最強レベルの武装要塞都市だろうって言ってた。
”図書館城下町”なんて呑気なもんじゃないことは確かだ。

これから館長は、市長といっしょに国会に説明に行くんだそうだ。
なんでも大和市が、勝手に軍備をして、勝手に相手に反撃したことを、野党が国会で大問題として扱うって言ってるらしい。
もちろん政府は、大和市が米軍や大学、企業と組んでそういう準備をしていたことは知ってる。(国は技術もカネも出してくれたんだからな)
でも、当面はだんまりを決め込むつもりみたいだ。

今のところ、ネットの声は「大和市よくやった!」が大半だ。
敵基地はほぼ壊滅したようだからな。
世界も日本のテクノロジーに驚いている。大和市と軍事同盟をぜひ結ばせてくれって声も出てる。
軍事オタクは、大和で陸上版ヤマトが誕生!とか騒いでる。

「まあ、市民の命を守るためなら、砲塔を国会にだって向けますよって脅せば、なんとかなるんじゃね?」って館長は呑気に言ってる。館長は根っからの軍人だな。ありゃ。
市長は「あんまりぐだぐだ言うなら、大和政権を樹立して独立する」って言ってる。ちょっと漫画の読みすぎって気がしないでもないけど、それも案外悪くないかもしれない。

俺としては、大和駅が瀬谷の米軍通信施設まで移動しちゃって、通勤が超不便になったのが痛い。
最強の武装要塞都市もいいけど、新しい大和駅を早く作ってくれよ。市長。


(現実の大和市とはまったく無関係です。事実に一切基づかない完全なフィクションです。大和市のみなさん、ごめんなさい🙇‍♀)





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